2.話し合いの意味「他者の考えを知る」「自分の考えを他者に伝える」

 わざわざ学校という集団で学ぶ大きな意味として、「他者の考えを知る」「自分の考えを他者に伝える」ということがあります。全ての人が自分と同じ考えを持つわけではないと知り、考えを広げることが大切になります。


 まず、「他者の考えを知る」ですが、「異なる文化や価値観を持つ人々との相互理解の難しさを前提としつつ、共に生きていく」ことは社会で生きる上で不可欠です。そのためには、まず異なる価値観・考え方があることを知ることが大切です。このことを、教育ではしばしば「他者との出会い」という言い方をしますが、この時の「他者」はその人の考え方や行動、生き方を含んだ意味です。学習指導要領にも教育全体の目標として「あらゆる他者を価値のある存在として尊重」することが掲げられています 。

 人によって異なる考え方があることくらいすぐわかるよ、と思われるかもしれません。しかし、物事が変われば、案外それは見えなくなるものです。「人それぞれ好きな食べ物は違う」ことは理解できても、「ある物語を読んで感動するかどうかは人それぞれ違う」「文化祭が楽しみかどうかは人それぞれ違う」ことが理解できているとは限りません。事柄ごとに、様々な考え方があることを知っていく必要があります。

 もちろん、知るだけではなく、その先には考え方がぶつかった時どう調整したり対応したりするかなど難しい課題もありますが、視野を広げることは第一歩として大切です。

 この面で、「話し合い」で様々な他者の考えを聞くことは意味があります。

 

 そして、「自分の考えを他者に伝える」ですが、自分の考えを「間違え」や「通じないもの」と決めつけ、引っ込めて自分の中で潰してしまうというのも人間よくあることです。また、伝え方によって同じ内容でも全く違うように受け取られることがあります。

 また、コミュニケーションの失敗は伝える側だけに起因するものではありません。受け取る側、聞く側の態度や反応、そもそもの考え方や知識量などにも左右されます。

 話す側は「伝えること」、そして聞く側は「受け取ること」、その方法や姿勢を学んで経験していく必要があります。この面で、「話し合い」は経験として意味があります。


 ただし、とにかくできるだけ話し合いにすれば「他者の考えを知る」「自分の考えを他者に伝える」、「伝えること」「受け取ること」を学べるわけではありません。発言したことがまともに扱ってもらえなければ、発言者も意欲が下がりますし、聞く側もその人の意見から学べるものを捨てることになります。

 話し合いを「他者の考えを知る」「自分の考えを他者に伝える」ことを学べるものにする上での注意点は何か、また内容や状況によって、話し合いが学ぶために適切な方法ではないこともあることを、次回述べていきます。


(第3章につづく)


【参考文献】

◆小嶋祐伺郎「他者との出会いが生起する『深い学び』についての一考察 ―「自他の関係性の再構築」 にかかわる道徳授業の実践から―」『次世代教員養成センター研究紀要』4、p.139-145、2018年

◆文部科学省『小学校学習指導要領』2017年

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