8.FORKからのお知らせ
1位を獲って2,3日。アプリ内のDMを知らせる通知音がうるさかった。
何事が起きたのかと恐る恐る覗いてみる。
なな
「配信楽しかった~! 只野さんって面白いですね。いつかリアルでも会いたいな!」
Cocoa
「配信お邪魔しました。ただのんの話がとっても楽しくて、久しぶりにたくさん笑いました。また遊びに来ますね」
雪華
「初めまして。この前は楽しい配信ありがとう! リアルのこともたくさん話してたし、それなら会いに行きたいなって思ったんだけどいつなら予定空いてる?」
どこのサクラメールかと。
配信楽しかったという感想に交じって、リアルで会いませんか?というお誘いメールの数々。風景やイラストのアイコンに紛れて、本人の写真と思われるアイコンもちらほらいた。しかも、可愛い。
「これ、本当なのかな」
思わず自分の頬をつねる。痛い。
画像が本人かどうか疑い出したらキリがないけど、それにしても可愛い。こんな可愛い子たちから言い寄られるなんて、俺の一生に一度もあるだろうか。
胡散臭い雰囲気がすごくあるけど、どうしたって浮かれてしまう。
「これが1位を獲るってことか」
無意識に上がる口角を、右手でさすり引き下げた。
このアプリを始めた頃はこんなことになるなんて、まるで想像もしていなかった。つまらない毎日に、ほんの少しの変化を求めていたあの頃。
息抜きができればいいな、あわよくば友人めいた関係が築けたら上等くらいの感覚だったけど、それが今ではどうだ。
俺の配信を心待ちにしているリスナーに囲まれて、課金アイテムという形で俺への愛情表現をしてくれて、毎日面白おかしく充実した時間を過ごせている。配信で満たされることで、リアルの生活、つまり仕事や戸井田さんに対しても自信を持って接することができるようになっている。
良い変化しかなかった。
そしてこのDM。
「どの子にしようかな」
思わずそんな言葉が口から飛び出した。女の子のアイコンを選んでじっくり眺めていく。明るい髪色の巻き髪で、ふわっとした女の子が目に留まった。絶対リアルだったら俺なんかとデートしてくれないような可愛さだ。
「いや……、でも、なぁ」
怖気づいて、可もなく不可もなく、普通よりちょっと可愛いくらいの雰囲気が漂う女の子に狙いを定めた。
只野人間
「メッセージありがとう。いいよ。いつがいい?」
恐る恐るメッセージを送ってみる。
アヤメ
「きゃー! 嬉しい! 私、ただのんの住んでるところの近くなんで、いつでも大丈夫ですよ! 明日の夜とかでも!」
早い。返信が早すぎて、どこかから見られているような錯覚に陥る。
只野人間
「明日の夜は厳しいな。明後日の土曜日とかどう?」
アヤメ
「分かりました! どこに行けばいい?」
只野人間
「場所は…――」
本当に約束を取り付けてしまった。
女の子とデートするなんて、一体いつぶりだろう。すぐには思い出せないくらい前のことだ。
学生時代はそれなりだったが、社会人になって出会いなんてほとんどなくなってしまった。そういうものだと思っていたけれど、いざデートかと思うと今更ながら恥ずかしい。
「どうする」
言ったものの心は浮足立っていた。頬をさする右手を押しのけて、勝手に上がる口元に自分でも気づいた。期待に胸が膨らみ、想像妄想だけが目まぐるしく脳内を駆け巡っていた。
だが、明後日は給料日前だ。どうする。
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