第3問

次の文章を読んで、あとの問に答えなさい。



 真面目に生きるためには、どうすれば良いだろうか?


 たとえば、与えられた《a》タスクをきちんと行う、というのは、果たして本当に真面目に生きているといえるだろうか。もちろん、いえるという人もいる。けれど、それだけでは駄目だと、筆者は考える。与えられたタスクをきちんと行い、それから、今度は、自分のための時間を設けて、初めて、真面目に生きている、といえる。この点に気づいていない人間は、しかしそれなりに多い。他人と、自分の、どちらにも気を遣える人間が、真の意味で真面目な人間なのである。


 一方で、与えられたタスクさえ、きちんと行えない、という人もいる。これはもはや問題外だろう。まずは、与えられたタスクは、きちんと全うしなければならない。それからでなければ、自分のための時間を設けることは許されない。与えられたタスクをきちんと行わずに、自分のためだけに時間を使う、というのであれば、その人の存在価値はないに等しい。自分で、自分に、存在価値はある、と思うことはできるかもしれないが、人間は一人では生きていけないから、必ず、どこかで、他人からはどう思われているのか、という点が気になるようになる。そうなったときに、駄目だ、と思うのでは仕方がない。今からきちんと与えられたタスクを全うして、自信を持って自分のための時間を設けられるように努力しよう。


 ところで、身の回りの整理ができない、という人も中にはいるようである。これは、ちょっと、意味が分からない。多種多様なものが、自分にとって最も使いやすい位置に置かれている状態を、整理されている、と呼ぶのであれば、自然な成り行きに任せておけば、必ず、整理された状態になる。つまり、整理できない人というのは、何らかの捻じ曲がった偏見によって、自分が管理するものを、最適な位置に置けていない可能性が高い。これは大問題だろう。いざというときに、そのものを素早く取り出して、使えないのであれば、自分の身に危険が及ぶ可能性が高くなる。そういった事態は、できるだけ避けなければならない。


 まずは、一度、自分の思考態度を省みて、余計な《b》バイアスがかかっていないか、と考え直すところから始めるべきである。たとえば、テーブルの上には、必要なとき以外は何も置いていてはいけない、といったバイアスがかかっているのであれば、でも、毎日使うものであれば、そこに常時置いておいた方が便利でしょう、ということに気がつかなくてはならない。そうやって、他人から無理矢理押しつけられた、いわゆる「常識」というものを、一つずつ打破していく必要がある。それらを打破した先に、自分が、いったい、何を見ることになるのか、それを常に念頭に置いて行動する。そうすれば、きっと、自分に最適な「ものの配置」が見えてくるようになるだろう。


 【A−1】さて、ここで、一端話をまとめようと思う。


 与えられたタスクをきちんとこなし、かつ自分のための時間も確保して、身の回りを整理するときには、自分にとって最も合理的な位置にものを置く。つまりは、こういうことである。


 では、話題を変えて、次の話をしようと思う。


 【B】多くの人間は、哲学からは何も生まれない、と思っている。これは、ある意味では正しい。たしかに、哲学は何も生み出さない。それどころか、思考という多大な投資をしておきながら、結果として時間を無駄にしただけだった、ということも多々ある。しかしながら、哲学について真剣に考えるのは、まさにそういったところに価値があるのである。つまり、時間を無駄にすることに価値がある。しかも、それは、本当の意味での無駄ではない。一時的に時間を無駄にすることで、その後の時間を決して無駄にすることなく、毎日を、楽しく、そして健全な態度で、生活することができるようになるのである。


 【C】哲学には、明確な答えというものがない。答えは、自分自身によって導かれなくてはならない。哲学は無駄だ、というのが貴方の答えなら、それはそれで良い。今後、貴方の人生では、きっと、もう二度と哲学というトピックスについて考える機会はないだろう。それは、つまり、無駄が減少したということでもある。その点に気がつくことができれば、それは貴方にとっての成長となる。


 【D】哲学と、科学と、宗教は、根本的な部分で深く繋がっている。表現方法が異なるだけで、抽象化してしまえば、言っていることはどれも同じである。詳細な説明は割愛するが、もし、貴方が、哲学や科学、それに宗教に触れる機会があれば、それらを横に並べて、遠くからじっくりと眺めてみると良い。きっと、それらが同じ色を帯びていることに気がつくはずである。顔を近づければ、おそらく同じ匂いを感じ取れる。そういった、ある種の直感は、しかし大切にしなければならない。人間の直感というものは非常に優秀で、同列の存在を瞬時に見分けることができる。これだ、と感じるものがあれば、それでは、どうして、これだと思うのだろう、と一度立ち止まって考えてみると良いだろう。


 またもや、話題を変えようと思う(これでは、何の話をしているのか分からないが、そもそも、私は、何の話もしていない)。


 【E】人間は、秒、分、時、そして、日、週、月、年、といった、様々に区切られた時間の中で生活しているが、それらは、本当は存在しないものである。単なる数字にすぎないから、本来なら誰もが従う必要はない。しかし、そういった共通の数字と単位がないと、互いに行動を合わせることができないから、現在では、仕方なく、皆がそれに従っている。従わなくても良いのなら、どれほど、個人的で、かつ快適な生活を送ることができるだろう。次は、この点について、少し考えてみようと思う。


 【F】たとえば、多くの人間は、朝に起きて、夜になったら眠る、という生活をしているが、それは一般的な型であり、あくまで「基本的な例」にすぎない。ところが、社会全体がこれに従っているから、それから外れると、異端扱いされることが大半である。人間には様々な《c》タイプが存在するから、朝よりも、夜の方が活動するのに向いている、という人がいてもおかしくはない(現に私はそういうタイプで、夜になるほど頭が回るようになる)。つまり、時間など、そういった種類の規定に従っていると、自分が本来持つ力を充分に発揮できないおそれがある。それは本当にもったいない。どのくらいもったいないかというと、二兆円を喪失するくらいもったいない。あるいは、ホールケーキを買ってきて、食べる前に道路に落としてしまうくらいもったいない。これらの比喩は、あくまで本当に単なる比喩にすぎないが、けれど、それでも、とてつもなくもったいないことは説明するまでもないだろう。というわけで、もし、自分が、社会的な規定から外れた方が、本来の能力を発揮できる、と気がついたのであれば、今すぐにそちらの方向にシフトするべきである。時間は有限だから、迷っている暇はない。迷っていれば、すぐに人は死んでしまう(しかしながら、人間は必ず死ぬ、というのも、今まで生まれてきた人間はそうだった、というだけで、貴方はそうでない可能性もゼロではない。自分が、絶対に死なない、という自信と根拠があるのなら、そういった観点に基づいて行動するのも、また一つの方法である)。


 【G】自分は夜の方が作業が捗る、と感じるのであれば、昼は寝ていて、夜になったら仕事をする、という方法を選ぶこともできる。もちろん、だからといって、そういった方法が認められていない会社に入って、無理に自分の要望を通してもらう、ということはできない。それは、仕方がない。だから、予め、そういう職種を探すか、どの時間帯に働いても良い職種、つまり、もともと時間とは関係のない職種に就く、という方法を採用することになる。これは、もちろん、仕事に限った話ではない。学生なら、夏休みになれば、一日中自由なわけだから、その間は夜に勉強して、朝になったら眠る、という生活をしても構わない。こういうことをすると、周囲の人間に、それは良くないから、今すぐやめた方が良い、と言われることが多い。しかし、それは、自分とはタイプの違う人間が言うことだから、自分にとってはあまり参考になる意見ではない。そういった意見は無視してしまっても構わない。その方が自分にとって得になるのなら、無視して当然である、といっても過言ではない。とにかく、自分の本当の意味での能力を見極める。これに尽きる、と筆者は思う。


 【A−2】さて、それでは、この辺りで、上記の内容をまとめよう。


 他人の話は無視する。つまり、こういうことである。


 この内容を通して、読者諸兄が様々なことに気がついて、今までとは異なる、新しい視点を持つことができれば、と思って私はこの文章を書いた。その通りになれば、私としてはこのうえなく嬉しい。私が嬉しく感じても、読者にはまったく関係がない。だから、今話した内容は、筆者の独り言として無視してもらって構わない(このように、他人の話を無視する、というのは、様々な場面で使えるテクニックである)。


 【H】ただ、最後に、一つだけ忠告をしておこうと思う。


 このように、如何にもそれっぽい言葉を使って、如何にもそれっぽい展開で記述された文章というものは、大抵の場合間違えている。これを知らないと、後々痛い目に遭う。それこそ、時間を無駄にする結果に繋がりかねない。だから、やはり、こういう場合も、人の話は無視するに尽きるだろう。


 どんなものでも、鵜呑みにしてはいけない。貴方は鵜ではないのだから、人間らしく、人間呑みをするべきである。人間呑みとは、すなわち、言われたことにそのまま納得するのではなく、批判的な観点から内容を見極める、ということを示す。


 というわけで、以上の内容は、すべて嘘である。


 読んでくれて、ありがとう。


 以上。


 【I】おぅわぁりぃ。



(出典『そんなものあるか糞野郎』)





問一 《a》タスク、《b》バイアス、《c》タイプ、の類義語を次の中からそれぞれ一つずつ選びなさい。



 《a》タスク


  ①リスク ②マスク ③リュック



 《b》バイアス


  ①キュリオス ②ウープス ③ホメロス



 《c》タイプ


  ①マップ ②トップ ③ホップ





問二 この文章のタイトルとして最も相応しいものを、次の中から一つ選びなさい。



 ①『筆者は真面目だと思って書いている』


 ②『真面目だと思って書いている筆者』


 ③『如何に真面目だと思い込ませるか』


 ④『真面目だと思い込ませるためにはどうするか』


 ⑤『そもそも真面目ではない』





問三 【A−1】『さて、ここで、一端話をまとめようと思う』、【A−2】『さて、それでは、この辺りで、上記の内容をまとめよう』とあるが、これ以下の一段落は正しいまとめになっているといえるか。あなたの考えを答えなさい。





問四 【B】【C】【D】段落では哲学について述べられているが、哲学に対する筆者の考えとして最も相応しいものを、次の中から一つ選びなさい。



 ①哲学は、カクカクである。


 ②哲学は、ガクガクである。


 ③哲学は、ムクムクである。


 ④哲学は、ピクピクである。


 ⑤哲学は、パクパクである。





問五 【E】【F】【G】段落では時間について述べられているが、時間に対する筆者の考えとして最も相応しいものを、次の中から一つ選びなさい。



 ①時間とは、空間の兄である。


 ②時間とは、空間の弟である。


 ③時間とは、空間の姉である。


 ④時間とは、空間の妹である。


 ⑤時間は、空間とは関係がない。





問六 【H】『ただ、最後に、一つだけ忠告をしておこうと思う』とあるが、このような文を付け加えることで、どのような効果が期待されると考えられるか。最も相応しいものを次の中から一つ選びなさい。



 ①「ただ」と無料を表す言葉を含んだ文を付け加えることで、読者が好感的な印象を受ける、という効果。


 ②「最後に」と終わりを示唆する言葉を含んだ文を付け加えることで、読者が文章全体の見通しを持てる、という効果。


 ③「一つだけ」と限定を表す言葉を含んだ文を付け加えることで、先述された規定の内容と関連づけ、読者が実践的な印象を受ける、という効果。


 ④「思う」と断定を避ける言葉を含んだ文を付け加えることで、筆者の慎重な姿勢が読者に伝わる、という効果。


 ⑤「ただ、最後に、一つだけ忠告をしておこうと思う」と三つに分けられた文を付け加えることで、読者が、筆者は三拍子が好きなのだろうと思う、という効果。





問七 【I】『おぅわぁりぃ』とあるが、「以上」と述べたにも関わらず、このような文を付け加えることから、筆者のどのような意図が感じ取れるか。あなたの考えを答えなさい。





問八 「意味がない」「面白くない」「不快」という言葉を使って、文章全体を要約しなさい。その際、筆者の考えに対するあなたの考えも述べること。





以下の問は得点に加算されないが、時間が余ったら答えなさい。





問九 この問の内容を答えなさい。





問十 解答用紙に書いたあなたの解答をすべて消して、問一から問十までもう一度すべての問に答えなさい。その際、この問の指示に今一度従うこと。

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超文読解 彼方灯火 @hotaruhanoue0908

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