4.話し合いの内容と目的(2) ―目的を明確に―

 前回から話し合いにも種類があることを述べてきました。今回は後半です。


(3)問題解決のための話し合い

 ある問題について意見を交わし、見解をまとめ結論を出します。例えば、イベントの参加者が少なかった原因は何か・参加者を増やすにはどうすればよいか、といった問題状況・原因の分析や解決策・改善策の提案を行います。

 この問題には「教室を整理整頓するにはどうすればよいか」という子どもが実際に取り組める次元のものと、「商店街を活性化するにはどうすればよいか」といった実際には取り組み・解決に至らない次元のものもあります。前者もですが、後者は特に状況・原因の分析や解決策を考えることの練習、またそのテーマについて深く知る学習のための取り組みになります(例ならば商店街について、商業や地域について知る学習などになります)。  

 また、問題は一部の人だけ気づいていたり、もやもやしているけどハッキリ見えていなかったりすることも多いです。問題・課題を発見する力をつけるため、あるテーマの課題を見つける所から始めることもあります 。(こういった学習を取り立てて問題解決学習(PBL)と呼ぶこともあります 。)


 この話し合いは問題の設定が重要です。注意すべきは、設定した議題そのものが「解決すべき問題」として不適切なものになっていないかです。例えば、「授業でクラスの全員が手をあげるにはどうすればよいか」というのをクラスの子どもで話し合うのは適切でしょうか。この議題は、挙手・発言せず黙って考えることや悩むことを認めない価値観を前提としている点でまずいです。また、挙手するかや発言するかは、第一に教師の出す「問の質」や「問い方」にかかっていますので、子どもが解決可能な議題として提示することは不適切です。

 学級や学校の問題を話し合わせる事例は少なくありませんし、それがクラスを好転させることもありますが、ただ話し合えば自動的に良くなるものではありません。話し合いはただでさえ負荷の強い活動です。子ども自身に解決可能な部分は限られていることを承知した上での問題設定や指導が求められます。


 なお、基本的にこの問題は決まった答えがないものです。正解のある「問題」に対する解答を導くもの、例えば算数の問題「13人みんなが5人乗りのボートに乗るには、ボートはいくつ必要か」等が「問題解決」の授業として扱われることも多くありますが 、今回とは区別します。(教科書のある問題を集団で考えて正解を出すタイプについては「学び合い」の回で扱います。)

 


(4)多くの考え・視点を発見する話し合い

 問に対して、参加者が情報や意見を求める話し合いです。例えば「本当の友達とは何だろうか」という問に正解はありませんし、何か結論を導いて今後の人間関係を強制する目的ではありません。様々な考え方を出して、

人間関係の捉え方を広げていく、個人個人が持つ「友達だったら何時でも一緒にいるべきだ」といった固定観念を打破していくことなどがねらいとなります。

 教科の授業ではこの種類の問・話し合いが多いですが、1つの最適解を導く話し合いと混同しないことが大切です。例えば、物語文を読み「最後の主人公にどんな言葉をかければよいだろうか」という問を考えるとします。決してこの問いは唯一の最適な言葉かけの追求が目的ではありません。物語をどう読むか、そしてそれをどう自分が考えたか、その上で相手への言葉かけとして何を選ぶか、という要素が問われています。どこに力点を置くかは授業の進め方や物語の性質次第ですが、多様な読み方・考え方・言葉のかけ方(何も話さないという選択も含めて)があることに気づくことが目的になります。


 注意すべき点として、この種類の話し合いは、目的を示さない・設定しないことで、何をどんなモチベーションで話せばいいのかよくわからないということになりがちです。授業者が問う目的をはっきりさせておくのは当然ですが、子どもにもそれを示しておく必要があります。

 また、せっかく価値ある意見が、少数派だからという理由で言い出せなかったり、班の中で消えたりということも起こります。話し合う前にプリントに記入しておいて、後日気になった意見は改めて全体に還元するとか(これでも班など話し合いを見て「消す」子は少なくないのも注意です)、端から話し合いではなく書く課題にして、回収してできるだけ多様な意見をじっくり選んで、紙の形で全体に還元する(この際も自分の意見を読ませる形で発表させることもできる)という方法が適する場合もあります。出なかった視点の意見は教師側で補うことが良いこともあります。「話し合い」という形式を選ぶのはあくまで手段の1つであり、教科の学習や「他者の考えを知る」「自分の考えを他者に伝える」ことに有効な手段が他にあれば、話し合いに固執せずに選んでいくことも重要になります。



 以上、話し合いの種類とそれぞれをする上での注意点でした。どんな「話し合い」なのか参加者で想像していることが違うと、うまくいかないことになります。

 見てきたように、話し合いはとにかく行えばいいというものではありません。しかし、「話し合い」=良いこと・どんどん行うべきこと、と思われている面があります。次回から、なぜ、学校では話し合いが過大評価されているのかを述べていきます。


(第5章へつづく)


【参考文献】

◆神奈川県青少年総合研修センター『青少年支援・指導者にきっと役に立つ会議・話し合いガイド』2004年

◆岡本弘之「『社会と情報』における『問題解決』の授業実践」『情報通信i-Net』33、p.10-13、数研出版、2012年

◆早勢裕明「算数科の複式授業における本時の『展開』の在り方について:『問題解決の授業』での『個人思考』から『集団解決』の段階を中心に」『へき地教育研究』68、p.13-20、2013年

◆石野正彦「PBL型授業についての概観」『総合的な教師力向上のための調査研究事業実施報告書 今日的な教育課題を解決するためのPBL型授業モデルの構築』p.7-10、上越教育大学、2017年

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