評価

1.「評価」は数値だけではない ―指導的評価活動、評価の持つ影響力の強さ―

 評価は、与えられた人に大きな影響を与えます。

 例えば、提出したプリントに「A」と書かれて返ってくれば、多くの人は、特に何も指示がない場合「良い評価を得た」「これでよかったんだ」と感じます。

 これは、「A」は高い評価である、条件を適切に満たした証である、というイメージが定着しているからです。実際は、Aは単なる記号に過ぎません。単なる記号に対して勝手に意味を与えるほど、「評価」は多くの人の思考に定着しているといえます。


 評価と聞くと、通知表の数字、提出物に対するA・B・C、テストの点数、模試の合格判定などを思い浮かべる人が多いと思います。テストなどで測定(評価のデータを得ること) が行われ、ある尺度(基準)にもとづいて評価を決定する、つまり成績(出来栄えに対する評価)を出すことといい、多くは数字や記号で示されます。そのうち、外部への証明や入試での選抜に使用するものを「評定」といいます。(※)

 しかし、評価はもっと広い意味を含む言葉です。評定などの成績は評価の1つにすぎません。


 「評価」は「価値を判断すること」を意味します。教育では、様々な評価が行われており、「ほめる」「叱る」も評価ですし、他にも様々な方で評価しています。

 例えば、「よく頑張りました」といえば肯定的な評価、「そんなことしたらダメだ」といえば否定的な評価を与えています。また、「○○ができるようになったね。次は△△ができるように頑張ろう」といえば、評価しながら次の課題を提示しています。教育する側は、日々数値以外での評価を行っているのです。


 このような教える中で日々行う評価を「指導的評価活動」といいます 。「これはよい」「これはダメ」「こうするとさらによい」といった価値判断を示すこと(=評価)が子どもへの指導になる、ということです。教員が意図しても意図しなくても、こういった影響が生じます。

 重要な点は、これは直接評価した子どもだけでなく、それを聞いていた・見ていた子ども全員に影響を与える可能性があることです。例えば、授業の中で1人の子に「積極的に発言できて素晴らしい」と評価すれば、学級全体に「積極的に発言すべき」という価値を提示する意味を持ちます。「いまの説明の仕方は上手だね」と評価すれば、良い説明の仕方を学級全体に示す意味を持ちます。ただし、あくまで間接的な表現のため伝わらない子どももいますし、教員の意図とは異なる意味に伝わることもあります。


 さらに大事なのは、成績や点数といった数値評価、ひいては試験の○×△といった問題に対する正誤を判定する評価も、指導的な意味を持つことです。例えば、算数のテストで計算自体は正解でも、線を引くのに定規を使っていないという理由で減点すれば、「定規で線を引きなさい」という指導をしたことになります。そして、それは「計算結果が合っていても○にならない」=「線を引くことは、計算に匹敵する価値を持つ」という価値づけとなり、ノートに対して指導した時よりも印象強いメッセージになり得ます。この場合、必ず線を引くという指導の妥当性自体も疑わしい所ですが、実際こうした減点を食らい理不尽だと思った経験がある方もいるでしょう。


 ○×の評価も、数字の評価も、言葉の評価も大きな影響力を持つものです。子どもに信頼感を与えたり、学習の動機づけになったりする可能性もある一方で、意欲を下げたり、混乱を招いたりする可能性もあるのが評価です。大変重要な評価というものについて考えていきます。


(第2章につづく)



(※)詳しい「評定」と「評価」の定義について

 溝上(2020)は、“「評価」は、学習目標に基づく学習プロセスの善し悪しや達成の程度を数値化、可視化して、情報化する営み”であり、“それに対して「評定」は、評価を通じて得られた情報の核となる部分をもとに、成績づけや外部への証明、選抜の資料となる判定をおこなうこと”としている。

 義務教育における狭義の「評定」は、指導要録に位置づく「各教科の学習状況を把握することが可能なもの」として、「知識・技能」「思考・判断・表現」などを「観点別学習状況の評価」として、それを総括した段階評価を「評定」としている。(文科省2021)


【参考文献】

◆高田清「指導的評価活動概念の再検討」『安田女子大学紀要』44、p.149-157、2015年

◆松下佳代「教育の目標と評価」『系統看護学講座 基礎分野 教育学』第7版、p.135-150、2015年

◆溝上慎一「(理論)アクティブラーニングと評価について v2」2020年7月8日溝上慎一HP:http://smizok.net/education/subpages/a00038(AL%20assessment).html

◆文部科学省初等中等教育局教育課程課「新学習指導要領の全面実施と学習評価の改善について」2021年10月

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