第2問

次の文章を読んで、あとの問に答えなさい。



 さて、それでは、そろそろ、論理的な文章を書いてみよう。


 【A】その前に、論理的とは、どういうことだろう? こういうことを考えていると、あっという間に日が暮れてしまうから、それを防ぐために、太陽をワイヤーで吊るしておくことをお勧めする。ワイヤーの端を幾人かで持って、なんとか、太陽が沈まないようにするのである。ちなみに、こういうのを、《a》という。だから、本当は全然日が暮れたりはしない。日が暮れるのは、そういった情景を見たい、と望む貴方の意思があるからであり、そうでなければ、毎日は、全然、大したことはないのである。


 屋根に上って、遠くの方を見てみよう。世界はこんなにも広い、ということがすぐに分かるはずである。山があって、向こうまで見えない、とか、見えるのはせいぜい自分が住んでいる街くらいで、世界なんて見えません、といった意見は受けつけない。そんなのは、世界とは何か、ということを理解していない人間が言うことである。世界とは、すなわちこの地球のことであり、この地球とは、すなわちこの世界のことだから、本当は、世界、などというものは存在しない(意味が分からない、という意見も受けつけない。なぜなら、これは、《b》な内容だからである)。


 たとえば、地球に隕石が降ってきたとしよう。貴方は、シェルターの中に隠れ、これで一安心、と思うかもしれないが、それはまったくの見当違いというものである。それだけでは、決して安全とはいえない。そもそも、安全とは何か、という話になるが、安全とは、つまり、自分の命の保証が成されている状態を指す。したがって、シェルターの中は、コンクリートが打ちっぱなしになっているだろうから、安全とはいえない。それは、安全でありながら、実は安全ではない、といった国の政策に騙されているのである。そんなものに騙されてはいけない。もちろん、本来なら、こんないい加減な内容の文章にも騙されてはいけない。その点に気がついているのであれば、もう、これ以上、この文章を読む必要はないだろう。


 ところで、火事が起きた場合は、まず、最初に、何をするべきだろうか。この問いに答えられる人間は、しかし意外と少ない。筆者もきっとそうである。実際に火事を経験したことはないから、火事になったらどうしよう、と心配してみても、ただただわけの分からない不安が増大するだけで、決定的なことは何もできない。そうならないように、今の内からスクワットをしておくべきだ、と主張しても良いが、それではまるで新しさがないから、スクワットではなく、懸垂をするのを勧めておこうと思う。懸垂は、懸垂だから、懸垂である。このように、同じ言葉を何度も繰り返して、あたかもそれが正しい理論であるかのように振る舞うことを、【B】トートロジーと呼ぶ(らしい、というだけで、筆者は詳しくは知らない)。


 【C】炭火焼鳥は、なかなか美味しいが、それ以上に美味しいものの存在を知っている人間には、あまり美味しくは感じられないだろう。それは、大変遺憾なことである。蜜柑ではない。アルミ缶の上にある蜜柑、と言うよりも、アルミ缶の上にアルミ缶、と言った方が遥かに面白いではないか。なぜ、皆、それに気がつかないのだろう。想像してみると良い。アルミ缶の上に蜜柑が載っているのなんて、酷く日常的な光景で、全然面白くないではないか。それよりも、アルミ缶の上に、アルミ缶が載っているのである。これは、もう、とてつもなく面白いと思う。こんなに面白い現象を、筆者は現実世界で目にしたことがない。いったい、どうしたら、アルミ缶の上にアルミ缶を載せるような事態になるのだろう? その点については、とても不思議である。そう、不思議。理解できないという意味で、それは確実に不思議なのである。


 タイムリープについて考えてみよう。時間遡行、という意味だが、では、そもそも、時間とはどういうものだろう? 空間を把握することはできるが、時間を把握するのは、意外と難しい。昨日があるから、今日がある、と言うが、それでは、いったい、どのようにして、昨日があった、ということを証明するのだろう? そんな証明は、きっとできない。たとえば、今から五分前に、様々な情報も含めて、世界そのものができたのだ、という主張が成された場合に、果たしてそれに反論することができるだろうか。いや、きっとできないに違いない。【D】これを、世界五分前仮説、という(らしい)。いやはや、世界五分前仮説だなんて、なかなか素晴らしいネーミングセンスだが、名称には特に深い意味はないから、意味がないといえば、意味がない。電車に乗って、改札を通ってから、高架下を通って学校に向かうのと同じである。学校に向かうことに意味はあるが、高架下を通ることに意味はない。そうやって、意味のあるものと、そうでないものを分けてみると、意外と、この世界には、意味のないものが多く存在することが分かる。貴方という人間には、確固とした意味はない。しかし、意味は、自分で自分に与えることができる。それが、生きている、という意味の本質である。生は、死に比べると、ある特定の条件下におけるポテンシャルが高い。だから、自殺をするべきではない、といえる。


 部屋の中で花火をしたら、さぞかし面白いことだろう、と思っても、それを実行することは難しい。一人で住んでいるのなら良いが、同居人がいるとなると、クレームを受ける可能性が高い。終わったら、私が自分で片づけをするから、と主張しても、やらせてもあえる可能性は限りなく低い。【E】まったく不条理なことである。どうして、花火さえ、自分の好きなようにやらせてもらえないのか。私にはそれがまったくもって分からない。そんなの、人の自由ではないか。人は生まれながらにして自由だ、などと言っておきながら、実際に実現されている自由の、なんと少ないことだろう。自由なんて、本当は存在しないのではないか、とついつい疑ってしまいたくなるが、それは絶対にしてはいけない。疑えば、すべてなくなる。存在しないのに等しくなる。そうした最悪の事態に備えて、今は、ホットココアでも飲んで一服、というシチュエーションに憧れを抱いているくらいで良い。それは、おそらく、とてつもなく素晴らしいことだろう。青空に電線が架かっているみたいに、それはとてつもなく素晴らしい。素晴らしい、とは、いったい何語なのか?


 動物園に行っても、海豚に会える可能性は低い。それはどうしてだろう? 誰かの陰謀なのだろうか。海豚は動物ではないのか? それに比べて、動物園に行けば間違いなく人間に会えるから、人間は動物だ、とは確実にいえる。それは納得できる。うむ、素晴らしい。


 さて、それでは、本項の内容を《c》に纏めよう。


 【F】何事も経験だから自動車の免許を取るのも良いがやはりその前に自転車の乗り方をマスターしておくべきであるなぜかというと棚の中を探しても小学生の頃に使っていた教科書を見つけられる可能性はかなり低いからであるそれを回避するためには毎日健康に気を遣うことだがカップラーメンをどうしても食べたくなる以上そういった事態は避けられないのだということを心のどこかに留めておく必要があるのは間違いないだろうしたがって今日も今日とて温泉日和なのである。


 おぅわぁりぃ。



(出典『そんなものあるかこの野郎』)





問一 《a》《b》《c》に入るものを、それぞれ一つずつ答えなさい





問二 【A】『その前に、論理的とは、どういうことだろう?』とあるが、これについて筆者はどのように考えているか。文章全体を踏まえて、ちょうど百文字で答えなさい。





問三 【B】『トートロジーと呼ぶ』とあるが、トートロジーとは何か。前後の内容を踏まえて、五十文字以内で答えなさい。





問四 【C】段落の内容を、およそ二千文字、分速百文字のペースで要約しなさい。





問五 【D】『これを、世界五分前仮説、という』とあるが、なぜ「世界三分前仮説」では駄目なのか。前後の内容を踏まえて、百文字以内で答えなさい。





問六 【E】『まったく不条理なことである。』とあるが、この文を言い換えたとき、( )に入る語句を答えなさい。



 まっする( )なことでありゃ。





問七 【F】段落からは、筆者のどのような意図が感じ取れるか。「冗長」「疲れる」「嫌がらせ」という言葉を使って、およそ千文字、分速百文字のペースで答えなさい。





問八 この文章をローマ字・ヘボン式で書いた場合、アルファベットは全部で何文字になるか。漢数字で答えなさい。

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