3.評定の基準と公平性

 評定(通知表の5段階評価)はどのような基準(※1)でつけられているのでしょうか。

 評定は、主に学習指導要領の目標をもとに設定されています。例えば、中学校国語であれば、以下のような大きな目標と学ぶべき内容が設定されています。


各学年の目標及び内容

〔第1学年〕

1 目 標 

⑴ 社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに,我が国の言語文化に親しんだり理解したりすることができるようにする。

⑵ 筋道立てて考える力や豊かに感じたり想像したりする力を養い,日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,自分の思いや考えを確かなものにすることができるようにする。

⑶ 言葉がもつ価値に気付くとともに,進んで読書をし,我が国の言語文化を大切にして,思いや考えを伝え合おうとする態度を養う。

2 内 容

〔知識及び技能〕

⑴ 言葉の特徴や使い方に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。 

ア 音声の働きや仕組みについて,理解を深めること。

イ 小学校学習指導要領第2章第1節国語の学年別漢字配当表(以下「学年別漢字配当表」という。)に示されている漢字に加え,その他の常用漢字のうち 300 字程度から 400 字程度までの漢字を読むこと。また,学年別漢字配当表の漢字のうち 900 字程度の漢字を書き,文や文章の中で使うこと。

ウ …

<以下つづく>(参考文献①より)



 各学年の各教科で以上のような目標と内容が設定されていて、これをどの程度達成したかが評価されます。(なお、学習指導要領は公表物なのでネットで誰でも見ることができます。)文部科学省は、“各教科においては,学習指導要領等の目標に照らして設定した観点ごとに学習状況の評価と評定を行う「目標に準拠した評価」として実施”するとしています(参考文献②より)。

 ただし、何を評価するかの方針はあっても、評定の数字をどうするかは決まっていません。どのくらいの達成度なら5か、どのくらいなら1か基準は各学校・各教員の判断になります。公的な文章(参考文献③)では、以下のようなざっくりとした区分がなされています。


Ⅱ 評定

各教科の評定は,学習指導要領に示す各教科の目標に照らして,その実現状況を,

「十分満足できるもののうち,特に程度が高い」状況と判断されるもの:5

「十分満足できる」状況と判断されるもの:4

「おおむね満足できる」状況と判断されるもの:3

「努力を要する」状況と判断されるもの:2

「一層努力を要する」状況と判断されるもの:1

のように区別して評価を記入する。


 「特に程度」とは?「十分」「おおむね」「努力を要する」「一層」とはどれくらいか?というのは明確ではなく匙加減次第ということになります(※2)。

 また、評定の前にある個別項目のABC評価「「観点別学習状況の評価」もありますが、これも決してAが揃えば5になる、といったものではありません。先ほどの文章では、以下のように記されています。


評定は各教科の学習の状況を総括的に評価するものであり,「観点別学習状況」において掲げられた観点は,分析的な評価を行うものとして,各教科の評定を行う場合において基本的な要素となるものであることに十分留意する。その際,評定の適切な決定方法等については,各学校において定める。


 つまり「各学校で定める」のです。なお、観点別評価は新学習指導要領(小学校2020年度、中学校2021年度から)より「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の4観点から「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に順次改められます。評価の仕方は不変ではなく、時代で変わるということです。

 各学校で決めて大丈夫なのか、公平になるのかと思われる人も多いでしょう。例えば、東京都教育委員会は学校間で著しい偏りがないか、どのくらいの割合で5から1の評定を付けたか毎年調査して公表しています(参考文献④)。これを見ると、例えば評定5については、おおむね1割強の生徒に与えられますが、学校・教科によっては全く与えられない場合や3割の生徒に与えられる場合も中にはあります。もちろん、実際に多くの教員が見ても5に値する生徒がいなかったということはあり得るので割合の偏りだけで不適切な評価か判断はできませんが、制度上教員によっての高評価の取りやすさ・取りにくさが生じる可能性はどうしてもあります。

 なお、実際に自分が不適切な評定を受けたと思ったら、教員に指摘してみることを推奨します。そうすると、単なるミスだったということも意外とあります。(私自身、高校時代「これは低くないか?」と思ったことがあり担任に指摘すると、担任が通知表に違う番号の人の評定を書いていただけで、すぐ訂正してもらえたということがありました。)


  ちなみに、1998年改訂学習指導要領以前、評定は学校内で特定の割合になっていました(相対評価)(※3)。評定は学校内で特定の割合になっていました(相対評価)。例えば、5段階で「5」が10%、「4」が20%、「3」が40%、「2」が20%、「1」が10%という具合です。しかし、こうした集団内での位置を示す評価(集団準拠評価)は、得点が高い生徒が多い集団とそうでない集団で評定の取りやすさが変わってしまうこと、学習目標をどの程度達成したのかわからないことなどが問題でした 。目標を全員が達成していても必ず「1」になる生徒が発生するという点は致命的だったと言えます。現在は、評定は他者に関係なく、個人個人でどれだけ目標を達成したかを評価しています(絶対評価)。

 外に示すための評価が外に与える影響力は、実際はかなり限定的です。しかし、「外に示す評価に使うぞ」と示すことで子どもを動機づけることはよく行われます。しかし、そうしたやり方には問題もあります。次回は、「評価」に対する偏った捉え方が生む問題点を述べていきます。


(第4章につづく)


(※1)一般にはあまり気にする必要はないが、教育における評価「基準」と「規準」の区別は以下のようになっている(参考文献⑤p.36より)。


「評価規準」とは,評価観点によって示された子どもにつけたい力を,より具体的な子どもの成長の姿として文章表記したものです。例えば,評価観点の ʻ情報活用能力ʼの中に整理される評価規準としては「コンピュータを用いて,川のごみの様子を写真と文章を組み合わせながらわかりやすく説明することができる」というような文章表記になるでしょう。

一般に「評価基準」といわれるものですが,文部科学省は,判断基準という用語を公式に用いています。「判断基準」とは,評価規準で示されたつけたい力の習得状況の程度を明示するための指標を,数値(1・2・3),記号(A・B・C),または文章表記で示したものです。


(※2)「十分」や「A」評価に関して、文部科学省国立教育政策研究所は以下のような回答をしている。

Q.「十分満足できる」状況(A)はどのように判断したらよいのですか。

A. 各教科において「十分満足できる」状況と判断するのは、評価規準に照らし、児童生徒が実現している学習の状況が質的な高まりや深まりをもっていると判断される場合です。「十分満足できる」状況(A)と判断できる児童生徒の姿は多様に想定されるので,学年会や教科部会等で情報を共有することが重要です。

(参考文献⑥より)


(※3)もっとも、実際に調査書の評定をどう扱うかは各教育員会が決める。例えば、大阪府教育委員会は高校入試におけて2015年度入学者まで10段階の相対評価を用いていた。割合は次のようになっていた。10(3%)・9(4%)・8(9%)・7(15%)・6(19%)・5(19%)・4(15%)・3(9%)・2(4%)・1(3%)2016年度からは5段階絶対評価が用いられている。


【参考文献】

①文部科学省『中学校学習指導要領』2017年

②文部科学省教育課程部会「学習評価に関する資料」(児童生徒の学習評価に関するワーキンググループの資料より)2018年

③文部科学省「【別紙2】中学校及び特別支援学校中学部の指導要録に記載する事項等」『小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)』2019年

④東京都教育委員会「中学校等別評定割合(個表)」2020年

⑤田中博之「新しい評価Q&A」教科教育研究所編『CS研レポート』51、p.36-41、2004年

⑥国立教育政策研究所『学習評価の在り方ハンドブック』2019年

◆松下佳代「教育の目標と評価」『系統看護学講座 基礎分野 教育学』第7版、p.135-150、2015年

◆神奈川県教育委員会『カリキュラム・マネジメントの一環としての指導と評価』2020年

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