マッド・ハット・アブセンス②


「B・Bさん。今から貴方を強制的に自白に追い込みます」


「おい、リビエラ。ノヴァちゃんがおかしくなったぞ?」


 リビエラはふんぞり返って椅子に座り、田中君に何か小声で話している。ウィッチはノヴァちゃんの言葉を聞いた途端、ワクワクが止まらない様子だ。


「おい、リビエラ」

「なによ?」

「ノヴァちゃんが、おかしいんだよ」

「B・Bさん? 始めてよろしいですか?」


「何を始めんだよ? おい、リビエラってば、このゆるふわ、自白に追い込みます。とか言ってるぞ?」

「いいじゃない。早く自白して罪を償いなさい?」

「いや、強制的とか言ってるぞ?」


「B・Bさん? 我々は警察官ではありませんよ?」

「ふざけん──────」


 ──────なんだか急に、激しい目眩を起こした。


 何が起きた?


「……B・Bさん?」

 なんだ? ノヴァちゃんの声が遠くの方で聞こえる。


 何かされたのは間違いない。


「B・Bさん? 周りをよく見てください」

 辺りを見渡すと、真っ白い空間が広がっていた。誰もいない。


 なんだこりゃ? 


「B・Bさん。ここでは私と貴方、二人きりです」


 気づくとノヴァちゃんが横に立っていた。

 クソ……そういや、このゆるふわガール……。


「自白してくれるまで……逃がしませんから……」


 クソ……完全にハマった。幻覚だなこりゃ。ありきたりすぎるんだよ。この、ゆるふわめ。『ブルフラット・ノヴァ』たしか……シャーマンだったな。いつも、デスクワークしてるとこしか見てなかったからなぁ……。


「B・Bさん? お気づきですか? もう手遅れです」

「ああ、そう」


 一瞬、もう吐いちまった方がいいかな? なんて思ったが、もう少し様子を見てみるのも、悪くない。


「どうせ自白するなら、早めにお願いしますね?」


 ノヴァちゃんがなんだかさっきまでとは違う雰囲気だけど……それも悪くないかな? と思った。


「ノヴァちゃん。俺はアレだぞ? 自白の仕方なんて知らないぞ。なんだ自白って?」

「簡単ですよ。「私はリコちゃんのスカートをめくりました」と言って頂ければいいだけです」

「言ったらどうなるんだ?」

「書類を次の部署へ送ります。さっき言いましたよね? 聞いてなかったんですか?」

「ああ、そう」


 なんなんだ? てっきり、アレかと思ったけど……破廉恥な展開には持っていかない気だな?

 ただ、そうなると、俺はどうしたらいいのか分からないぞ?

 このままだと、俺は自白しないぞ? 大丈夫か?



 周りを見渡してみるが、相変わらず白いままだ。なんの音も聞こえない。リビエラが2、3分とか言ってなかったか? もう、結構経ってる気もするが……大丈夫か?


「ノヴァちゃん? 大丈夫なのか?」

 返事がない。

「ノヴァちゃん?」


 何をしてるんだ……ゆるふわガールめ。早く自白させろ。

 何度も周りを見渡しているがノヴァちゃんは見当たらないし、白すぎて目がおかしくなってきた。


「おい、いい加減に──────」

 ──────ふと、足元になにやら気配を感じ目をやると、なんだか可愛らしい子犬が俺のことを見ていた。


「ノヴァちゃん? なにコレ?」

 返事がない。


 どうしろというんだ? なんだこの犬は? アレか? ヨークシャー・テリアか? 知ってるぞ。ガキの頃、ネズミ講みたいなことしてた近所のくそばばあが飼ってたんだ。「モモちゃん」とかいう小汚ねぇヨークシャー・テリアを。どうしようもないバカ犬だったな。


 あのくそばばあ、モモちゃん連れてご近所中を回ってたんだ。変な化粧品売り付けようとして……。うっかり騙されるとダンボールに入った大量の化粧水やら乳液やらが送りつけられてくるんだ。


 俺の家には大量に転がってた……。


 結局最後は、近所の奥様達に愛想尽かされてたな……あのくそばばあ……。

 まさか、こいつモモちゃんか? いや、違う……モモちゃんはこんなに可愛らしくない。とにかく小汚いんだ。



「ノヴァちゃん?」


「なんですか?」


 ノヴァちゃんはどうやら俺の背後に居たみたいだ。よかった。居なくなってしまったのかと思った。


「ノヴァちゃん。この犬はなんだ?」

「犬? 私犬飼ってないですけど?」

 それは、さっき聞いたな。

「ノヴァちゃん。時間は大丈夫なのか? クソメガネに怒られるぞ?」

 返事がない。


 なんですぐ居なくなるんだ。ノヴァちゃんは。

 どうすりゃいいんだ俺は……。




「もういい加減、自白……してくださいよ」


 暫くボーッとしていたらノヴァちゃんの声が聞こえた。ノヴァちゃんは俺の背後に隠れていたみたいだ。まったく……いなくなってしまったのかと思ったぞ……。


「ノヴァちゃん? 自白? する……するから……」



「……B・B……?」

「アンクルB・B?──────」


「──────アンクルB・B? あなた、どうしたの?」


 ふと、我に帰ると会議室に居た。


「B・B? なにボーッとしてんの?」

「ん?」

 ウィッチが不思議そうな顔で俺を見ている。

 辺りを見渡すと、リビエラも不思議そうな顔で俺を見ていた。


「ノヴァちゃんと田中君は?」

「田中君は飲み物を取りに行って貰ったじゃない?」

「ノヴァちゃんは?」

「ノヴァちゃん? 誰かしら?」

 リビエラが首をかしげる。


「B・B。どうしたの?」

「いや、ノヴァちゃんだよ」

 ウィッチがジーッと俺の目を見ている。


「怖いよぉ。姉さん。B・Bがおかしなこと言ってるよぉ」

 なんだ? おかしい……これまだ、幻覚だな? ゆるふわめ。


「アンクルB・B。ウィッチちゃんが怖がってるわよ?」

「ああ、そう」


 そんなことより、ゆるふわだ。あいつどこ行きやがった?

 姿は見えない。気配を感じるしかない……心の目で見るんだ。

 目を閉じてジーッとしていたら、ウィッチが「怖いからやめて。もうやめてB・B」と茶化してくる。


「あなた、さっきからなんなの?」

 リビエラが眉間にシワを寄せている。


 うるせぇ。幻覚は黙ってろ。

 もう一度、目を閉じようとすると、田中君が飲み物を持って戻ってきた。


 ────!?


 気づくとまた真っ白い空間に居た。

 目の前に田中君が立っている。


「B・Bさん。自白する気になりましたか?」

「は? てめぇ誰に口きいてんだ?」

「勘弁してくださいよ。B・Bさん」

「ノヴァちゃんはどこ行った?」

「ノヴァちゃんなんて居ません」

 コレも幻覚だろ? 田中君と二人きりはキツいから勘弁してくれ。


「B・Bさん。まだ、取り調べの途中です」

 ん? どういうことだ?

「コレが自分のやり方なんすよ」

「……よく意味がわからないけど?」

「自分も一応、シャーマンですからね……すいません」

「なんで謝んの?」

「ノヴァちゃんなんて元々居ません」


「嘘でしょ?」


「マジです」


 いや、ちょっと待て。マジか? 俺は何をしてたんだ? ノヴァちゃんは居ない? 嘘だろ? あのゆるふわガールはなんだったんだ? 昔っから知ってるぞ? 知ってるよな? ん? ノヴァちゃん? ん? モモちゃんは?   



 モモちゃんは? あの小汚ねぇ犬は?










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池の水全部抜くって言うから特殊能力使って台風起こして阻止しようとした結果世界が滅びそうになった件 (有)柏釣業 @kashiwachogyo

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