6.お前は誰だ

「でさ、俺は声かけたわけよ。泣き黒子とか超いいじゃん。なかなかお目にかかれないしさ」


麗華

「戸井田さん、だっけ?」


月(るな)

「私も泣き黒子ありますよ」


Kiki

「ただのんに声かけられるとかうらやま」


黒夜/低音系ボイス

「泣き黒子が良いとかただのん変態www」


呑兵衛@酒に呑まれる全ての人に愛を

「あのコンビニの君に声かけるくらいに成長したなんて、おじさん嬉しくてお酒が進んじゃうよ」


「チキンだった俺はもういないからな~。ってことで、今日は飲むぞ! 気分によってはまたコンビニ行ってもいいかもなw」


 カンパイコメントに続いて大量の課金アイテムが洪水のように流れていった。この光景も見慣れて来て、新鮮な気持ちより安堵の方が大きい感じだ。


 音を立てて缶を開け、飲み下していく。喉をヒリつかせる炭酸が心地よかった。


「今日はみんなは何飲んでんの?」


ぴよち

「焼酎・ヨ」


ペロ

「ヨーグルトサワーだよぉ」


麗華

「シークワーサーサワー」


月(るな)

「私は只野さんの声に酔っています」


ラッキー煎餅

「あんた、鈴木一郎?」


ふーみん

「カシオレ!」


「いいね~。俺は相変わらずビールだよ。みんなと飲むとやっぱ美味いわ~」


とりちぃ

「飲み配信いつも楽しみにしてるの~」


てぴ

「あたしもお酒飲もっかな」


ラッキー煎餅

「おい、お前鈴木一郎だろ? 地味で根暗な顔してるくせに、配信だと強気なんだなw」


「え~? ラッキー煎餅って、俺のことよく知ってる人~? 俺が鈴木一郎って名前だとして、他に俺のこと何知ってるのか教えてよ」


 本当に俺のことを知っているんだろうか? 名前をズバリ言い当てられたことにドキリとしたが、返事をしないとうるさそうだ。平静を装ってテンション高めに返した。


黒夜/低音系ボイス

「お?www ただのん身バレ?www」


月(るな)

「鈴木一郎って本名ですか?」


ぴよち

「一郎なんて可愛い・ワネ」


麗華

「初めて知った~」


Kiki

「本当なの~?」


「っは! もういないじゃん! 落ちるの早くない!?」


 どうしよう。リスナーのみんなが反応し出しているし、弁解するのもなんかダサい気がする。


 手に持っていた缶ビールを煽って言葉を続けた。


「まー、バレちゃったら仕方ないね。そうでーす。俺の名前は鈴木一郎。な? ただの人間、ただのふつうのありきたりな人間の名前だろ? だから俺は只野人間って名前なんだ」


 すごい勢いでリアクションのコメントが流れていくが、無視して続けた。


「ラッキー煎餅、ラッキー煎餅…。全然思い当たる節がないんだけど、誰だったんだろうなぁ。俺の本名バラして、それで得意気になって落ちたんだろ? そんな気の小さいやつ、周りにいたかな」


「本名バレたぐらいじゃ大したことないし、日本全国で鈴木一郎なんて何人いると思ってんだw」


「何がバレたって俺は逃げないから。バラしたい奴は好きなだけバラせばいい。そんな覚悟もない奴が1位なんて獲れないだろw」


 称賛や心配、崇拝。そんなコメントと共に、今までで一番多くの課金アイテムが飛び交い、俺を称えてくれた。


 酔った勢いとは言え、無視しておけばいいコメントに反応してリアルを晒してしまった。だが、これが理由であんなに課金アイテムが飛ぶのなら、1位を獲るためのチャンスかもしれない。


 酔いの回った頭では何も考えられない。ただ、昨日よりランキング順位が高かったことが、俺を肯定してくれた事実だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る