2.外に示すための評価(アカウンタビリティを果たす)

 学校ではなぜ評価が気になるか、もちろん褒められて気分がいい・叱られて気分が良くないというのもありますが、やはり俗に言う「内申点」(※)など評価が入試に関わってくるからという人が多いでしょう。テストの点数だけでなく、教員に対する態度も通知表の「関心・意欲・態度」の項目に関わるため、5段階の「評定」に影響します。また、生徒会に入る・ボランティアをするなど特別な行動も「内申」にプラスになるという理由、つまり入試に関わる評価を上げたいという理由でする人も少なくありません。


 評価には、外に向けての意味と、内に向けての意味があります。「内申点」など入試あるいは就職といった学校の外に対するものと、前回述べた「指導的評価活動」や褒められてやる気が上がるといった学校内での意味の2つです。

 学校には、子どもをきちんと教育したことを社会に説明することが求められます。(これを「アカウンタビリティ」 =結果を説明する責任という語で示すこともあります)学校の役割は子どもを教育することだけではなく、教育したことを社会に証明する必要があるのです。

 特に義務教育であれば、子どもは社会で生きるために必要な学習ができました(=「社会化」)しましたと示すことが必要です。また、特に工業や商業など専門分野では、その学校を卒業に値する=その専門分野で働く能力があることを証明(=「正当化」)する必要があります。そして、高校なら大学などと上級学校に進む上で、どんな成績だったか示して「選抜・配分」に使う情報を示すことも必要です。以上のように、外に向けての評価は、学校の社会的機能 を果たすために使われます。

 学校は評価をテキトーに行うわけにはいきません。例えば、ある工場が、工業の知識や技能がある人が欲しいから工業高校である程度の成績だった人を採用したのに、その評価がテキトーでその人が工業について何も知らなかったら、工場は大変困ります。これは入試も同じで、中学までの知識を前提に高校の授業が行われるのに、中学の勉強を全くしていない人が入ると、学校もその人も困ります。そして、テキトーな評価ばかりしていると、「この学校の評価は全くあてにならない」と社会的な信用を失います。


 ここまでの説明だと、評価はとてつもなく大事なもので厳格なものに思えます。しかし、「学校の評価はもっとテキトーだったぞ」「評価の基準はよくわからない」と疑問を持つ人もいるでしょう。

 実際、評価の基準は義務教育段階であっても、学習指導要領など国の決まりで厳密に定められているものではありません。また、入試をする学校、採用をする企業も、元の学校での評価だけでなく独自の入学試験・採用試験も行っています。つまり、学校での評価(成績)だけでその人を判断してはいないということです。

 外に示すための評価が外に与える影響力は、実際はかなり限定的です。とはいえ、高校入試を中心に評定が明確な点数になることがあるのも確かです。次回は、評定がどのようにつけられているのかという話です。


(第3章へつづく)



(※)「内申点」という言葉について

 内申点とは「内申書に記される成績」のことであり、内申書とは「入学者選抜の資料として、志願者の学業成績・性格・出欠状況などを記入して出身校の校長から入学志望校の校長へ提出する調書」のことである(デジタル大辞泉)。

 しかし、これらは公式用語ではない。内申書は公式には「調査書」という。内申点も公式用語ではなく、各教科の評定数値に特定の倍率をかけて入試に用いる点数は調査書点という表現がなされる場合もある(東京都公立高校入試 )。なお、内申点および内申書は公式用語ではないが、広く使われている語であることは文部科学省も認識しており、資料によっては「調査書(内申書)」という表現も見られる 。



【参考文献】

◆平田淳「『教育におけるアカウンタビリティ』概念の構造と構成要素に関する一考察」『弘前大学教育学部紀要』 100、p.89-98、2008年

◆中野真志・磯谷みどり「評価とアカウンタビリティにおける教育現場の重要性」『愛知教育大学教育実践総合センタ-紀要』11、p.1-8、2008年

◆藤田英典「教育における評価の構造と機能」『東京大学教育学部紀要』28、p.1-7、1989年

◆濱本真一「社会移動と教育機会不平等の理論的展開:知見の整理と今日の分析課題」『東北大学大学院教育学研究科研究年報』63(1)、p.33-51、2014年

◆松下佳代「教育の目標と評価」『系統看護学講座 基礎分野 教育学』第7版、p.135-150、2015年

◆東京都教育委員会「令和3年度東京都立高等学校募集案内」2020年

◆文部科学省「高等学校における学習評価に関する参考資料」(2016年6月15日高等学校部会)

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