第2話 戦隊ヒロイン

 俺は、ぶつかった女子と向かい合って喫茶店の席に座っている。


 あまり関わりたくないと思っていた。


 でも、ここまできたらそんなことも言ってられない。


 俺は、なるべく細かなところまで女子の一挙手一投足を観察した。


 よく見ると、とてもかわいらしい女子じゃないか。


 こんな女子、俺の学校にいただろうかと思うくらい。




 その顔の輪郭は小振り。いかなるヘルメットも装着可能ということだろう。


 少し日焼けが目に付く。


 ヘルメットで隠れているのではと想像がつくところは別。


 透き通るように白いのに対して頬の辺りは焦げ茶色をしているというのがその証拠。




 あれだけ走っても息を切らさないところから、日頃の訓練の壮絶さが窺える。


 瞳は正義という文字を太いペンで書いたように黒々。


 つまり、真黒でいて輝いているというわけだけれども。


 俺がその女子を見ているのと同じように、まじまじと向かいにいる俺を見つめている。


 吸い込まれてしまいそうだ。




 特筆すべきは、鼻筋の通り具合だろう。


 低さといい小ささといい、上品過ぎる。


 キスをするときに邪魔になることはないだろう。




 ま、俺が彼女とキスすることなんてないだろうけどね!




 はぁ……。




 係の人が注文を取りににきた。


 女子はコーラを、俺はホットミルクを注文した。




 そのあとになって、ようやく互いに自己紹介をした。


「SNS戦隊、バエレンジャーだって?」

「レッドの吉田永理。友達からはリーダーって呼ばれてるわ!」


「えっ! それ、まずいんじゃないの。秘密なんだろ、戦隊のことは」

「のんのんのん。永理のリに吉田のダでリーダー。だから平気よ!」


「そうやって半分本当のことを混ぜて嘘をごまかすってことか」

「ごめーとー!」


 係の人がテーブルに来た。コーラとホットミルクと伝票を置いて去っていった。


 伝票はクーラーからの風でひらりと舞い、床に落ちていった。


 俺は椅子の上から屈んでそれを拾おうとした。


 そしたら、リーダーも同じように拾おうとした。


 伝票には俺とリーダー、2人の手が同時に届いた。


 俺はすかさず伝票を引き寄せようと肘を曲げた。


 けど、伝票は動こうとしない。


 代わりに俺の身体が伝票の方へと進んでいった。


 それはリーダーも同じだった。


 どうやら引く力が釣り合ってしまったようだ。


 伝票だけが、びくともしない。俺とリーダーだけが近付いていく。




 危ない。このままじゃ2人ともおしまいだ!




 ドサッという音がしたときは、俺は目を閉じていた。


 だからどうしてこうなったかは全然分かんない。


 でも、俺の唇は何かに守られていた。


 慌てて目を開けると、俺とリーダーの鼻は見事にすれ違っていた。




 代わりに、唇と唇がドッキングしていた。




 どうして俺、リーダーとキスしてんだーっ!


 はぁ……。




 殺される。リーダーにこのことがバレたらきっと殺される。


 どんな必殺技をお見舞いされるか、分かりゃしない。


 幸いなことに、リーダーは目を閉じていて、キスのことには気付いていない。


 俺は慌てて起き上がり、リーダーに手を差し出した。




「しっかりしろよ、リーダー!」


 使える。たしかにリーダーというあだ名は使える。


 だって、吉田永理はこれっぽっちも戦隊ヒロインぽさがないもの。




「あっ、ありがとう。まさか、2度も助けられちゃうだなんて。はぁ……。」


 リーダーの姿には、哀愁が漂っていた。


 特撮戦隊ヒロインものでいうところの全26話中の19話目あたり。


 本筋がマンネリ化したときにみられる私生活チラ見せ会のときのような哀愁だ。


 悪くないぞ、リーダー。俺は心の中でそう思った。


 そして、席に戻ったあと、リーダーはとんでもないことを言い出した。




「兎に角、今日1日は私と一緒に過ごしてもらいますからね!」


 どういうことだろう。このあと、詳しく聞かねばなるまい。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054896422323/episodes/1177354054896444524

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