第2話 クリスマスイブ大作戦

十二月 クリスマスイブ



直人はメーカーと店舗との連絡で忙しく働いていた。


メーカー側も自分達の仕事納めが近いため、年明けから仕事始めまでの店舗に納品する商品在庫や各店舗からの発注データの仕分けなど、到底昼食を食べる時間など無くヘロヘロになりながら仕事をしていた。



午後四時になりそうな時にPCの画面右下に社内メッセンジャーの通知が出た事に気が付いた。


「ん?竹下さん?」


あの件があってから直人は亜沙美と顔を合わせるときも話すときもこうやって連絡が来るときもドキドキするようになってしまっていた。


とりあえずメッセンジャーを開き内容を確認した。


「…んーと?……手が開いたら連絡ちょうだい…?」

まさかこの忙しいのにまだ何か頼まれるのか?と直人はゾッとしたが無視するわけには当然いかないので

『わかりました』

とだけ返信した。



そこから一時間後の午後五時前には仕事も一段落し少し落ち着けるようになった。


「……ん、んんあああ…はぁ」

直人は背伸びをしたあと溜め息と共にデスクに突っ伏した。



「はっ、そうだ。竹下さんに連絡しないと……」

直人は亜沙美に大体の仕事が終わった事をメッセで送った。



その頃、亜沙美は大会議室でチーフ会議に出席していた。

生鮮食品、デイリー食品、加工食品、日用品、衣料品、物流担当、店舗管理のチーフ及び店舗地区担当の社員が集まり会議が行われていた。


直人と亜沙美が所属する第二営業部は日用品を担当する部署で年内発注締め切り日と年始発注開始日、納品最終日、納品開始日等の情報共有と懸念、対策等が話されていた。


亜沙美は社内サーバーに保存されている各営業部のチーフが作った会議資料に目を通しながら話をしていた。


ちょうど第二営業部の話が終わった所でメッセンジャーの通知が来た事に気が付いた。

亜沙美は

『今会議中だから終わったらまた連絡する』

と送り、会議に集中した。




会議が終わり亜沙美は時計を見ると夜七時を過ぎていた。


「まずい、もうこんな時間?」

直人から連絡を受けてから二時間近く経過していた。


「さすがに怒ってるかなぁ……」


『ごめん、今終わった。すぐに戻る!』

とメッセを送り、急いで戻った。




部署に戻るとまだ数名残っており、直人もまだ仕事していた。


「藤堂くん、ごめん!会議長引いた!」


亜沙美が直人の肩を突然掴んだ為、直人はビックリした。


「うわぁっ!……ちょっと竹下さん!驚かせないでくださいよ」


その反応がおかしくて亜沙美は笑いが堪えられなかった。

「ははは、ごめんごめん。それじゃ行こうか」

亜沙美はそういうと会議室を指差した。



やっぱり何か頼まれるのか…と直人は少し気が重くなった。


「…あっ、ちょっと先行ってて」

亜沙美は直人にそう伝えると残業している他の社員に進捗を聞いて回った。




会議室に入った直人はあの日の事を思い出していた、そしてあることに気が付いた。


「あれ?そういえば細かいことはメールしておくって言ってたけど来てないな……」

とりあえず前回座った席に座り、亜沙美を待った。


「やっぱり竹下さんめっちゃ可愛いよな。何なの?さっきの笑顔…」

直人は先程の亜沙美を思い出してはデレデレしていた。



数分後、亜沙美が会議室に入ってきた。

「ごめんごめん、待たせちゃったね」

そう言いながらいつもの席に座った。



「新しい仕事ですか?」

「ん?何が?」


「いや、わざわざ呼ばれたので何か頼まれるのかなと」

「違うよ?それならメッセで頼むし、むしろさっきの時点で言うし」


「じゃあ、…あの件ですか?そういえばメール貰ってないですけど」

「あっ、それもごめん。まだ細かいこと決められてなくて、それは後日必ず送るから。それで今日ここに呼んだのはその件で頼みがあったから」

「何かあったんですか?」


亜沙美は髪の毛をくしゃくしゃとさすりながら

「そう、いやぁ…。私もうっかりしてて昼間気が付いたんだけど、…さて今日は何の日でしょうか?」

「???」

亜沙美からのクイズに直人は首を傾げた。



「やっぱり…、まぁ私も昼間に気が付いたから人の事は言えないんだけどさ……」

亜沙美は耳の上辺りを少し掻いた。


「それで今日がどうかしたんですか?」

「今日はクリスマスイブでしょ?」


「あぁ、…はい、そうでしたね」

少し上を見てから、そういえば…という形で直人は返答した。



「反応が薄い!!クリスマスイブに会社から直接家に帰るカップルいますか!?」

亜沙美は直人の顔の近くまで指をさした。



「……まさか?」

「はい、そのまさかです。今日私達はデートをします!」



「っ!!………っぇ!!!」

直人は声が出なかった。



「何でそんな驚いてるの?あれ?まさか先約あった?」


「い、いい、いや、無いですけど……」

「じゃあ、いいじゃない!」


「いや、僕はいいんですけど、逆にいいんですか?」

「結婚考えてるカップルで実家に挨拶行くのにクリスマスとかそういう日の写真が無いとか変に思われるかもしれないじゃない」



「えっ?写真?」

「そう、撮るんでしょ?そういうの。例えばクリスマスツリーの前でとか。それを撮りに行くよ」

「あっ、…写真、ですか……」

直人は少し気を落とした。



その姿に亜沙美は反応した。

「おや?おやおや?何を期待していたんだね?」

亜沙美はニヤニヤしながら直人の顔を覗きこんだ。



「ななな、何も!へ、変な事なんか考えてませんから!!」

直人は必死に否定した。



「へぇー、変な事考えてたんだー」

亜沙美はまだニヤニヤしてる。


「だから考えてませんって」

「へーーーぇ」

亜沙美は腕を組んで足を組んだ。


「あっ、そういえば年末年始予定があったんだった」

その姿を見た直人は席を立ち、会議室を出ようとした。


「わー、ごめんごめん、調子に乗りました!すみません」

咄嗟に立ち上がり手をわたわたとさせた亜沙美はすぐに直人を止めようとする。

その姿を見た直人は笑いを堪えきれなくなり、そして直人と亜沙美はハハハッと笑った。



「それで写真撮りに行くのはいいんですけど、どこに行くんですか?」

「ん?ここからすぐ近くにある大きいツリーでいいでしょ」


二人の職場はビル街にあり、ちょっと歩いたところの商業施設の広場に毎年立派なクリスマスツリーが飾られていた。


「危なくないですか?」

「何が?」

「会社の人に見られたら」

「大丈夫でしょ、藤堂くんと同じ考えの人がきっと多いから逆に誰もいないよ」

「……そっか、それもそうですね」



「はいじゃあ、あとどのくらいで仕事終わる?」

「今日の分は終わってて明日やる分を少し手をつけていただけなのでいつでも大丈夫ですよ」


「じゃあ申し訳ないけど先に退社してその辺で待っててくれない?さすがに一緒に会社を出るのはまずいでしょ」

「そうですね、それじゃ僕は先に上がります」


かくして二人はクリスマスデートの写真を撮るため近くのクリスマスツリーに向かうことになった。



亜沙美は一つ計算間違いをした、本気でクリスマスイブの事を忘れていて食事等を考えていなかった事を悔やんだ。


写真を撮りに行くというのは彼女が考えた苦肉の策だった。

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