第9話苦労と無駄な努力は違う

「手遅れと言いましてもこのまま何もしなかったらということです」  

「何もしなかったらどうなるんですか?」

俺は思わず顔をほぼゼロ距離まで近づけていた。女医は俺の顔を遠ざけて言った。

「あなたもドラゴンになりますよ。彼みたいに」

女医はリュウを指していた。

「まずは進行状況を確かめますね」

彼女はそう言うと、バインダーを携えて立った。そして言った。


「屋上に行きましょうか」


屋上は草木がジャングルのように生い茂っているのはこのビルに入る前に外から見た。あそこに他になにかあるのだろうか、俺はやっぱりドラゴンになってしまうのか。色々な気持ちが交差した状態で俺は屋上に着いた。

「やっぱり草ボーボーっすね」

特にビルに入る前と変わった印象は受けない。草やつたが多く、“散乱している”という言葉が似あうような自由さだ。

「じゃあこの子たちはどう見えるかな?」

さっきまでなかったはずの机が目の前に現れ、その上には3つの植物が置いてある。


1番右には花が咲いている植木鉢。真ん中にはいくつもの小さな芽が生えたプランター。左には苗みたいなものが透明な袋に入っている。


どう見えるって


「これの色ってことですか?」

「さすがわかっている!」 

    

ドラゴンになるとか言うぐらいだからマーシャンとドラゴンの関係を知っているんだろうけど、これは意味があるのだろうか。        


右の植木鉢にはピンクの花が生えていて、他はまだ緑。基本オーラは人間からしか見えないんだから、特に変わり様もないはずなのに。

「あのもしかしてオーラが見えるかどうかって話なら」

俺の言葉を遮って彼女は、触ってみてと言った。

触ったところで変化が起きるわけがないので納得できなかったが、強引に言うものだから渋々ピンクの花に触れた。すると花に変化が起きた。

「黒色だ!こっちもこっちも黒色です!」

オーラは勿論見えないのだが、植物の色が変化したのだ。リュウに仕組みを聞くがわからないと首を傾げる。

「全部黒なのね。分かりました」

彼女は早口で言うと、カイエルと唱えて茂みの方に植物たちを片付けてしまった。

「じゃあここで自己紹介しますね。私はドラと呼ばれているはよろしく」そういって彼女は俺に向けて右手を差し出してきた。     

俺はドラと握手をした。ドラの手はぶ厚くてごつごつしている。

「トラント!!」

彼女は引き寄せ魔法でキャンプの時に座る折り畳み椅子を召喚し、俺とリュウは促され小さな椅子に座った。

「私はここで占い師をやっているドラです。もちろんわかっていると思うけど、魔法使いです」

「ドラさんはなんでドラゴンについて詳しいんですか?」

「なんでこんなところに住んでいるんですか?」

俺のギリギリせき止められていた疑問が流れてくる。

ドラさんはチッチッと指を俺の前で揺らし、黙るように示した。まず簡単なところからと言って、移住理由を話し始めた。

「私は魔法使いなんだけど、魔法使いの世界に疲れたのよ。まずね、サースィエって呼び方がおかしいのよね。魔法使いでない人をアン・サースィエって呼ぶのよ」

俺の向けて喋っているドラは少し悲しそうだ。

「まあそれは俺も思っています」

「これ見ても載っているんだから」

ドラは手に〇〇でみたあっちこっち改訂版をバンバンと叩きながら笑っている。

「教科書にわざわざサースィエとアン・サースィエって表記しているんだから。区別でしょ。私達は違うんだって」


意外と意見が合う人だ。

魔法使いの世界は昔多くの人間が第4次産業革命によってあらゆることが可能になったとき以上に多くのことが可能に、快適に行える。しかしそれによってどちらも住む日本なのに、魔法使いを優性そうでない人間を劣性とする考えがうっすらと膜を張っている。俺の周りの人間でサースィエという言葉を使わないのはミカンぐらいだ。   


「だから私はこの町に逃げてきたのよ。ここには魔法はほとんどないのよ」

うっすらとそんな感じていた。俺が住んでいた町ならば、わざわざ人間が自転車に乗って物を届ける必要ないし、露店を開く必要はない。

「でもいいところなのよ。来て」

俺は気づいたら、3人で街に再び出ていた。

ドラが色々な場所を案内してくれた。先程訪れた露店はもちろん、1皿100円からの激安寿司店や目立つような遊び道具のない公園。俺の街では見られない場所ばかりだった。

俺達は公園の雨で濡れたベンチに座って再びドラの話を聞き始めた。


「別に私は魔法劣等生じゃなかったんだけどね。ここは第4次産業革命よりも文化が遅れているの今時自動運転普及率0.03%よ」

彼女は自慢げに言う。

「お前も共感するところがあるだろう」

リュウは急に喋り出し驚いた。夢占いの館のあるビルに入ってからはほとんど喋っていなかったからだ。

「だから俺はお前を連れてきたんだ。お前も知っているんだろ、マーシャンがドラゴンになる理由」

ドラは微笑む顔で、リュウは険しい顔でこちらをまじまじと見ている。

「負の感情に精神がむしばられたときにドラゴンになる」

「そうだよ」

リュウはため息を付く。

「ドラも元ドラゴンなんだ」


俺は自分がドラゴンにならない方法を知りたかっただけなのに。



 

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オレンジ色のドラゴンに乗って色々と学んだ 僕に才能はない @bokuhanai

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