第7話苦行系ビルに突入

――日本史あっちこっち改訂版――

P25.

以前から示されていた第4次産業革命(またはIndusyry4.0ともいう)が2030年に起きた。以前から省庁や民間企業でlotやAIなどの科学テクノロジーを用いた都市構想があったのだが、伝染病によって一時計画は中断されたものの、日本を支える大手企業と若手起業家によって革命が起きた。彼らは低迷期にあった日本を再興させようと生活に関わる衣食住から、生活に潤いをもたらす様々なサービスを提供するシステムを構築させることを可能とした。そのため現在我々が暮らす中でこの技術に触れる日はないと言える。

P30.

これまで述べたようにそれ以前の人間は科学の力に支えられ生きてきた。しかしある日、日本に多くのドラゴンが現れた。その時人々はドラゴンの破壊的行動に命の危険性 を感じたが、突如現れた科学行動班によって滅亡した。後にその部隊がサースィエ(魔法使い)達であることがわかった。当時人々は一種の<科学信仰>という状態にあり、マジ―ル(魔法)の存在に懐疑的であり差別的扱いを行ったが、話し合いの結果現在は協力して暮らしている。


高校の教科書はドラゴンの記述やサースィエとアン・サースィエが協力するようになった記述は短い。



「日替わりだったのにな……」


2人でとぼとぼと歩いていた。端的に言うとまずかったからだ。俺は気分を入れ替えて夢占いの館が何であるか聞こうとしたのだが、リュウがまた意地悪な笑みを浮べ喋り始めた。

「これの食べ方わかるか?」

リュウの手には黒と白の塊が入った真空パックと袋に入ったパンがある。先程ハチマキのおじいさんが調理と言ってこの2袋を熱湯に突っ込んでいたのを俺は見た。

「これがステーキとパンなんだよな?」

「そうだよ。だからどうやって食べるかわかるかって話だよ」

まるで禅問答のお題を与えられたような気がしたのだが、もちろんそんなわけはない。

 正解は、と言ってリュウはポケットから2つ口の大きなストローを取り出した。そして2色の塊が入った袋にその大きすぎるストローを1本突き刺し、中身を吸いだした。すると、黒色の塊と白色の塊は混ざりながら同時に吸い上げられていく。

「こうやって食べるの。ん」

「これも?」

リュウが差し出した袋の中にはパンが入っている。差し出された手の中にある袋とストローを受け取り、思いっきり袋の側面へストローを刺した。


ドキドキ。ドキドキ。ドキドキ。


スーーーーー。


ズ!


困って動かなくなった俺を見て、笑いながらリュウはパンの袋を開けて食べ始めた。

「これは普通に食べるんだよ」

横でリュウが滑稽、滑稽と大笑いしているのを無視しながら歩いていると不思議な建物に突き当たった。この建物は大変目に付く。この町ではこれまで見られなかった「ビル」が目の前にあったからだ。ビルといっても、窓の数から3階建てであり、屋上は草木が手入れをしてこなかったであろうジャングルのように自由な生え方をしている。

「これだよ」

リュウの指す入り口付近には立て看板があって、小さな文字で様々なことが書かれているのだが一番大きな青色の文字で夢占いの館3Fとある。

「違う違うこっちから」

文字を見るためにしゃがみこんで見ている俺の視線に気づいたのであろう。リュウは看板の一番下に小さな文字で書かれている「初めての方は1Fへ!!!」へという文字をトントンと指で叩いた。

「じゃあ行こうか」

「ハァハァハァ。まだかよ」

外から見たら窓はすぐにたどり着くような高さにあったのに10分ほど階段を歩き続けている。

「もうすぐだぞ」

3度目の同じセリフに文句を言おうと顔を上げるとリュウはいなくなっていた。

「おいリュウ」

トン。一歩踏み出すと急にラブホテルの入口が目の前にあった。

といっても実際にラブホテルの入口があるのではなく、右下がりになっている受付と書かれた木の板が付いた小窓があるだけだ。その小窓がすりガラスになっており、互いに顔を見ることが不可能となっている。

リュウは既に入り口の近くにいて、顎で小窓をどうにかするように指示してきた。明らかに怪しいのだがやっと着いたものだから、その小窓にさっと近づいた。しかし小窓の奥に人の気配を感じられない。

「おーい」

声を挙げたはずなのに物音はしない。リュウをみると顎で小窓を指しているのだが、全く何をするべきなのかわからない。

「トントン」

窓を叩いても何も起きない。

「トントン」

窓を叩いても何も起きない。

「トントントン」

窓を叩いても何も起きない。

「ドンドンドン!」

それでも物音はなにも聞こえてこなかった。

俺はどうすればいいか訳がわからなくなり、入口を背にしてリュウに声を出して助けを求めようとした。するとリュウは笑っていた。

「見ろよ来たぜ」

僅かに空いている隙間から黒い服がみえた。

「初めてですか」


力強く小窓を叩いて手が痛いせいか、遅かったせいかその言葉にいらついた。。


「《はじめて》ですけど」 

                    

「ではこれに記入お願いします」 

                 

                                 

小窓の隙間からバインダーに挟まれた1枚の紙を渡された。

氏名(    )生年月日(  年  月  日)

・この町へ訪れるのは初めてですか?

・このビルへ訪れるのは初めてですか?

・夢占いの館をどうやって知りましたか?



バインダーを渡す手にはネイルが付いていることから推測できるのだが、声は女性にしては低い。

「あちらでお書きください」

その手が指す先には、さっきまではなかったはずの長イスがある。またリュウが顎で合図するものだから、少しの恐怖心があるのにムカついて思わずさっと座ってしまった。

そして、名前と生年月日を書いた。


「すみません秀一さまこちらに来て頂けますか?」


受付にまだ提出していないのに名前を急に呼ばれたので何が起きたのか理解できなかった。しかしネイルの手が手招きするものだから、自分が呼ばれたと理解し小窓の下へ戻った。

「すみません。名前と生年月日しか書いていないんですけど」

「はい。それで結構です」

バインダーは伸びるネイルの手によって、向こう側に消えていった。  

「ありがとうございます」というと女性は小窓の向こう側でどこかへ消えてしまった。


呆然と立っているとさっきまで女性がいた位置に高校の歴史の教科書「日本史あっちこっち改訂版」が見えた。付箋がたくさんのページに張られていて、1枚の付箋にだけ赤文字で「ドラゴン」と書かれていた。


        


 



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