通知表の評定とABC(観点別学習状況の評価)の関係【内申点】

 通知表には成績の数字「評定」と、各項目のABC「観点別学習状況の評価」が記されています。全てAでも、評定が5のことも4のこともあります。この理由はこれから解説しますが、同じAの中でも評価に幅があるからです。

 評定は多くの場合、入試に使われる点数「内申点」になります。2000年まではABCは評定のおまけ程度の扱いで、評定はABC関係なく結局テストで決まることが大半でした。

 しかし、2001年以降は評定とABCが関連づけられるようになりました。特に2020年度から「観点別学習状況の評価」が4項目から3項目になったのを受け、3項目の平均から評定を出すという評価法が広まっています。

 今回は、評定とABCの関係を解説します。なお、本動画では評定の持つ影響力が強い(高校入試への影響が少なくない)中学校を前提とします。


1.数字とABCの意味:国の定義は曖昧(自由度がある)

 評定「5」は90%以上などと言われることがありますが、国レベルでは厳密な割合は定められていません。

 評定に関する国の方針は、文科省の「通知」という形で示されています。以下は文科省が定義するABCと54321の意味です。


(1)観点別学習状況

中学校学習指導要領が示す各教科の目標に照らして、

A:「十分満足できる」状況と判断されるもの

B:「おおむね満足できる」状況と判断されるもの

C:「努力を要する」状況と判断されるもの


(2)評定

中学校学習指導要領が示す各教科の目標に照らして、

5:「十分満足できるもののうち,特に程度が高い」状況と判断されるもの

4:「十分満足できる」状況と判断されるもの

3:「おおむね満足できる」状況と判断されるもの

2:「努力を要する」状況と判断されるもの

1:「一層努力を要する」状況と判断されるもの


 つまり、観点別のA評価とは、評定で言えば4以上にあたるのです。S評価という表記がないので、「特に程度が高い」5に当たるかはABC表記だけではわかりません。

 どんな知識・能力の獲得を目指すか=目標は学習指導要領で決まっています。しかし、どのくらいを「十分満足」と捉えるか、そしてABCと評定の関係性は、各学校が決めることとなっています。


評定は各教科の学習の状況を総括的に評価するものであり、「(1) 観点別学習状況」において掲げられた観点は、分析的な評価を行うものとして、各教科の評定を行う場合において基本的な要素となるものであることに十分留意する。その際、評定の適切な決定方法等については、各学校において定める。

(出典:文部省通知(2019)別紙2)

 

 後に出てきますが、実際には、各教育委員会レベルで目安が示されており、市町村教育委員会によっては統一基準を定めている場合もあります。


2.評定の出し方:数字とABCの関係

 「通知」ではないものの、多くの教育委員会が参考にしており影響力のある国立政策研究所の解説では、AAAなら5か4、BBBなら3、CCCは2か1が適当と示しています。


中学校については,「BBB」であれば3を基本としつつ,「AAA」であれば5又は4,「CCC」であれば2又は1 とするのが適当であると考えられる。それ以外の場合は,各観点のA,B,Cの数の組合せから適切に評定することができるようあらかじめ各学校において決めておく必要がある。

(出典:国立政策研究所(2019)p.17)

 

 しかし、この大まかな方針では評定5と4、2と1をどう区別するか決まっていません。県レベルの教育委員会の多くはもう少し細かい目安を示しています。なお、今回紹介する「目安」はあくまで目安であり「統一基準」などと明示していない限り、引用する都道府県の教育委員会が示していても、必ずしも各学校がそれに沿った評定を行っているとは限りません。ただ、一定の参考にしている場合が多いと思われます。


決め方1.観点別学習評価を内部的に5段階にして、3観点の合計15点満点から判定

 通知表上は同じAでも5点のAと4点のAがある、同じCでも2点のCと1点のCがあるということです。5点のAは内部的に「A丸」とされていることが多いです。Aの右上に丸だったり、Aを丸で囲ったり表記は色々です。

 そして、合計が14点以上で5、13~11点で4、10~8点で3、7~5点で2、4~3点で1となります。Aが3つでも、A丸が2つ以上なら評定5、A丸が1つ以下なら評定4となります。


 以上はあくまで例として示されていますが、那覇市(令和4年度から)のように、この評定法を市立中学校の統一基準としている場合もあります。


決め方2.観点別学習評価を各100点とし、合計300点満点の割合で判定

 観点別学習評価が基準になるのは決め方1と同様ですが、決め方1はBが一つでもあると評定5が自動的になくなるのに対し、こちらはBがあっても評定5の可能性があります。

 大阪府教育委員会の例示では、80%以上が評定5、80%未満65%以上が4となっています。1観点が60点でも、他2観点が90点なら計240点=80%となり、評定5の基準80%以上を満たします。


 ただし、合計が何%で評定5となるか設定は様々です。80%以上が評定4or5という例示もあります。

 また、83%以上が4or5というものもあります。一見中途半端ですが、これはABCをA:3点、B:2点、C:1点とした時、ABは6点満点中5点=83.3%、つまりCがなくAとBを均等に取った時を基準にしていると思われます。

 なお、東京都教育委員会は具体的な割合の例示をせず、各学校で定めるものとしています。


決め方3.色々な評定の決め方があり、複合的なものも

 紹介した評定基準はあくまで代表的なもので、実際には色々な評定の決め方があります。例えば、大阪府枚方(ひらかた)市は市内統一基準を定めており、観点別評価が3つともA(75%以上)+合計の目標到達度85%以上、という2条件を満たした場合のみ評定5となります。決め方1と2を合わせたような形です。


 なお、目標達成度は必ずしも3観点を均等に1/3にはしていません。教科によって、知識・技能40%で他2つが30%だったり、思考・判断・表現40%で他2つが30%だったりします。極端な偏りは国の方針から外れますが、多少の範囲なら教科や実施内容の特性などに応じて割合を変えてよいということです。

 以上のようにいくつかの決め方の中から、学校ごとにルールを定め、市によっては市内統一ルールを定め、それに従って評定が出されます。


3.先生を忙しくするだけの評定にならないように

 解説してきたように評定の方法は様々ですが、観点別学習状況の評価項目を重要視しているのは確かです。

 しかし、評定は「内申点」という形で高校入試の判断材料にもなりますが、(少なくとも建前上、そして教育の本質上は)出来ている部分・出来ていない部分を把握してより良い指導・学習に活かすためのものです。あれもこれも評価しないといけないから忙しくて生徒と向き合う時間が・指導を考える時間が無い、となると本末転倒です。そんなことより目の前の生徒の疑問に答えることの方が本質的です。


 評定は、児童生徒がどの教科の学習に望ましい学習状況が認められ、どの教科の学習に課題が認められるのかを明らかにすることにより、教育課程全体を見渡した学習状況の把握と指導や学習の改善に生かすことを可能とするものである。

(出典:国立政策研究所(2019)pp.16-17)


 評定について丁寧に説明する学校もあれば、そうでない学校もあります。しかし、どのような評定法にしても、きちんと説明することは不可欠です。ぼかすことで何が評価されるかわからない状況にして学校生活全体にプレッシャーをかけることは、気を引き締めさせる効果より、不安感・不信感が学業や他学校生活に支障を与える影響の方が圧倒的に大きいです。


 各学校では観点別学習状況の評価の観点ごとの総括及び評定への総括の考え方や方法について、教師間で共通理解を図り、児童生徒及び保護者に十分説明し理解を得ることが大切である。

(出典:国立政策研究所(2019)p.18)


 評定が先生や生徒を縛るものではなく、指導や学習に活かされるものであってほしいと思います。


(本文おわり。引用箇所など詳細は以下URLに記載)

https://note.com/gakumarui/n/n2f6f53d1ae09

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