4.示されない評価基準、評価に対する見方の偏り 

 前回、評定は目標に基づいてつけられる、その数値の判断は各学校・教員で決めることを述べました。評定を決める上で、テストが全ての場合もあれば、ノートやプリントなど提出物、授業中の発表などが加味される場合もあります。

 多くの場合、その基準は公開されていません。大学であれば、シラバスという授業計画に、事前に評価の観点や割合を示して、学生はそれを見て了解した上で授業を選びます。しかし、小中高の場合、評価の観点や比重を事前に示す教員は多くありません。

 子どもにとっては、何が評価されるかわからない、常に油断ならない状況となります。テストだけでなく、提出物も気を使い、日頃の言動も気を付けなければならない。学校側としても、子どもが常に気を引き締めさせることができる、と言えます。


しかし、評価基準を隠して常にプレッシャーを与える手法は、2つの点で大きな問題があります。

 1つ目は、学習の妨げになる恐れや、学習を正当に評価できない恐れがある点です。例えば、事前に言われてないのに、プリントを回収されてから評価をつけられていたという経験がある方も少なくないと思います。しかし、真面目に取り組んでいたとしても、メモ書きをするなど提出するものと提出しないものでは取り組みやすいように扱いを変えることもあるでしょう。最終成果物になるなら体裁を整える、思考を広げたい段階なら枠をはみ出しても沢山書くとか箇条書きにする、マッピングにするというように形式を変えることもあります。いつ評価されるかわからず、何でも最終成果物として評価される「可能性」があるとなると、常に体裁を整えねばなりません。それは過度な負担になります。

 また、評価は目標に基づいて行われますから、評価基準を示すことは目標を明確にすることでもあります。何を頑張ればいいのかよくわからないでは、意図しない方向性に向かうこともありますし、そもそもモチベーションも上がりません。学習に取り組む上で、何をどう評価するのか、提出対象・評価対象は明確な方が学習効果も上がります。逆に、示さないことは学習の妨げになりえます。

 2つ目は、「評価されなければ意味がない」「評定に関係ないなら意味がない」という価値観を生じさせてしまう恐れがあることです。子どもの全ての行動を評価し、評定に加味することは現実的に不可能です。「全てが評価されるぞ、評定に関わるぞ、何事も全力だ」という姿勢は、どうしても「全てを評価して、評定に加味してあげます」というウソを含みます。すると、頑張ったのに評価されないことがあった時に、「評価に入ると思ったから頑張ったのに、なんだ関係ないのか、もういいや」となってしまいます。この時、子どもがその取り組んだこと自体に「価値がない」「無駄だった」と考えてしまうことは、とてももったいないことです。


 授業において、目標を明確化することで子どもの学習への動機づけが高まる という認識は近年広まり、冒頭に「めあて」「ねらい」を示す授業が多くの学校で意識されています 。ただ、学校は1授業の中だけでなく、学校生活全体を通して、漠然とした評価・評定に対するプレッシャー、評価に対する偏った見方が蔓延していないか気をつける必要があります。子どもに対して評価基準とその設定理由が明確に示されることは、目指す方向が明確になるほか、評価に対する納得感を高めますし、評価やテストに対する見方をより次の学習につながるものに変えていきます 。

 では、どのように「評価」や「テスト」を考えればよいのか、ということを次回から考えていきます。


(第5章につづく)


【参考文献】

◆田中瑛津子「導入時の具体的目標の提示が生徒の認知的側面および動機づけ側面に与える影響」『教授学習心理学研究』11(2)、p.42-53、2015年

◆愛媛県総合教育センター『分かる考える伸びる 授業づくりの基礎・基本 ~10のポイント~ ―目標と指導と評価の一体化を目指して―』2015年

◆鈴木雅之「ルーブリックの提示による評価基準・評価目的の教示が学習者に及ぼす影響 ―テスト観・動機づけ・学習方略に着目して―」『教育心理学研究』59(2)、p.131-143、2011年

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