第4話


「そいつは大冒険だったな」

 今日の出来事を話すと、祖父が笑った。笑ったあと、咳き込む。最近の祖父はいつもそうだ。心配になったが、心配な顔はしないで置こうと決めていた。祖父が悲しむのがわかっていたから。

「笑い事じゃ無いよ、おじいちゃん。もう少しで死ぬところだったんだ」

 僕は憤慨してわめいた。まだ、あのときのことを思い出すと動悸がする。

「狼たちが助けてくれなかったら、今頃食べられていたよ」

「案外、お前と友達になりたかっただけかもな」

 そう言っておじさんが笑う。この人がもっと早く助けに来てくれたら良かったのに、と言いたかったが、甘ったれと言われるのが嫌でやめた。

「だってはさみが・・・・・・」

「握手のつもりかもしれないよ」

「おじいちゃんまで、そんなことを言うの」

 僕が怒れば怒るほど、彼らは笑った。

「それより、今日の釣果は散々だな」

 僕が一匹も釣らなかったことも原因だが、いつも大漁のおじさんも今日はパッとしなかった。

「坊主が遊んでたからな。エースがいないんじゃあ、仕事も進まねえよ」

 魚の脂が焼けた匂いがした。一人一尾ずつしかない魚だったが、三人で食べればなんだって美味しかった。

 見上げると、星が綺麗だった。

「あれが、こぐま座、あれがこと座、あれがはくちょう座・・・・・・」

 僕は一つ一つ指さしていった。

「坊主はインテリだな。将来は学者先生か?」

 馬鹿にしたような言い草は気に障ったが、学者という言葉の響きは良かった。おじさんはいつものように、嫌らしい顔で笑って煙草の煙を吐いた。

「インテリってなあに」

「お前のじいさんみたいに、色んな事を知ってる奴のことさ」

「僕もおじいちゃんみたいになれる?」

「もちろんだとも。だからよく学びなさい」

 祖父が僕の頭に手を置いた。おじさんに触られるのは暑苦しかったが、祖父に撫でられるのは嫌いじゃ無かった。

「たくさん勉強したら、僕も学者になれるかな」

「もちろんさ。お前は何にだってなれるんだ」

「僕頑張るね」

 そのあと、二人が寝てしまうまで正座を数え続けた。

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