第19話 コバたんと桜子が出会った日

 今日は桜子のお宮参りだ。

女の子は生後32日目に行うとか、大安の日が良いとか、説によって微妙に違うが一般的に暑さが厳しいとか赤ちゃんに優しくない季節を避けて生後1か月ごろに行われる。


 桜子は4月2日生まれなのでゴールデンウィークに参拝した。

 母親の洋子に抱かれて眠る桜子を、父親の栄一えいいちがデレ顔でのぞき込んでいる。


 洋子は栄一えいいちの大学の先輩で、生まれも育ちも武蔵領のキャリアウーマンだ。

 仕事を頑張りたい洋子は結婚するつもりがなかった。そんな洋子に惚れ込んだ栄一えいいちの、自分がメインで家事も子育ても頑張るからという説得のようなプロポーズを経てゴールインした。


 宣言通り、桜子のおむつ交換もお風呂も夜泣きも99%の割合で栄一えいいちが対応しているが、家事はお手伝いさんや専属の料理人に頼っている。出来るものなら授乳もしたい栄一えいいちだったが無理なので、今は料理長に学びながら離乳食作りの予習に全力だ。



 いつのまにか洋子の肩に止まった白い鳥形の精霊がデレ顔で桜子の寝顔を眺めていた。フワモコでかわいい。


「まあまあまあ! 精霊様だわ」

「桜子ちゃんを祝福してくれるのかい? ありがとう」

 祖父母が興奮気味に話す横で栄一えいいちが愛用のカメラで洋子と桜子と精霊の3ショットを激写していた。絶好のシャッターチャンスだ。


── 精霊は桜子に寄り添いながら家までついてきた。


 精霊に愛される人間は人口の約2%ほどだ。精霊に愛されると死ぬまで寄り添ってもらえる。可愛い以外には特にメリットはないが名誉なこととされており、精霊は大切にされる。


 さっそく桜子の子供部屋にコバたんの宿り木などが整えられた。

 各方面へのヒヤリングやコバたんとのコミュニケーションの結果、食べ物も持ち物も白いものを好むことや男嫌いであることが分かった。


 今日もベビーベッドの柵にとまって、すやすやと眠る桜子をデレ顔で見つめていると栄一えいいちが現れた。


「コバたん、桜子ちゃんの様子はどうだい?」

「クポ!」


 オス嫌いのコバたんは桜子の元にやってきた当初、桜子に近づく栄一をくちばしで激しくつついて攻撃していたが、壊滅的に家事オンチな母親の洋子や、箱入り過ぎて何もできない祖母の桂子かつらこに任せていたら愛する桜子が無事に成長できないと早々に悟り、栄一えいいちを受け入れた。



「クポッ」

 桜子に異常はないと、コバたんが羽を広げて栄一えいいちに挨拶する。


「コバたんがついていてくれるから、僕らも安心だよ」

「クポ!」

 栄一えいいちからの信頼に鳩胸を反らし、誇らしげだ。


「桜子ちゃんを見守るコバたんも可愛いけど、桜子ちゃんに添い寝するコバたんも可愛いよ。最近は桜子ちゃんに添い寝してくれないんだね?」


「…クポ」

 そっと目をそらすコバたん。


 武蔵家にやってきたコバたんはウキウキと桜子に添い寝したが、生後間もない赤子とは思えない桜子の寝相に翻弄され、羽が抜け落ちる思いをした。

 …その日は、たまたまだろうと思いながら何度か添い寝にチャレンジした結果、コバたんは栄一たちが用意してくれた宿り木で眠ることにしたのだった。

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