高校

高校間の授業数の差 ~単位制度・留年の条件~

 1日6授業の時間割と1日7授業の時間割、同じ高校生でも学校が違えば授業時間数は違います。他にも、火水曜日だけ7授業あったり、土曜日に4授業あったり、1日5授業だけど60分授業だったり、高校の時間割は実に多様です。単位制や定時制、通信制など学校制度が違えば授業の扱いそのものが変わりますが、多くの生徒が通う全日制高校でもこれだけの違いがあります。

 また、留年の制度も各高校で異なります。1単位でも落とすと留年となる高校もあれば、何単位か落とせる学校もあります。

 今回は高校の授業・単位の制度について、国の決まりや現状(全国的な割合)を見ていきます。自分の在籍校や出身校の形式と全ての高校が同じではない、ということを知っていただければ、自分と異なる境遇の高校生に対する誤解を防げるかもしれません。


1.「単位」とは授業数(学習量)

 高校での「単位」とは「学習する量」のことで、実質的には科目の授業時間数を示します。これは「単位制高校」に限らず全ての高校で適用されます。現在の学習指導要領では、50分授業を35回受ければ1単位与えられるとしています。あくまで標準のため、きっちり35回しないといけないわけではありません。


ア 卒業までに履修させる単位数等 

(中略)単位については,1単位時間を50分とし,35単位時間の授業を1単位として計算することを標準とする。

出典:『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』


 週1回授業があれば1単位、というパターンが基本です。

 しかし、もう少し複雑な場合もあります。必要授業数を満たせば、1年間待たずに科目を切り替えてもよいです。2単位の授業なら目安は70回ですから、週3で行えば24週で終わります。

 また、授業の長さもあくまで標準であり、1単位=1750分(50分×35回)を基準に授業時間と回数を変える学校もあります。例えば、1回の授業を60分すれば30回(計1800分)で1単位となります。



2.単位数・時間数は学校の裁量

 以下の通り、法律上は高校の卒業に74単位以上が必要とされます。


 第九十六条 校長は,生徒の高等学校の全課程の修了を認めるに当たつては,高等学校学習指導要領の定めるところにより,七十四単位以上を修得した者について行わなければならない

出典:学校教育法施行規則


 3年間で74単位なら1年間に25単位、週5日間5授業で取れる計算になります。

 しかし、多くの生徒が通う全日制高校では、この時間設定はまずありません。以下のように、学習指導要領で全日制は30 単位時間(週5日間6授業)を標準と定められています。 


(3)各教科・科目等の授業時数等

(中略)

イ  全日制の課程における週当たりの授業時数は,30単位時間を標準とする。ただし,必要がある場合には,これを増加することができる。

(中略)

キ 各教科・科目等のそれぞれの授業の1単位時間は,各学校において,各教科・科目等の授業時数を確保しつつ,生徒の実態及び各教科・科目等の特質を考慮して適切に定めるものとする。

出典:『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』


 この標準通りにすれば3年間で90単位時間となり、学校教育法施行規則が定める卒業に必要な単位数74単位を大きく超えます。

 しかしこちらの通り、多くの学校がこの週30単位時間、あるいはそれ以上の授業を実施しています。


【公立高校週当たりの授業時数】

全日制普通科 29以下 5.1%、30~32 69.2%、33~35 25.0%、36以上 0.6%

   専門科 29以下10.6%、30~32 80.9%、33~35 8.0%、36以上 0.5%

(※50分授業以外の学校も1単位時間50分に換算してある)

出典:文科省「平成27年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査の結果について」


 こちらは公立のデータになりますが、標準より少ない学校は普通科の約5%、専門科の約10%と少ないです。標準を週3授業以上超える高校も普通科では4分の1ほどあります。こうした学校は週5日間7授業を実施、また(公立では少ないですが)土曜日授業を実施するなどしています。


3.単位は落とせるのか → 学校による

 法律で定める最低単位数より多く授業を設定しているなら、何個か単位を落としても卒業に必要な単位は取得できそうです。しかし、卒業に必要な単位数の設定は74単位を超える分には自由なため学校によって異なり、1単位も落とせない学校も、複数落としても卒業可能な学校もあります。

 こちらは公立高校での卒業必要単位数の設定と、履修させる単位数の設定です。多くの学校が、卒業に必要な単位数より多くの授業を実施しています。最低基準の74単位で卒業可能な学校は4分の1ほどありますが、最低限の授業数にしている学校は普通科・専門科ともに約1.5%しかありません。


【卒業に必要な修得単位数の設定状況】

全日制普通科 74 24.6%、75~84 27.5%、85~94 32.6%、95以上 15.4%   

   専門科 74 20.1%、75~84 32.2%、85~94 41.7%、95以上 6.1%

【卒業までに履修させる単位数の設定状況】

全日制普通科 74 1.6%、75~84 5.9%、85~94 58.4%、95以上 34.1%

   専門科 74 1.5%、75~84 1.8%、85~94 82.5%、95以上 14.2%

出典:文科省「平成27年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査の結果について」


 卒業必要単位数は各学校が定められ、全授業の単位を必要と学校もあれば、一部授業のみ必修で、後は単位数さえ満たせばよい学校もあります。ただし、学習指導要領で定められた必修科目があるため、全く必修単位がない高校は(おそらく)ありません。

 各学校で規定が違うので、必要があれば、自分の学校の単位ルールや必ず単位を取らなければならない科目がどれかを校則や問い合わせで確認しましょう。

 単位認定の基準は、国レベルでは特に定められておらず、こちらの通り学校が認めればよいとなっています。


(1) 学校においては,生徒が学校の定める指導計画に従って各教科・科目を履修し,その成果が教科及び科目の目標からみて満足できると認められる場合には,その各教科・科目について履修した単位を修得したことを認定しなければならない。

出典:『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』


 この「満足できると認められる」基準は学校それぞれです。試験の得点が単位認定に満たない、いわゆる赤点の基準は各学校で異なります。一定の合格点や平均点の何割に満たない場合など、赤点ラインは様々です。校則で明記されている場合も、そうでない場合もあります。

 実際には成績だけでなく出席日数も条件になっている場合が多いです。出席日数の基準は各市町村の教育委員会規則か各学校の校則で定められることが多く、3分の2以上の出席を求める所が多いです。

 1年生はこの授業、2年生はこの授業と学年ごとに授業が決まっている学年制において、必修科目を落とした場合の措置が同じ学年をもう一度行う「留年」(原級留置)となります。ただし、成績不十分の場合は、各学校で再試験や追試制度が定められて、基本的にはなんとか進級・卒業させようとします。


4.おわりに. たくさん授業を受ければ成果が上がるのか?

 卒業に必要な単位数は学校で大きく異なります。その判断は学校の裁量が認められています。

 しかし、高卒資格を得るために必要な単位数は74単位というのが法律の基準です。実際、通信制高校は100%が74単位で卒業できます。

 もちろん、それ以上の内容を学ぶことも意味がありますし、専門科によっては実習等の必要性もありそれなりの時間数がかかることもあるでしょう。 

 しかし、過剰な授業数を課す、あるいは課外として正規の時間以外で長期拘束する普通科高校も見られます。いたずらに多く長く授業をしても生徒は疲弊するだけで、効率は下がります。こうした状況を避けたいというのは、通信制高校や単位制高校が広く選択されている一因でもあるでしょう。

 例えば、全日制高校において74単位基準の週5日間5授業にすれば、生徒の能率もあがり、個別に指導が必要な生徒に応える時間も設けられ、授業と課外で一杯一杯の時よりも成果が上がるかもしれません。

 近年、九州の高校で朝の時間外に広く行われていた「朝課外」が相次いで廃止されるなど、長時間やればやるほどよいという誤った考えがようやく見直されてきています。正規の授業時数についても、生徒のみならず教員の負担や効率も考慮したものになっていくことを願います。


(おわり。本文章の引用箇所など詳細は、以下URLのnote版に記載しています)

https://note.com/gakumarui/n/nd17e36275e97

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