4.係はクラスを楽しくすることが目的?


 そもそも、役割を担うことを学ぶだけなら、給食当番や掃除当番でも十分なはずです。なぜ、係をわざわざ作るのでしょうか。


 中には自分が楽をしたいから、という教員もいるかもしれません。しかし、多くの教員は係を子どもたちのためになることだと思っています。


 その意味を示す文章が、「学習指導要領解説」にあります。

 「学習指導要領解説」は国のきまりの説明書であり、これ自体はきまりではありません。しかし、多くの教員が参考にする文章です。

 以下は「係活動」を説明している部分です。(長いので流し読みしてください)


係活動は,学級の児童が学級内の仕事を分担処理し,児童の力で学級生活を楽しく豊かにすることをねらいとしている。したがって,当番活動と係活動の違いに留意し,教科に関する仕事や教師の仕事の一部を担うような係にならないようにすることが大切である。例えば学級新聞係や誕生日係,レクリエーション係など,学級生活を共に楽しく豊かにするために創意工夫しながら自主的,実践的に取り組むことができる活動を行うようにする。

係活動の組織づくりに当たっては,学級会の議題として取り上げ,学級にとって必要のある係を話合い活動で決定し,全員で役割を分担するなど,自主的,実践的に取り組むことができるようにすることが大切である。設置する係の種類や数は,児童の発達の段階とともに学級や学年の実態によって異なる。そのため,児童の創意工夫を十分に生かして計画し活動できるよう適切に指導することが望まれる。また,係活動を充実させるためには,協力して活動できるよう各係の人数を複数にするなど配慮するとともに,活動時間を確保する必要がある。さらに,活動予定やお知らせを掲示できる「係活動コーナー」の設置について,学校や学年として共通理解を図りながら取り組むことも大切である。

なお,係活動の指導に当たっては,「(3) 一人一人のキャリア形成と自己実現」の「イ 社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解」の内容と関連付けることが大切である。



 まとめると、子どもたちが自分たちでクラスでの生活を楽しくするために、自分たちで仕事を考えて係活動する、ということです。

 レクリエーション係、のようなものが生まれるのは楽しくするためです。


 これは国の文章ですが、実際、多くの学校で係を楽しくするためのもの、と考えています。教員を育てる大学の教科書にもこういった記述があります。


係活動とは、給食や清掃等の当番活動とは根本的に異なる。当番活動は、「ないと学級生活に支障をきたすもの」である。これに対して、係活動は、「なくても困らないが、学級生活を楽しく、充実したものにする上で不可欠な活動」である

(参考文献3 p.158より)


 クラスを楽しくする、クラスを充実させる、これは実は判断が難しい話です。

 楽しいクラスは全員が楽しんでいるクラス、一人も楽しくないと思わないクラスでしょうか。しかし、楽しいと感じる物事はそれぞれであり、現実的に全員楽しいというのは人数が増えれば増えるほど現実的でなくなります。

 クラスを充実させる、はもっと難しいです。学校であれば、全員がしっかりと勉強できていることが充実でしょうか。全員が余裕なく忙しく動いていれば充実でしょうか。


 小学生・中学生はそれぞれ自分の勉強であったり、人と話すことであったり、集団の中で過ごすことであったりを学んでいる最中です。人によって、極端に苦手なこともあります。

 自分が成長するのに必死な中で、「クラスを楽しくする」という目標も達成しなければならない(その判断基準もよくわからない)、これは大変なことです。

 その上、そのための方法を自分たちで考えるとなれば、それは至難の業です。結果、怒られないように、がっかりされないように先生の望む方向性を探るゲームになってしまいます。


 楽しくない時も当然あります。沢山の人といること自体が苦しいことという人もいるでしょう。つらくても苦しんでも必要なことと思って頑張ることはできても、「楽しみなさい」という命令はあまりにも難しいです。もちろん、「楽しみなさい」と直接言葉にする人はほとんどいないでしょうが、それに近い学級の雰囲気を作っている教員も少なくないと思います。


(5.役割意識 仕事ができなければ、クラスにいる権利がないのか につづく)



【参考文献】

1)文部科学省『【特別活動編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説』

2)菱村幸彦「学習指導要領の用件」『内外教育』6366、p.23、時事通信社、2014年

3)相原次男・新富康央・南本長穂編著『新しい時代の特別活動 個が生きる集団活動を創造する』ミネルヴァ書房、2010年

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