学生といえば

「もうすぐ中間テストだけど、二人とも勉強してる?」

 五月一日。

 高校生となって約一月が経過。高校生という肩書にも少しづつ慣れはじめ、最初こそ毎日が真新しい事だらけだった生活も、次第に代わり映えしない日々になり始めた。

 クラスの雰囲気も次第に『いつもの空気』みたいなものが出来上がり、朝から元気よく騒ぐ生徒もいれば、静かに自席で本を読む生徒もいる。

 そんな光景が見慣れたものになり始めた今日こんにち

 朝から生産性の欠片もないダラダラとしたやり取りをしていた俺と木戸きどは、不意打ちの様に横から投げ掛けられた、女子よりも可愛いでお馴染みのかえでちゃんの一言により、いつもの日常に一握りのスパイスを振りかけられた。


「テスト? なんですかそれは? 聞いたことのない言語ですかね?」

「いや、テストを知らないって今までの学生生活の記憶はどこにおいて来ちゃったんだよ? 中学とか同じ学校だったでしょ?」

 

 木戸が遠い眼差しで何も書かれていない黒板を眺めながら現実逃避を始めるが、その視線を遮るように楓が体を割り込ませる。


「亮平君は兎も角、瞬君はちゃんと勉強しないとダメだよ? そんなに頭が良くないんだから」

「……楓さんや。君なかなか失礼な事言うね?」

「事実でしょ? 中学生の頃は部活で全然勉強出来ないって僕に泣きついてきた事もあったし」

「え? そんな事あったっけ?」

「失礼だな!? あんなに教えて上げたのに!」


 朝からギャーギャーと騒ぐ楓を見られるのは、一日のスタートダッシュとしては最高の展開ではあるのだが、若干蚊帳の外感が否めないのが悲しい。

 それにしても、テストか……勉強か……嫌だな。


「むむっ。今、亮平君の方からもダメな人オーラが出ていた気がする」

「なんだオーラって。馬鹿な子に見られるからやめた方がいいぞ」

「うるさいよ! 本当のおバカな瞬君には言われたくないよ」


 そんな二人の、というより可愛い楓の声を微笑ましい気持ちで聞き取りながら、俺はちらりと時計を見やる。

 針が指し示す時刻は、いつも通りならもうすぐこの教室に教師が入室してくるであろう事を知らせており、実際廊下からは独特なリズムでスリッパを鳴らす歩行音が聞こえて来る。

 俺はそんな足音に合わせる様にタイミングを見計らい、蚊帳の外から内側に入る為に会話に割り込む。


「まぁ、どっちも馬鹿っぽさで言えば五十歩百歩だな」

 ガラリ。

 開くドアに、現れる教師。

 同時に鳴り響くチャイムは、この朝の時間の終了を意味しており。


 俺の一言に何かを言おうと口を開いたまま、一瞬止まった二人の表情は非常に面白い芸術作品となったいた。


「お前(亮平君)後で覚えとけよ(覚えといてね)」

 苦虫を噛み潰した様に木戸の表情に、頬を染めてぐぬぬと言い出しそうな楓の姿がとても、とても可愛かった。

 いい一日になりそうである。

 

 ちなみに後でちゃんと謝った。

※※※



「にしてもテストねぇ」

 しみじみとした声で木戸はボソリと呟く。

「なんだ本当に勉強は苦手なのか?」

「得意そうに見えるか?」

「全く見えないわ」

「……楓以上に失礼な奴がいたか」


 授業合間の休み時間。

 つい先ほど終わった国語の授業でもテストなる未知なる言語が教師から放たれ、クラスの空気を大変重いものへと変化した。

 この教室の中にはもしかしたらテスト好きなる変わった趣向の持ち主もいるかもしれないが、大半が俺や木戸と同じ感性である事は空気から察する事ができ。


「まぁそもそも勉強が得意って言うやつなんて、俺は見たことがないがな」

「う、うーん。俺の周りには……残念ながら心辺りがあるかな、と」

「……そいつは大分変ったやつだな」

 木戸の意見には同意したい気持ちがあるが、残念ながら俺の脳裏にはドヤ顔をした同居人の顔が浮かんでおり。


「へー。そんな人いるんだ~。なんだか話が合いそうだなぁ~」

 目の前にはいつの間にか現れたニコニコ笑顔の楓がさっきの復讐とばかりに視界の中でウロチョロとウザったい動きで挑発行為をして。


「「はいはい楓は可愛いね」」

「違うよ! 僕も勉強得意だよってアピールだよ!」

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