第9話_最終決戦_

「皆、準備はいいな? 」


 ごんの確認に、全員がうなずく。

 最期の扉が、重々しく開かれた。


「よく来たな、余らの末裔まつえい達よ。

 余こそ三大使徒最後の一人、雷神らいじんゼウスである 」


 きらびびやかな玉座に座っていたのは、40代後半の男性。

 右手に握られているのは、稲光いなびかりかたどったかしつえ


「そしてあなたは唯一、はる神代しんだいより連続した人格だ 」


 深明しんめいの言葉に、他の三人は驚きの視線を向ける。


「ほう、知っておったのか。

 いかにも、他の二名は名の継承者けいしょうしゃに過ぎぬ。

 の人格のみは、ギリシャより連綿れんめん継承けいしょうされ続けてきた物だ 」


人格じんかく継承けいしょうってのが真実なら、体はどうして来たんだよ?

 まさか、昔からずっとあの姿って訳じゃねえだろ? 」


 竜也りゅうやの問いには、深明しんめいが答える。


「複数の子を作り、その中で最も良く育った肉体に人格を継承けいしょうし続けてきたんだ 」


「そうだ、そして今の余が使っておるのは、そこの少年の父親だ。

 そういうわけでな、初めましてだな、息子よ 」


 ゼウスが指差したのは、ごん

 衝撃の事実に、ごんの表情は真っ蒼になる。


「本当なんですか、深明しんめい先生? 」


「残念ながら、奴のげんは事実だ 」


 深明しんめいが肯定したことで、事実を受け入れたごんは、膝を付き項垂れる。


「他にも候補は幾つかあるが、貴様が一番次の器に相応ふさわしい。

 貴様の肉体でならば、かつてギリシャで使用した、最高期の肉体にも勝る性能を発揮出来よう 」


 ゼウスは玉座から立ち上がり、杖をかかげる。


「貴様の肉体は、余の所有物しょゆうぶつである。

 今こそ返してもらうぞ! 」


 杖の先から、ごんに向けて雷撃らいげきが放たれる。

 それに一人だけ反応し、ごんかばった人物がいた。


 山中やまなか 深明しんめいである。


「ほう、余の雷霆ケラウノスさばくか。

 本気ではなかったとはいえ、見事だとめてつかわす 」


「無事か、ごん 」


 深明は、後ろのごんに振り向いて声をかける。


「先生こそ! 

 俺をかばってあんな攻撃食らって…… 」


「アースの要領で地面に流したから、ダメージはない。

 それより、初志しょしを思い出しなさい。

 お前は、何のためにこの旅に出た? 」


 その言葉を聞いて、ごんの顔に活力が戻る。


「両親に会って、本当の名前を聞く事です! 」


 ごんはゆっくりと立ち上がり、自分の願いを口に出す。


「ならば彼を倒さなければ、そのどちらも叶わない 」


 深明しんめいうながされて、ごんは大きく息を吸い。


「俺は、俺の願いの為にゼウスを倒す!

 皆、力を貸してくれ! 」


 大きく叫んだ。


「もちろん、最後までごんちゃんについて行くよ 」


「俺も同じく、なにより自分が世界の中心みたいな態度が、気に食わねえ! 」


 四人が並び立ち、ゼウスに対峙たいじする。


「よかろう、いくら群れようとも神には届かぬ事、思い知らせてくれるわ! 」


 ゼウスは、杖により大量の電流を流し、一層強力な雷霆ケラウノスを放つ。


 正一しょういち竜也りゅうやは二人がかりで迎撃げいげきし、拮抗きっこうさせる。

 その隙に、ごんふtころもぐり込もうとするが、深明しんめいに止められる。


 深明しんめいの背中すれすれを、強力な雷霆ケラウノスが走り抜ける。


「もう少し踏み込めば、当たっていたものを。

 あの人間の技を、お前も会得えとくしておるのだな、厄介な 」


 二人と放電の鍔競り合いをしていてなお、まだこれだけの反撃を行う余力がある。

 その事実に、ごん驚愕きょうがくする。


「そも、何故貴様らは余の邪魔をする?

 余が覇権はけんを握れば、この世は再び雷人らいじんの時代となる。

 雷人らいじんへの人権さえ認めぬ、人間共が貴様らは憎くないのか? 」


 ゼウスが杖で地面を突くと、強力な磁場が発生し、四人が吹き飛ばされる。


 壁まで吹き飛ばされた彼等に、ゼウスは追い打ちをかけるように雷霆ケラウノスを放つ。

 深明しんめいだけは即座に体勢を整え、地面に流す構えを取る。


 しかし、かばうことまでは出来ず、他の三名はガードして堪える。


「あなたの考えは間違っている! 

 人間にしいたげられたから、やり返すのであれば、結局そこに憎しみが生れるだけだ! 」


 正一は叫ぶ。


「俺は元人間だ。

 以前は雷人らいじんどもが憎かったが、今は違う。

 お互いに、理解し合い歩み寄っていくべきなんだ 」


 竜也りゅうやは語る。


「人間も雷人らいじんも、どちらが上でも下でもない。

 上下関係を作ろうというあんたが正しいとは、どうしても思えねえ 」


 ごんいかる。


「分からず屋どもが。

 いいだろう、余の全力の雷霆ケラウノスを食らわせてくれる! 」


 今までに無いほど強力な電流が、樫の杖に流れ込む。

 同時に発生する強力な磁場の反発により、ごんたちは近づくことが出来なくなる。


「精々消し飛ばぬよう、全力で耐えてくれよ?

 特に、余の次の器が消し飛んでは、覇道はどうがまた遠退とおのくのでな」


 ごんが、右手首のリストバンドをほどいた。

 四人は集まって、ごんかかげた右掌みぎてのひらに力を集中させる。


「我ら、互いに目的は違えども! 」


 まず口上を述べたのは竜也りゅうや

 ごんてのひらに小さなプラズマ球が発生する。


「ここに集い、共に戦えた奇跡きせきに感謝を示そう! 」


 次の口上は、正一しょういち

 そのプラズマ球は、加速的に大きさを増していく。


「ならば、我ら命をあずけるにいささかの躊躇ちゅうちょも無し! 」


 三人目は深明しんめい

 今までにないほど巨大化したプラズマが、青くまばゆいかがやききを見せる。


「今こそ力を一つに、最後の技を放とう! 」


 最期の口上はごん

 かかげた右手を下ろし、狙いを定めるようにてのひらをゼウスに向ける。

 そして、三人がそれを支える様に、権の右腕を持つ。


 ごんたちの準備が完了する直前、ゼウスも技の準備を終える。

 あまりのエネルギーに、杖は赤熱し空間がゆがんでさえ見える。


真之雷霆アリーシャケラウノス! 」


球電絆一砲きゅうでんはんいつほう! 」


 雷霆ケラウノスと、球電砲きゅうでんほうがぶつかり合う。

 永遠とも思える拮抗が続く。


 そして、段々と雷霆ケラウノスが押されていく。

 球電きゅうでんは威力を失わず、時間を経るごとに力を増しているようにさえ見える。


「あり得ぬ!

 幾たびも転生を重ねてきたが、一度たりとも余の本気の雷霆ケラウノスを破った猛者などいなかった! 」


 ゼウスが、この戦いの中で初めての焦りを見せる。


「あり得ないなんてことは、あり得ない! 」


 ごんが叫ぶ。


「一人では弱くても、共に協力し合い、より大きな敵を破れるのが人間の強さ!

 それを認めた俺たちは、その力を手に入れた!

 だが、あんたは人間を見下したがゆえに、個の力でしか戦うことができない! 」


 球電きゅうでんは、ゼウスを玉座まで押しやることに成功する。

 雷霆ケラウノスの力は、弱まっていく一方だ。


「それが、あんたの敗因だ! 

 古い怨霊は、いつまでもこの世にしがみつかず、世代交代を受け入れろ! 」


「いやだあ、死にたくない!

 余にはまだ、やるべき事がーー!」


 ついに、球電砲きゅうでんほうがゼウスの体に到達とうたつする。

 この世の物と思えない絶叫と、球電きゅうでん内部に取り込まれたゼウスの体。


 それが消えた時、ゼウスの体は地にち、かしの杖は砕かれた。


 ごんは走り寄って、彼の息を確認する。


「父さん、しっかりして、父さん! 」


 権が、彼の体を揺する。


「……何故、私の人格がある? 」


 その人物が目覚めて最初に言ったのは、その言葉だった。


「ゼウスの人格が消え、元の人格が戻ったのだ。

 安心しなさい、彼の命に別状はない 」


 深明しんめいがそう保証すると、ごんはその人物に抱き着く。


「もしかして、私の息子と貴方たちが、ゼウスを滅ぼしてくれたのか?

 ありだとう、息子の成長を見ることは無いとばかりに考えていた 」


 彼は、事情を察してごんを抱きしめ返すと、涙を流す。


「置いて行ってごめんな、こんなに大きくなってくれて、嬉しいよ 」


 ごんが、抱き着いたまま、問いかける。


「あなたの手紙、俺の名前だけ分からなかったんです。

 あなたの口から、教えてください 」


「ああ、何度でも呼ぼう

 お前の名前は__ 」(Nameless Hero 完結)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Nameless Hero~無名の少年、権の英雄譚~ 牛☆大権現 @gyustar1997

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ