6.文化祭の歴史(4) 戦後~現代 生徒中心の「文化祭」へ

 前回は、大正時代から戦前・戦中にかけて、演劇を中心とした「学芸会」が、運動会に並ぶ学校の2大イベントになったことを述べました。戦後、いよいよ「文化祭」が登場します。


 そもそも、戦前義務教育は小学校6年間だけでした 。旧制中学は現在の大学に近い感覚だったのです。戦後義務教育が9年に拡大し、現在と同じ6-3-3-4制となります。文化祭を先駆けて1948年頃始めたのは旧制中学であった高校など、戦前からの伝統ある高校でした 。


 戦後、中学・高校では、民主主義を浸透させる理念のもと自治的・集団的活動が推奨されました 。教科外の教育を「特別教育活動」(後の特別活動)と正規の教育課程に位置づけ 、「生徒会」は特別活動を発展させる組織とされました 。なお、位置づけを公的にしたのは、民主的価値観の重視もありますが、一方で戦後初期「生徒自治会」といった組織が、教員室の占拠といった過激な活動を行う事例が見られたため 、あくまで学校長から与えられた権限と責任の範囲内で行う ことを明確にする意図もあったようです。

 こうして、学芸会とは別物の、生徒が独自で考えて主体的に行う文化的行事として「文化祭」が行われるようになります。当初は、特別活動に位置づけられていた「クラブ活動」の成果を発表することが主であり、クラス単位ではなくクラブや有志が中心でした 。戦後の中学校では、長く正規の教育課程内にあり実質は放課後に活動する「クラブ」と、戦前に交友会組織から生まれた教育課程外である「部活動」という似た活動2種類がありました 。ただ、部活動も結局学校の先生が顧問をし、実質は何らクラブと変わらないものであったため、1998年改訂学習指導要領で必修「クラブ活動」は廃止されました 。現在でも、文化祭は文化部にとって重要な発表の場ですが、それは(正確には「クラブ」ですが)文化祭が始まった当初からだったのです。

 

 1960年代に入ると、クラス(学級)単位の参加が増えていきます。要因は、受験戦争の激化、それによる「クラブ活動」の衰退で文化祭も衰退したため、クラスを参加させ活性化させようとしたという指摘 があります。また、1960年代から各クラスで学級通信を出すことが広まる など、学級を中心に教育を考えて実践する動きが盛んでした 。クラスを軸にした教育の考え方が広まったことが、文化祭もクラスで参加するようになった大きな要因でしょう。

 なお、戦前は60人や70人学級もありましたが、国の「学級編制及び教職員定数改善計画」によって1958年から63年にかけて1学級あたり50人以下、64年から68年にかけて45人以下と定められました 。(91年には4人となっています。)クラス単位で何かするといっても人数が多すぎたのが、1960年代になると何とかなる人数になってきた…という面もあるのかもしれません。

 こうして現代まで、文化祭は学級を中心とするという考え方が引き継がれている、あるいはもっと強まっていると考えられます。クラス中心の象徴的な存在といえる「クラスTシャツ」は、シャツ制作会社によると1990年代ごろから普及したそうです 。


 以上、第3章から述べてきた文化祭の歴史でした。今までの章を踏まえて、楽しくない人も楽しい人も文化祭をどう考えていけばよいのか、次回で総括します。


(第7章につづく)


【参考文献】

◆金塚基「特別活動における学校行事のあり方に関する一考察:高等学校での集団的な応援活動の意義を通じて」『東京未来大学研究紀要』14、p.29-36、2020年

◆高柳真人「特別活動の歴史とその教育的意義」『びわこ成蹊スポーツ大学研究紀要』14、p.159-170、2017年

◆文部省学校教育局編『新しい中学校の手引』明治図書、1949年

◆猪股大輝「占領期文部省における生徒会論の成立過程に関する一考察:戦後公民教育構想から『新しい中学校の手引』まで」『東京大学大学院教育学研究科基礎教育学研究室研究室紀要』46、p.81-91、2020年

◆文部省『学習指導要領一般編(試案)昭和26年(1951年)改訂版』1951年

◆文部省編『学制百年史』帝国地方行政学会、1984年

◆野崎耕一「必修クラブ活動の廃止と今後の部活動の在り方について」『静岡産業大学国際情報学部研究紀要』 5、p.95-113、2003年

◆大木薫「高校生の意識変化と学園祭の変遷」『月刊ホームルーム』4(1)、1979年

◆木村学「学級通信の起源とその変遷:「日本作文の会」機関紙 『作文と教育』の分析を中心に」『文京学院大学人間学部研究紀要』21、p.135-142、2020年

◆久田敏彦「第10章 学級論・学校論研究 第1節 学校論」『教育方法学研究ハンドブック』学文社、2014年

◆国立国会図書館調査及び立法考査局(服部有希)「教職員定数と義務標準法の改正」『調査と情報』945、p.1-11、2017年

◆オリジナルTシャツプリント制作(株)プリズマHP:https://www.prismacreative.jp/columns/column09.html

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