第8話死亡宣告は早い

「この部屋の色は何色に見えますか?」

「え……緑です?」

彼女はハァーと大きくため息をついた。そして手に持ったペンとバインダーを置いて俺にはっきりと言った。

「やっぱりあなたそろそろ死ぬわ」

この部屋で起きることは初めての体験ばかりだった。


俺とリュウはあの後また階段を上り始めたのだが、意外と2階まで着くのは早かった。2階にあった錆びた赤黒い重い扉を開け、非常用階段に変え3階まで上った。これはリュウの指示だったのだが、2階から3階まではさらに早く着いたように感じた。体が慣れてきたためか、軽々と3階に降り立った。


非常用階段の扉を開けるとすぐに、「夢占いの館」と書かれた木の看板がかかった扉が目に入った。なにがあるんだろう。怖い。「大丈夫ですよ~」と赤子をあやすリュウを横に俺は扉を叩いた。


トントン


「入ってます。他のところにお願いします」

扉の奥から聞こえるその声はどこかで聞いたことがある。


トントン


「すいません。さっき受付で名前を書いた者なんですけども」     

「入ってます。他のところにお願いします」

            

ドンドン


「受付で名前を書きました秀一と言います。いいですか?」

「入ってます。他のところにお願いします」


ガンガン


「受付で名前書きました。いいですよね?」

「入ってます。他のところにお願いします」


はぁ。まさかな。


トントントン


「受付で名前を書きました谷村秀一です。入っていいですか?」

「どうぞ」

俺はゆっくりと確実に扉を開けた。

            


扉の中はTheオフィスの室内が広がっていた。いくつもの机があり、その上にはパソコン、電話、ファイルetc……。あっちこっち改訂版でみたことがある昔の職場風景だ。表札の「夢占いの館」という文字に期待していたのに拍子抜けしてしまった。そしてここに誰も居ないことに驚愕した。

「あの……入りましたー」 

                    

誰からの声も返ってこない。

「入りましたよ。来ました秀一です」 

               


グルングルン。グルングルン。


近づいてくる音の方向を見ると、部屋の隅から椅子に跨った女の人がひゅーと現れた。

「どうもこんばんわ。ドアのノックは3回ですよ2回はトイレ」

「……すいません」


女はジャラジャラと音をたてながら、首に大きな勾玉のついた紐をいくつも掛けている。血のように濁った赤色やカビのような緑色など多くの勾玉があってとても気味が悪い。その飾りをかけながら上下の服装が白色でさっぱりまとめているのがさらに得体の知れない動物にあったようで気持ち悪い。


気持ち悪い。


女は首に大きな彼女は椅子に跨ったまま手前の机のファイルを探るとバインダーを取り出した。さっき紙を記入するのに使った赤色のバインダーだ。バインダーを覗くと彼女は言った。

「では今から検診を始めますね」

当たり前のように診察が始まった。


これまで俺は、診察というものを受けたことがない。というのも、人のオーラを見ることが出来る人間〈マーシャン〉だとわかってから、マーシャン3代特徴の1つの体の超回復力が備わっているからだ。

「ここ痛いですか?」

彼女は、いや女医は私の腹部を直接何度も触れてくる。

「痛くないです」

リュウが人間の姿になってからは会話の節々にイライラしていたのだが、女医と話すのは悪くない。意外と病院というところは良い場所のようだ。


「わかりました。終わりです」

女医はシャツから手を引き自分の手を眺めている。         


「では診断結果をお話ししますね」

「はい」

「手遅れ」


病院は怖いところだ。

                 


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