東大卒 vs 地方国立大卒

 ある日の朝、出社するといつもよりフロアがバタバタしているのがわかった。


「秋山、運用部門への指示とユーザへの通知はやったのか?」

「運用部門からエスカレーションを受けた段階で、暫定対応を指示しました。ユーザへの通知はまだですが、通知文を現在作成中です。午前中には全社に通知します」


 プルルルル……


「はい、デジタル事業部秋山です。はい、申しわけございません。現在復旧作業中です。――」


 朝から電話が鳴り止まず、秋山さんはユーザ対応等で忙しそうにしている。



 田中さんが秋山さんに近づき、

「忙しいところごめんね、、財務部から支払いシステムが利用できないという問い合わせがあったんだけど、対応お願いできるかな?」

「すみませんが、これからそのシステムの運用部門と打ち合わせが入っているんです。今回の不具合の原因は――」


 忙しさのせいか、いつもより少し強い口調で秋山さんは田中さんに説明する。


「了解です。では、僕の方で出来るところは対応しておくね」

 よろしくお願いします。と伝えて、秋山さんは島田さんと共に運用部門へ向かった。





 ◇◇◇

 会議から戻った足で、秋山さんが田中さんの席に来た。


「田中さんっ! ユーザからの問い合わせにどんな回答したんですか。運用部門にもユーザからのクレームが沢山来たみたいです」

「えっと、、今朝秋山さんから聞いた内容をもとに、何故休止しているのかを説明したつもりだったんだけど。。まずかったかな」


 田中さんは必死に対応内容を説明した。


「内容としては間違っていませんが、ニュアンスがよくないです。その回答だとデジタル事業部と運用部門の責任になってしまいます。元を辿れば、業務部門である財務部の問題です」

「ごっ、、ごめんね。理解が足りていなかったよ……」



 小さなため息をついて、秋山さんは自席につく。いつもよりキーボードを叩く音が大きく、傍から見てもイライラしているのがわかった。




 お昼のチャイムが鳴り響く。


「司〜。ランチ行こう〜」

 お腹ペコペコ、とセラが呑気な声で誘ってきた。


「……うん」

 秋山さんの手は休憩時間に入っても止まらなかった。



 ◇◇◇

 広場にてテイクアウトした定食を食べる。


「あ〜、田中さんと秋山さんって反りが合わないんすよね〜」

「どうして君がいるんだ」


 私の隣に八宮くんが座り、コンビニのおにぎりを頬張っている。


「まあまあ、いいじゃない司。人数が多い方が楽しいし」

「外で食べるの久しぶりっす。外の空気を吸うのっていいですね〜」

 八宮くんは屈託のない笑顔で喋った。



「それで、どうして反りが合わないんだ?」

「ん〜。田中さんってすごく頭のいい人なんですよ。東大卒ですし。でも、あの腰の低さから頼り甲斐はあまりなくて、大きな仕事は振られていないんです」


 ごくん。とおにぎりを飲み込み、続ける。


「一方、秋山さんは地方国立出身なんですけど、愛想もいいし、仕事も早くて上司からの信頼が厚いです。高学歴で仕事が出来ない人をみると、自分より頭がいい癖にどうしてこんなことも出来ないんだって思うみたいです」

「あるあるの光景ね」


 八宮くんが営業支援ツールを田中さんと導入したことを思い出した。


「八宮くんは田中さんと仕事したことあるんだろ?その時はどうだった」

「俺は結構田中さん好きです。親しみやすくて、なんでも相談できるし、愚痴とかもずっと聞いてくれるいい先輩ですよ。逆に、秋山さんはちょっと怖いかもです。雰囲気はふわっとしてるんすけど、人によって態度変えるしあまり好きになれないっすね」

「優しいっていうのは、時に残酷なこともあるけど」

 食べ終わったお弁当を袋に詰めながら呟く。


「私も司と同じ意見だわ」

「え〜どういうことですか。…….って食べ終わるの早っ!!」

「ふふふ。若い男子にも言われてるわよ」


「八宮くんはまだまだ人生経験が足りないんだよ。本気で人を好きになったり、何かに一生懸命になったり……っそういう経験はないのか?」

「ん〜。俺は来るものあんまり拒まず、去るもの追わずなスタイルなんで」


「クソが」

「クソね」



 慌てて八宮くんが言い訳をする。

「みんな最初は仲良くしてくれるんですけど、徐々に疎遠になっていくんです。昔から、男女問わずこんな感じなんす」


 特定の仲良い友達もいないし、それが普通になったから、もうなんとも思わなくなりましたね。と、乾いた笑顔で喋ってくれた。


「宅飲みしてる同期とかみると、ちょっと冷めた目で見てしまいます」

「あら、爽やかイケメンにもダークサイドな部分があるのね」




 人間誰しも、暗いところの一つや二つある。それを見せないだけで。




「ちなみに、私も友達はいない。電話帳も定期的に棚卸しをして、人間関係をリセットしている」

「司かわいそう。。」

「それはちょっと……」

「おい、引くなよ」


 セラと八宮くんに同情されたのが少し気に食わない。

 けらけら笑う八宮くんを見つめ、さっき飲み込んだ言葉を思い出す。




『本気で人を好きになったり、何かに一生懸命になったり……誰かを信頼したり』

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