2.決まりのない文化祭 ―目標は何か―

 前章で、文化祭の内容に決まりはなく、学校ごとに様々であると述べました。まず今回はその説明です。

 国の教育方針「学習指導要領」において、「特別活動」の章には以下の項目があります。(今回は中学校を紹介しますが、文化祭に関する決まりは中学も高校も大体同じ内容です。)なお、特別活動とは「特活」と定められた時間以外にも、学校での教科以外の活動全てを指します。

 以下、引用部分は読みとばしても大丈夫です。


〔学校行事〕

1 目 標

 全校又は学年の生徒で協力し,よりよい学校生活を築くための体験的な活動を通して,集団への所属感や連帯感を深め,公共の精神を養いながら,第1の目標(★)に掲げる資質・能力を育成することを目指す。

2 内 容

 1の資質・能力を育成するため,全ての学年において,全校又は学年を単位として,次の各行事において,学校生活に秩序と変化を与え,学校生活の充実と発展に資する体験的な活動を行うことを通して,それぞれの学校行事の意義及び活動を行う上で必要となることについて理解し,主体的に考えて実践できるよう指導する。

⑵文化的行事

 平素の学習活動の成果を発表し,自己の向上の意欲を一層高めたり,文化や芸術に親しんだりするようにすること。

(参考文献1より引用)


 つまり、学校行事の1種類である「文化的行事」を何か行うことが決められています。それを多くの学校は文化祭として行っているということです。

 定められているのはこれだけであり、極端に言えば何でも「文化」や「芸術」と言えます。生徒が集団で協力する活動で、それが学校生活の充実と集団の中で生きる力の育成に繋がると考えられれば、「文化祭」でなくても何でもいいということになります。


 なお、学習指導要領には「文化祭」という文字はありません。そのため、学校祭・学園祭など学校ごとに名前が違ってもいいのです。

 他に公式文章として、学習指導要領の文言を何倍も膨らませた「学習指導要領解説」というものがあるのですが、そこには「文化祭など」という文字が登場します。そこでは、特別活動の中でも特に生徒の自主性が高い行事として文化祭が挙げられています。


 学校行事は,学校が計画し実施するものであるとともに,各種類の行事に生徒が参加し協力することによって行われる教育活動である。また学校行事は,内容の種類や特質に応じて生徒の自主的な参加の仕方や程度は異なるが,多くの行事では,生徒による自発的な活動を幅広く取り入れることができる。

 具体的には,文化祭などにおいては,積極的に自分たちで作り上げていこうとする自主的,実践的な活動が期待できる。したがって,行事の特質や,生徒の実態に応じて,生徒の自主的な活動を助長することが大切である。その際,放任になることがないよう,また,発達の段階からいって生徒が活動のために必要な基礎的な知識や技能を十分身に付けていない場合もあるため,教師の適切な指導・助言が当然必要である。さらに,生徒が行事の意義を十分に理解した上で,自発的に参加し協力するようになることが大切である。

(参考文献2より引用)



 以上に記されているように、基本的に文化祭は、生徒が自主的に取り組む活動の多い学校行事といえます。とはいえ、「学校や地域の実情に合わせて行うこと」ともされており、実際にはガチガチに学校が決める場合もあると思います。

 そして、文化祭をすることで何を学ぶのか、つまり目標の話ですが、文化祭個別の目標は定められていません。「健康安全・体育的行事」(体育祭など)や「旅行・集団宿泊的行事」(修学旅行など)と同じ特別活動全体としての目標になります。先ほど「★」で記した「第一の目標」が以下になります。


⑴ 多様な他者と協働する様々な集団活動の意義や活動を行う上で必要となることについて理解し,行動の仕方を身に付けるようにする。

⑵ 集団や自己の生活,人間関係の課題を見いだし,解決するために話し合い,合意形成を図ったり,意思決定したりすることができるようにする。

⑶ 自主的,実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして,集団や社会における生活及び人間関係をよりよく形成するとともに,人間としての生き方についての考えを深め,自己実現を図ろうとする態度を養う。

(参考文献1より引用)


 つまり、①集団で協力する行動を身に付ける、②人間関係を形成・維持・調整する力をつける、③社会の中で自らの意志を持って生きる姿勢を持つ(ただ集団に流されて生きるのではない)、とまとめられます。後は、この目標を学校や生徒に合わせて最適化・具体化していき、それぞれの文化祭の方向性が決まることとなります。

 しかし、多くの教員は学校行事を無事に終えることに手一杯で、目標など考えていられないというのが実際のところかもしれません。実際は、こうした目標が意識されて行事の中身が考えられているとはあまり思えない、というのが正直なところです。


 ①~③はいずれも社会で生きる上でとても大切なことであり、簡単には身につかないことです。こんな大事な目標がある活動なら、なおさら文化祭中止なんてとんでもない、と思うかもしれません。

 しかし、この目標は特別活動全体のものです。文化的行事でなくてもいい、学校行事でなくてもいい、日頃のホームルーム(朝の会・帰りの会)でもいい、ということです。そもそも、文化的行事は「文化祭」であることも決まっていません。

 英語や数学といった教科の内容は、何をしなければならないかある程度目安があります。時間が足りないとなった時、何をしてもいい特別活動、特に多くの時間と労力を割く学校行事は削減の対象になりがちです。今回の感染症の広がりのような緊急事態が起こった時、学校行事は削られやすいといえます。


 さらに、特別活動の目標①~③は、なかなか測りようのない力です。どれだけ人間関係を形成・維持・調整する力をつけたかなど測りようがありません。当然、数値評価はありません。文化祭をしなかったから、こうした力がとても欠けてしまって生徒のその後の人生に大変な支障が出た、と明確に表れることはありません。教科の内容では、ある範囲を学習しなかったことでその部分の知識が丸ごと欠けることが考えられます。そして、欠けていることが試験や受験という形で明確に表れます。つまり、文化祭など行事での成長は目に見えにくいというのも、優先順位が下がる大きな理由となります。

 もちろん、これは文化祭や他の学校行事の意味は小さいということではありません。目に見えにくい・曖昧だからこそ、大切なこととも言えるでしょう。ただ、決まりの少なさや成長の曖昧さが、現実として削られる要因になっているのも現実ということです。


 説明してきたように文化祭には具体的にこれをしなさい、という決まりはありません。ところが、他の学校の文化祭にいっても「こんなの文化祭じゃない…」となることはあまりありません。何となく文化祭はこんな感じのことをする、という共通したイメージがあります。そのイメージはどこから来ているのか、次の章から文化祭の歴史を見ていきます。


(第3章へつづく)


【参考文献】

1.文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)』2017年

2.文部科学省『【特別活動編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説』2017年

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