5.テストは通知表のためだけではない ―診断的・形成的・総括的評価―

 前回まで評定を中心に、外に示すための評価について述べてきました。一方で、第1回で「指導的評価活動」というものを説明したように、評価は指導上の意味を持ちます。

 評価は基本的に、目標に基づくものです。そのため、評価は目標にどれだけ足りないか、何が足りないか、そして今後どうすればよいか知る手掛かりになります。

 「テストは点数だけでなく、どこができなかったか確かめて、次にできるようにすることが大事だ」というようなことを多くの人が聞いた経験があると思います。テストは評定をつける大きな要素になりますが、自分が学ぶという意味では、むしろできない所を発見する方が大切になります。

 できれば授業の中で、その時間がしっかりと確保され、自らしたことの結果と向き合いよりよくしていく習慣をつけることが、将来にわたって自ら学ぶ力につながります。(言葉だけで、授業はどんどん進んでいき「自分でやってね」では、本当にしてほしい子どもこそ恐らくしない、あるいはできないと思われます。)


 さて、テストを受ける側にとっての評価の意味を述べてきましたが、実はテストをする教員側にとっても、テストは成績・評定をつける以外の意味があります。

 評価の種類には以下の3つがある、という考え方が教育界では広く知られています(※) 。


・診断的評価:はじめに、学習者の状態を診断する評価。結果をもとに、能力別クラスに分けたり、授業内容そのものを変更したりするのに使う。

・形成的評価:途中で、どの程度目標に近づいているかを判断する評価。結果をもとに、授業内容の予定を現状に合わせて変更したり、今後重点的に教える部分を意識したりするのに使う。

・総括的評価:終わりに、目標が達成されたかどうかを見る評価。


 実際の評価は、3つの分類としてキレイに分かれるとは限りません。例えば、1つの単元の終わりにテストをするのは総括的評価になりますが、それを基に次の単元の内容を考えれば形成的評価にもなります。(単元を終わりと見るか、年間など長い期間でみるかの違いとも言えます。)

 大事なことは、評価は「総括的評価」だけでなく、授業の進め方を見直す「診断的評価」「形成的評価」の機能を持っているということです。

 この考えは、教育は長く「総括的評価」ばかり見ていたが、途中で次の学習活動が有効に行われるために必要な修正部分を把握するために行うべき、という発想に基づきます 。

 ただし、評価を実際に学習改善につなげられるかは、その教員次第です。小テストを毎授業行うが、それを評定のための成績とだけ考えれば、ただ「総括的評価」を沢山行っているに過ぎません。(しかもその場合は、学習の途中の成果は最終成果と混同して妥当なものか、目標や評価基準と照らしてどうかに注意が必要です。)

 小テストが子どもにとって自分のできてない部分の発見と今後の学習につながり、教員にとって指導の改良につながっていれば有効といえます。しかし、指導に生かさない途中の評価をいたずらに増やすことは、不要な重圧を子どもに与えることになり得ます。逆に、小テストが全く成績・評定に反映されないというパターンもあります。その場合、完全に「総括的評価」の機能は外している、学習改善のための評価であると言えますが、「成績に入らない評価なんて意味がない」という価値観が子どもに強くある場合、不満に思うことが考えられます。


 教員が普段どのような評価をするかが、子どもの評価に対する捉え方にも、子どもの学習にも大変重要となります。しかし、適切な評価というのは意外と難しいものです。ただ○×をつければよい、というものではありません。次回は、学習につながる適切な評価、つながらない不適切な評価について考えていきます。


(第6章につづく)



(※)評価の3分類は、1960年代にアメリカのブルーム(Bloom.B.S)が開発した理論として、70年代から日本の教育界で広まった。この過程は古川(2015)に詳しい。


【参考文献】

◆古川治「B.S.ブルーム理論の日本における受容と発展:評価理論を発展させた梶田理論を通して」『甲南大学教職教育センター年報・研究報告書(2014年度)』p.13-28、2015年

◆松下佳代「教育の目標と評価」『系統看護学講座 基礎分野 教育学』第7版、p.135-150、2015年

◆平原春好・寺﨑昌男編集代表『新版 教育小事典』第3版、2011年

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