03:俺と彼女と風邪





 携帯の目覚ましが朝を告げる。意識が覚醒していき、身を起こして目覚ましを止めた。


「いつつ……」


 響花にベッドを貸しているので床に敷いた長座布団で寝ているが、大したクッション性もない長座布団では長時間横になっているのは堪えるものがある。


 次の休みにマットレスでも買いに行くか……。


「長島ー、ふぁ……朝だぞ」


 欠伸を噛み殺しながらベッドの上の響花に声をかける。


「ん……んん」


 声をかけるが少女は起きる気配がない。寝返りで乱れた髪の隙間から少女の表情が伺え──その眉根が苦悶に歪んでるのが見えた。


「……長島?」


 よく見れば汗をびっしりとかいており、そのせいで髪が顔に張り付いていた。呼吸は荒く、細かく短い。


 俺は響花の髪をかき分け額を触る。


 熱い。自分の額にも手を当て比べてみるが、やはり異常なくらい熱い。風邪か……?


 昨日は冷え込んでいたし、そんな中、長時間部屋の前で待っていて体が冷えてしまったのだろう。 たぶんそれが要因だ。先に風呂に入れたが遅かったようだ。


「……ん」


 触れられたことで目が覚めたのか、響花がうっすらと目を開ける。


「あ……おはよ。おじさん……どうしたの?」


「どうしたもなにも……」


 のろのろと響花は身を起こそうとして──失敗した。ぐらりと体がよろめき慌てて俺はその身を支える。触れた腕や背中も熱く、そして汗の濡れた感触が手に伝わる。


「あれ……なんか、体、だるい……」


「ったり前だ。横になってろ」


「んー?」


 響花をベッドに寝かせ、衣装棚の上にある小箱を漁る。そこから体温計を取り出し、響花に渡した。


「これで体温測ってみろ」


「ん……」


 ぼうっとしながら響花は体温計を受け取った。


 体温を測ってる間に俺は台所に向かい冷凍庫を開ける。氷枕を取り出し、タオルでそれを包む。昔買ったままで何年も使ってなかったが久々に役立つ日が来たようだ。


 そうしてる間に体温計が測定完了の音を鳴らし、響花がだるそうにしながら襟元から体温計を取り出した。


「何度?」


「……38度だって」


 響花から体温計を受け取り温度を確認する、


「まあ風邪かな。ちょっと起き上がれるか?」


「うん」


 台所に戻りコップに水を汲み、先程体温計を出した棚から風邪薬を取り出す。


 ……期限が去年までだが、まあ無いよりはマシだろう。


「ほら、風邪薬と水」


「ありがと……ん──苦い」


「そういうもんだ。水飲み干したらもっかい寝とけ」


 コップを受け取り寝そべった少女の上に布団を被せ、さらにその上に毛布を被せる。


「うー……ダルい。暑い。あたまぼーっとする……」


「吐き気とかは無いか?」


「うん……熱っぽいだけ」


「そうか」


 多分疲れも出ていたのだろう。今はゆっくりと休んでもらうのが先決だ。


「今日はゆっくり休んで寝ておけ」


 ベッドに腰掛け少女の額に手を当てる。変わらず熱い。


「おじさんの手……冷たくて気持ちいい……」


 響花が目を細めてうっとりとした表情になる。それがちょっと色っぽくて俺は病人に何の感情を抱いているんだと足をつねった。


 再び台所に戻る。冷水でタオルを濡らし、よく絞って響花の額の上に乗っけてやった。


「長島。ちょっと出掛けるけど、我慢できるか?」


 俺の言葉に反応して少女はわずかに視線を向け、しかし「うん」と一言頷いた。




※  ※  ※




 私は目を瞑ってバタバタと慌ただしく家を出ていく音を聞きながら、頭の下からと上から冷やされ少し冷静な思考が戻ってくる。


 そっか、光太郎さんこれから仕事か。


 熱い……布団と毛布だけだがじっとりと汗が滲んでくる。でも汗を流した分良くなるはずだ。我慢して布団を手繰り寄せる。


 ……少し眠ろう。熱を帯びた思考の片隅でそう思い目をつむる。頭の中がくるくると何かが回っているみたいで落ち着かない。


 深く息をつく。風邪の時に匂う独特の匂いに気づく。それを嗅ぐと、一層風邪をひいてるのだと自覚する。


 頼った次の日に風邪なんて無様すぎる。


 体はそんなに弱いつもりなかったんだけれどなぁ……。


 やはり昨日長時間冷たい風に当たってたのが原因だろうか。

 そんなことを考えながら意識はゆっくりと闇に落ちていった。




※  ※  ※




 自宅のドアを閉め、俺は携帯を取り出す。発信履歴の一番上にある番号をタップし、数回コールを待った。


 時計は既に八時を越えているから多分出社しているだろう。


『はい。もしもし』


「あ……課長、ですか? けほっ……北条で、す」


 努めて具合が悪そうな声色で電話先の相手に声をかける。


『おう、どうした?』


「あの……風邪を引いてしまったみたいでして……大変申し訳ないのですが……お休みさせていただきたく」


『はぁ? マジか。ったくしょうがねぇなぁ……今日の打ち合わせは?』


「確か営業部の高山さんと11時から……」


『わかった。俺が出とく』


「申し訳、あり……ごほっ、ません。今日提出の書類は月曜に提出とさせてください」


『あー? わかったよ。お大事にな』


「はい。すみません……」


 言葉とともに通話が切れる。人生初仮病だった。


 月曜、一応マスクして出社しよう……。そんな小狡い事を考えながら俺は駐車場へ向かった。




※  ※  ※




 ……目が覚める。最初白い壁が視界に写り、ごろりと寝返りを打つと見慣れぬ天井がある。


 物音らしい物音は無く、静かな部屋の中私の呼吸だけが聞こえる。


 一人────。


「……っ」


 身を起こそうとして、ズキンと頭に痛みが走り私は氷枕に頭を預けた。そういえば風邪を引いて寝てたんだった。携帯で時間を確認すると3時間ぐらいは寝てたのか昼前だった。


 熱く、長い息をついて私は天井を見る。流石に寝すぎて眠る気になれない。


 光太郎さんは仕事かな。


 そりゃそうだと思う。毎日夜遅くまで働いているみたいだしきっと忙しいのだろう。私の両親だって、高校生になる頃には私が風邪を引いても仕事に出かけていたものだった。それに勝手に転がり込んできて勝手に熱を出している子より仕事の方が大事だろう。


 でも──寂しいと私は感じてしまっていた。


 不安な気持ちが鎌首をもたげ、私の心を苛ませる。そんな事ありえないとわかっていても、このまま光太郎さんが帰ってこないんじゃないか、私は一人ここに残されるんじゃないかなんて妄想がチラリと浮かぶ。


 なんとなく、小学生の頃を思い出す。親が出かけて行った後、戻ってこないんじゃないかなんて根拠のない不安。暗い外を眺めながら親の帰宅を待っていた、そんな日を。風邪の時に患うよくある弱気だと理解していても、胸に沸いた不安を払拭することができない。


 帰ってくるべきのものが帰ってこない事があることを私は知ってしまっている。それが、私の弱気を刺激する。


「光太郎さん……早く帰ってこないかなぁ……」


 まだお昼。光太郎さんは多分今日も遅いだろう。


 長い息を吐きながら目をつむる。寝れないにしても寝るしかない。


 その時────ガチャリとドアが開く音がした。


 擦るような足音とともに光太郎さんが袋を抱えて姿を現す。


「お? なんだ起きてたのか」


「……え? 光太郎さん……なんで? 仕事は?」


 一昨日より片付けられたテーブルの上に光太郎さんは荷物を置き少しばつが悪そうに視線を逸らした。


「休んだ」


「休んだって……大丈夫なの?」


「あー、まあ、多分」


 難しい顔をしながら光太郎さんは視線を外す。そんな様子では多分大丈夫じゃないんだろう。


「いいんだよ仕事は。第一、風邪で寝込んでる女の子放って置ける分けないだろ」


 言いながら光太郎さんは額に手を当ててくる。少しひんやりとしていて気持ちいい。


「……まだ結構熱ありそうだな──起き上がれるか?」


「うん」


 のろのろと起き上がる。頭が重いし、ずきずきする。


「汗凄いな」


 言われてみて見れば光太郎さんから借りたTシャツは肌にべったりとくっついていて私の体の曲線を露わにしていた。


「光太郎さんのエッチ」


「今そんなこと言ってんじゃねぇ」


 なんて言う光太郎さんの頬は少し赤くなっている。


 でも汗で張り付いた衣服は少し気持ち悪い。


「着替えるか……。台所の方行ってるから着替えたら言ってくれ」


 光太郎さんが新しいTシャツとズボン、タオルを取り出し私の横に置く。


「着替えさせてくれないの……?」


「高校生が何言ってんだ」


 呆れ顔で言われた。


 私は汗で濡れたTシャツを脱ぎ、タオルで腋や首元、胸、足とかをぬぐって、真新しいTシャツに袖を通す。ズボンは腰回りがぶかぶかだが仕方ないだろう。


「いいよー……けほっ」


 声を出して咳き込む。そういえばだいぶ喉が渇いていると今更ながら気づく。


「ほれ、ポ〇リ」


「ん……ありがと」


 戻ってきた光太郎さんがテーブルの上に置いた袋からポ〇リを取り出しキャップを開けて手渡してくれる。受け取ったそれを口に含むとなんだかいつもより美味しく感じられた。まるでポ〇リが体中に広がる様に私の体を満たしていく。それが心地よくて、一気に飲み干してしまった。


「もう一本あるから喉が渇いたら飲みな」


 言いながら光太郎さんはテーブルを動かしてベッドに横づけし、サイドテーブル代わりにする。


「腹減ってないか?」


「空いてるけど……食欲無い……」


 胃袋はとっくに空腹感を訴えているものの、体全体が重くて何か食べる気になれない。さっきポ〇リを飲んだので多少なりとも満たされたのもある。


「じゃあゼリーくらいは食べれるか? 医者から風邪薬貰ってきたから、食べたら薬飲んで寝とけ」


「ん」


「……桃とみかんどっちがいい?」


「桃」


 光太郎さんが袋から桃ゼリーとスプーンを置き、その隣に処方されたと思わしき紙袋に入った薬を置いた。紙袋には「食後2錠 5日分」とかかれている。


 お薬って病院行って貰えるものだっただろうか。よくわかっていない。


 桃のゼリーは買ってきたばかりだからかひんやりとしていて美味しかった。


 錠剤をポ〇リで飲み下し、私は再びベッドに横になる。


 すると光太郎さんは再び私の額に濡らしたタオルを置いた。冷んやりとした感覚に、目を細める。


「ね、光太郎さん」


 私を見下ろす光太郎さんに声をかける。


「ん?」


「……今日はずっと家にいる?」


 言った後で、なんて幼稚な発言だっただろうと恥ずかしくなる。風邪とは別の意味で頭が熱くなり、私は光太郎さんから視線を外した。


「ああ──」


 そんな私の恥ずかしさを知ってか知らずか。光太郎さんの声が昨日よりちょっと優し気に聞こえる。


「……ありがと」


 なんだかホッとして、私は目をつむる。


 不思議と自然に眠りに落ちた。




※  ※  ※




「んん……」


 わずかな呻き声と共に、響花が目を覚ました。


 寝起きのぼんやりとした瞳が次第に焦点を合わせ俺の顔を捕らえる。目が合うと響花は安心した笑みを浮かべた。


「……光太郎さん本当に居てくれたんだ」


「まあ……会社休んだしな」


「ごめんね。私のせいで……」


 眉尻を下げる彼女に俺は努めて明るめの声をかける。


「病人が要らん気を回すんじゃない。反省するならストーカー行為をやめることだ」


「す、ストーカーじゃないし」


 響花は身を起こしポ○リを口に含む。


「ふぅ……少し楽になったかも」


「薬が効いてきたんだろ。熱測ってみろ」


 言って体温計を渡し熱を測ってもらう。


「……37.2度だって」


「お、案外早く熱下がったな」


「そうみたい………………ちょっとお花摘みに行ってくる」


 響花はもぞもぞとベッドを降りると少しふらつきながらトイレに向かった。


 氷枕はもう必要ないかと思い、普通の枕にすり替えて置く。ベッドに落ちたままの濡れタオルを水桶に浸けて再度濡らし、絞っておいた。ここからは濡れタオルだけで十分だろう。


 そんな準備をしているとトイレの水が流れる音がして響花が戻ってきた。


「…………どうした?」


 戻ってくるなり険しい顔をして響花はベッドの上で座りながら布団を手繰り寄せる。


「光太郎さん……お願いがあるんだけど」


 耳まで真っ赤になった顔は熱のせいかそれとも違う理由か。


「な、なんだ?」


「……下着、買ってきてくれない?」


「────────は?」


「パンツとブラ……いやせめてパンツだけでいいから!」


「ちょ、ちょっと待て!」


 流石に焦る。いや今までの人生においてパンツ買ってきては初めて言われた台詞だ。


「だって私……何日も家帰ってないし、洗濯もできてないし……汗びっしょりかいちゃったし……」


 響花が身を守るようにさらに布団を手繰り寄せる。


「なんかその、色々……匂ったりしたら嫌だし……」


 そう言って顔を隠すように埋めた。


 いや、パンツを買いにいかせるのは嫌じゃないのか?


「コンビニでいいから……あー、失敗したぁ先に買っとくんだったぁ」


「そのコンビニ、俺二度と利用できなくね……?」


 え? あのおじさん女性ものの下着買っていったよ? とか噂される奴なのでは。堂々としてれば問題ないかもしれないが、少なくとも平然とした面で買いに行ける自信がない。


「うー……でもでも」


 少女は泣きそうな顔になっている。


 いや俺だって下着がない状況とか嫌だ。


 どうしたものかと首に手を当て、はたと気がつく。俺はタンスに飛び付き、その中からボクサーパンツを手に取った。黒とグレーのストライプ柄のものだ。


「と、とりあえずこれで今日は凌いでくれ! あとは通販で!」


「え、えええぇー……」


 響花がボクサーパンツを受け取り目の前に広げる。


「広げるなよ……」


 なんか恥ずかしいだろ。


 ついでにと別のTシャツも渡す。そろそろ普段着のストックも尽きてきた。


「ちょ、ちょっと着替えてくるね」


 響花も恥ずかしかったのか頬を赤らめながらパタパタと脱衣所へ向かっていった。





「えっと……これでいいのかな? なんかお尻がキツい気がするけど案外悪くないかも」


 下着とTシャツの着替えなんて何分もかかるわけもなく、直ぐに響花が戻ってくる。


「おま……ズボンを履け風邪悪化するだろ」


「だって、おじさんのズボン、ブカブカだし」


 そりゃそうだが、Tシャツの裾から見えるほどよい肉つきの白い太ももの方が目に悪い。


 スボンが太ももを隠し、再びベッドに響花が潜り込んだところで俺はタブレットを渡した。


「とりあえず今日頼めば明日には届くからなんか適当に選んでくれ」


「えー? 一緒に選んでくれるんじゃないんだ?」


 にやりとした彼女の視線が俺に刺さる。


 昼ぐらいまで弱気も弱気だったくせに、元気を取り戻してきたらこれだ。


「俺は服の流行りも女物の下着センスとかわからん。当てんなんねーよ」


「そういうことじゃないんだけど……まいっか」


 少女が下着選びに熱中している間に俺は台所に向かう。


 用意するのは小鍋とレトルトご飯、卵、ネギ、鶏肉……そして雑炊の素だ。


 小鍋で水を沸かしながらレトルトご飯をレンチンする。その間にネギを刻んで鶏肉を一口小に切り分けておく。鍋が沸騰してきたらネギ、鶏肉、塩を入れて火を弱めもうひと煮立ちさせる。


 煮立ったところでレトルトご飯を投入し、雑炊の素を入れて全体的にスプーンで解しながら混ぜてもう一煮立ちさせる。最後に溶いた卵を全体に広がる様に流しいれ蓋をして火を止めた。後は余熱で十分だ。


 出来上がった小鍋を持って台所から戻ると響花がタブレットから顔を上げ、目を丸くして俺を見ていた。


「料理できるんだ」


「こんなもん料理って言う程でもねぇよ」


 身を起こした響花の目の前に持ってきて蓋を開ける。ふわりと湯気が広がって消えると、半熟卵に包まれた雑炊が顔をのぞかせた。


「食欲あるか?」


「うーん……うん! 食べれそう──いい匂いっ」


「あ、レンゲ忘れた」


 台所からレンゲと、とんすいを持ってくる。レンゲで雑炊の一部をとんすいに分け、もう一回雑炊を掬って息を吹きかけて冷まし一口食べる。うん、そんなに悪くはないはずだ。


「ほれ」


 レンゲを差し向けると少女は硬直した。心なしかさっきより顔が赤くなっているような気がする。


「お、おじさ……間接キス……」


「──ん?」


 何事かと小首をかしげ──納得する。


「……初心かよ」


 気にせずレンゲを揺らす。


「うー……あーんもいいから! 子供じゃないんだから」


 子供だろと言おうとして言葉を引っ込める。


 響花はひったくる様にレンゲを奪い取ると、そのまま口に含んだ。


「……ん──美味しい!」


 恥ずかしそうにしてた顔は見る見るうちに笑顔になり、俺はちょっとホッとする。


「光太郎さんこれ美味しいね!」


「ああ。お口に合ったようで何より。熱いから冷ましながら食えよ」


「うん!」


 とんすいに分けて少女は少しづく食べていく。食欲も回復してきたようだし、この分には明日には回復してるだろう。


「さて……俺も何か食べるか」


 チキラーに卵でも落として食べようと俺は台所に向かった。


「ごちそうさまでした!」


「お粗末様でした」


 俺がチキラーを食べ終わるぐらいに響花も雑炊を食べ終わる。ゼリーぐらいしかまともに胃袋に入れてなかったせいか、ぺろりと全部平らげていた。


「はー……美味しかったぁ」


「忘れずに薬も飲んでおけよ」


「はーい」


 コップの水で薬を飲み始めるのを見てから、俺は食器を重ねて台所へと持っていく。


「……ん?」


 台所から戻ってくると空になったコップを見つめながら響花が神妙な顔をしていた。


「あの……おじさん、ごめんね。家事するって約束だったのに風邪ひいちゃって。仕事もお休みさせて……」


「あざといわ阿呆」


 俺の言葉に響花は顔を上げる。


「あ、あざといって……私、本当に反省して──」


「風邪ひいた人間を看病する。ただそれだけの当然のことをしたまでだ。感謝されるならまだしも謝られる筋合いはない。病人は病人らしくとっとと風邪を治せ」


「…………はい」


 言い方がきつかっただろうか。響花はしゅんとしおれた花のように肩を落としてしまった。


「もし俺が風邪を引いたら──その時看病してくれれば、それでいい」


 言って、その場面を想像し──なんだか恥ずかしい気分になり俺は響花から目を逸らした。


「──うんっ」


 顔は見えなかったが、弾むような返答は心地よく耳に響いた。


「おじさん」


「ん?」


 呼ばれ、響花を見る。


 風邪のせいか響花は顔を真っ赤にしながら、それでもふわりと優しく微笑んで俺を見ていた。


「ありがとう──」


「どういたしまして」



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