5.「主体的・対話的な学び」と話し合い ―発言=学びではない―

 前回まで、話し合いには種類があり、目的を考えて行わなければうまくいかないことを述べました。今回は、「話し合い」がなぜ学校で過剰なまでに行われやすいかを考えていきます。


 学校での学習は「主体的・対話的で深い学び」(※)であることが求められています。この定型句は2016年12月の答申(文部科学省が呼んだ委員らがまとめた意見)に出てきた言葉ですが、基本的には今まで学校で望ましいとされる教育方針をまとめたような言葉です。

 こうした国が教育方針として示したキーワードは、教育委員会そして各学校の研修でテーマになり、授業に影響を与えます。こうした言葉は度々生まれ、2008年からは「言語活動の充実」、2014年からは「アクティブ・ラーニング」という言葉が使われました。

 「話し合い」活動は、以上のような21世紀に入ってからの教育方針にいずれも合致するものとして、積極的に行われました。しかし、目的を考えずむやみに「話し合い」をするような間違った捉え方がなされている、と指摘されています。例えば、東京都教職員研修センター(2018)は、“話合いを取り入れれば主体的・協働的と捉えられたりする等、「活動あって学びなし」の授業が多く見られる”、“主体的・対話的な学びをすれば深い学びになると誤った認識をして、深い学びを曖昧なまま形式的に捉えている”と指摘しています。

 一方的な授業ではなく、時代にも応じた授業にしっかり取り組んでいますよ、と示す上で「話し合い」はわかりやすい方法です。しかし、その目的は何か、学びになっているのかをしっかり考える必要があります。


 なお、「主体的・対話的で深い学び」は以下のように定義されています。


①学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」

②子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」

③習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」

(答申:参考文献①p.42-43より)


 以上の妥当性は検討の余地があるとしても、少なくとも、「主体的・対話的で深い学び」の「対話的」は、必ずしも話し声が飛び交っていることを指すのではない、ということは言えるでしょう。前に述べた「他者の考えを知る」「自分の考えを他者に伝える」と重なります。そして、その方法は時に書く課題の方が適切な場合もある、ということは述べた通りです。

 また、「主体的」という点についても、必ずしも発言数が多いことを指すものではありません。教員にとって、発言しない子どもの方が発言する子どもよりも、「わからないこと」など学習状況を知ることが難しくなり、間違いにせよ正解にせよ発言してもらった方が都合はいいです。しかし、授業の中で書くことや読むこと、聞くこと、黙って考えることもまた「授業参加」そして「学習」や「思考」の1つの形です。もちろん、話し合いの形が大いに学びになることもあるのですが、少なくとも「発言すること=授業への参加=主体的な学び」と単純にはいえないことは理解しておく必要があります。こう文字で書くと「それは“=”にはできないよね」とわかりますが、授業という場ではどうしても発言する人の方が流れを作ってくれるので、こういった評価に無自覚に偏ってしまう可能性があります。

 これは教員側だけでなく、子ども側もあまり発言しないことを否定的に捉えてしまう発言しない人を非難したり、発言できない自分を過度に責めたりすることにつながる恐れがあります。活動が苦手なのと、「学び」が苦手なのとは違います。活動はあくまで学びのための1手段に過ぎず、学びの形は多様であること、様々な学びの形が認められるは、全ての学習者に示すべきことです。


(第6章につづく)



【参考文献】

①中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」2016年

②中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」2008年

③中央教育審議会「初等中等教育における教育課程の規準等の在り方について(諮問)」2014年

④東京都教職員研修センター「『主体的・対話的で深い学び』の視点に立った授業改善 -深い学びにつながる授業づくり-」『東京都教職員研修センター紀要』17、p.3-40、2018年

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る