7.俺は1位を獲る男
「本名鈴木一郎、FORKでは只野人間! 応援してくれる人はじゃんじゃんブーストよろしくな!」
新たな自虐ネタを手に入れた俺は、それを最大限使おうと躍起になっていた。
身バレ。普通は実生活のことがバレたら、アカウントを変えるか、辞めるかするものだ。それがプライベートなものになればなるほど、個人を特定できる情報になればなるほど、その動きは顕著である。
だが、俺はその行動を逆手に取ることにしたのだ。普通の大手なら身バレした時点で辞めてしまったり、身バレを嫌って発言しないようなことを、俺はやることで唯一無二になるのだ。
「ラッキー煎餅、また来ないかな~。俺を配信者としてレベルアップさせてくれたお礼がしたいんだけどな」
黒夜/低音系ボイス
「嫌味にしか聞こえないwww」
「嫌味じゃないって~。他の大手と似たようなことしかできなかった俺に武器をくれたんだから感謝だよ、まじで!」
月(るな)
「どこにお住まいなんですか?」
麗華
「仕事って何してるの~?」
ふーみん
「いつも寄るコンビニってどこのコンビニ?」
ななか
「前の彼女ってどんな子だったの?」
リスナーからは、もっともっとと俺の情報をねだるコメントが多い。だが、それにいつも全て答えてしまうと、すぐに情報なんて底を尽きてしまう。
「みんな色々知りたいことがあると思う。そうやって俺に興味を持ってくれてるのは、めちゃ嬉しいよ! だけど、俺の目標はこのFORKで1位を獲ることだ。」
「だから、俺の配信で一番ブーストしてくれた人の質問に1つ、答えることにする」
じゃあそういうことで、と言葉を続けようとしたら、今までに見たことのない数の課金アイテムが画面を流れていった。
慌てて俺も、サブアカウントの次郎を入室させた。
リスナーに好き勝手な質問されると困るのは俺だ。このサブアカウントを使って、ブースト1位を獲り返せば、当たり障りない質問をすることができる。
これは自分に課金したくてするんじゃない。リスナーをコントロールするために必要なことだ。
こっちを作っておいて良かったと、このアイディアを思いついた時に安堵したものだ。
「こんなにブーストしてもらったの初めてだわ。めちゃ嬉しいな~、俺幸せ者だわ~」
黒夜/低音系ボイス
「やっばwww みんな羽振り良すぎwww」
「黒くん、ほんとだね~。いや、まじでありがたいわ」
適当なリアクションを返しつつ、次郎でブーストをかける。が、全然足らない。
「え、今トップ誰? すげー投げてくれるんじゃんw」
笑って見せたものの、全く笑えない。俺の予想をはるかに上回る金額のブーストだ。次郎は2番手どころか、5番手ぐらいに甘んじている。
月(るな)
「私がダントツで1位ですね」
黒夜/低音系ボイス
「月はブーストしない主義じゃなかったっけ?w」
とりちぃ
「月さんつよい」
ふーみん
「ふーも負けたくない!」
「月は結構前から俺の配信に来てくれてるもんな。今日初めて投げてくれたんじゃない?」
話している間もブーストがちらほらと上がってくる。俺も次郎で投げ続けているが、厳しそうだ。
「じゃぁ今日は月の質問に答えるわ。何知りたい?」
月(るな)
「質問より先に。1位、おめでとうございます」
Kiki
「ほんとだ! ただのん、おめ!」
黒夜/低音系ボイス
「本当に1位獲っちまいやがったwwwww」
とりちぃ
「おめでとー!!!」
「まじか、ありがとう。みんなのおかげだな! これからもよろしくな!」
どさくさに紛れて1位を獲っていたようだ。初めてこのFORKで1位を獲ることができた。あれだけのアイテムをもらっていたのだから、多少の自信はあったが、それでもやっぱり嬉しかった。
月(るな)
「それでは質問を。どこにお住まいなんですか?」
「オッケー。都道府県から答えよう」
質問に答え、適当にしゃべって配信を早めに切り上げた。
俺は1位を獲った。面白みのない生活を送っていた俺が、このアプリで1位を獲ることができたんだ。
「よっしゃ」
嬉しかった。
部屋で1人ガッツポーズを決めた。
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