勉強会

「勉強会しようよっ!」

 放課後。

 教室には席に残りクラスメイトと会話を楽しむ者、帰宅などで教室を出て行く者と、そこそこに騒々しい。

 そんな中、俺と木戸も帰り支度を済ませ教室を出ようとしたところで、先回りするようにドアの前にやって来た楓は、開口一番にそんな提案をしてきた。


「勉強会かぁ~。やりたくねーな」

 勉強会という言葉に難色を示す木戸に対し。


「瞬君はやっておかないとぜぇーったいに後悔する事になるから強制参加です」

 楓は逃がすまいと、腕を取りホールドする。

 体格差のある二人だ。その気になれば木戸は簡単に振り払えるだろうがそれをしない辺り、自分に勉強をする時間と教えてくれる人が必要であると自覚しているという事だろう。

 最も、木戸にそれらの事が必要無かったとしても振り払う様なマネはしないだろうが。


「ほら、瞬君抵抗しないの!」

「いーやーだー」


 まるで駄々っ子の真似をするように、体を軽く揺らしながらささやかな意思表示を示す中。


「亮平君はどうする? 一緒に勉強できたらなーって思うんだけど……」

 身長差がある事と、木戸が逃げないように重心を下げて踏ん張る様な態勢で腕を掴んでいるせいで、いつもより上目遣いで俺に問いかけてくる楓は、五割増しで可愛らしく。


「あー、そうだな。折角だし少し参加させてもらおうかな」

 俺は参加の意を表明していた。


※※※


『勉強会なるものを友達とやることになったから、帰りは少し遅くなる』

 

 里香と翔子に連絡を入れると、俺は特に返事を見る事なく、スマホをポケットにしまう。

 今頃は帰路に付いてるか、買い物にスーパーにでも寄っているか、といった所だろうか。

 もし買い物をしているとしたら、二人に任せてしまうのは申し訳がない。場合によってはお礼を考えておかなければ。

 

 そんな事を考えながら移動をしていると、目的地へと辿り着く。

 第一回勉強会として俺達が選んだ場所は、ベターだが学校の図書室だ。

 放課後に勉強をする場所と言って多くの人が真っ先に思い浮かべる所ではないかと思う。

 実際それを裏付けるように、図書室には想像以上に多数の生徒が集まっていた。

 座席状況を見るに殆どが一人利用の様で、席に着く人の多くの人が一つ二つ席を離して、黙々とペンを動かしている。また、一部で二、三人のグループが隣り合いながら勉強をしているようだ。


 我が校の図書室はそこそこ広さがあるらしく、全体の六割ほどが書籍が収まる本棚等が置かれ、残りの四割が座席等が置かれた読書スペースになっている。

 読書スペースには凡そ百人くらいの座席が用意されており、十人程が使えそうな長机が並んで置かれている様子は、中学時代の学校を考えれば広さも蔵書量も利用者も桁違いと言っても過言ではないだろう。


「うわー、やっぱりみんな考えることは同じかー」

 まるでドラマや漫画のワンシーンの様な風景に少し圧倒されていた俺の隣では、思った以上に利用者がいたのか、少し困惑気味に楓がボソりと呟き。


「楓は結構図書室とか利用するのか?」

「うーん、何回か覘きに来たくらいかな。でもその時はこんなに人いなかったと思うから、やっぱりテストが近いからかもね」

 図書室など、入学してから今までに来たことも無かった俺からすれば、詳細な普段の利用状況はさっぱりだ。

 

「まぁでも、座れないって事は無いみたいだし、隅の方でやろうか」

「そうだな。おい木戸も行くぞ」

「うへぇ、まーじでやるのか」


 口火を切った楓の誘導の元、今だやる気を見せない木戸を連れて、日当たりも悪そうな、人気があまりない隅の席を見つけそこに腰を下ろす。

 辺りにいる生徒は俺達と同じように複数人のグループ利用者が多く、多少のざわつきはあるものの、皆場所を弁えているのか、耳障りと言うほど気にはならない。


「よし、じゃー始めようか。瞬君の学力はある程度把握してるから、方針は考えているけど、亮平君はどうしようか? 分からない所ある?」

 俺の対面に座る楓が、教科書を取り出しながら、俺に問いかけて来る。


「うーん。俺も勉強が得意ってわけじゃないから、取り合えず、二人に合わせて同じ科目をやろうと思う。教科書振り返りながら、分からなそうな所があったら、楓に質問する。そんな感じでいいか?」

「おっけーだよ!」

 小声のやり取りながら、表情と声のトーンで、楓の張り切り具合が伝わってくる。

 勉強が好きなどと思ったことが無い人種からすれば一生分からない感覚なのかもしれないが、曰くテストという力試しの場があるのだから、そこで張り切らない理由がない、との事。

 同居人と同じ様に、楓もまた本当に勉強が好きなのだろう。

 案外本当に里香とは息が合うかもしれないな。


「それじゃ、瞬君。寝ようとしないで早速教科書出そうか」

 ちなみに楓の隣に座った木戸は、座ると同時に寝る態勢に入っていた。

 

 心底勉強が嫌いなようだ。

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両隣の幼馴染みと共同生活をすることになりました! 鼠野扇 @mouse23

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