第18話 武蔵領の桂子

 武蔵領、前領主夫妻のお屋敷では今日も前領主夫妻が仲良く寄り添っていた。


「カバのムームー?」

「そう。桂子かつらこさん、好きでしょう?」


 武蔵領に北欧の人気キャラクターのパークが出来た。オープンから数ヶ月経過して落ち着いた頃合いなので己一きいち桂子かつらこをお忍びデートに誘った。



「2人きりでお出かけなんて久しぶりね」

少女のようにはしゃぐ桂子かつらこが可愛らしい。


「僕らが隠居してからは桜子ちゃんといつも一緒だったからねえ」


 己一きいちは桜子が5歳の頃に領主の座を息子の栄一に譲り、その後は趣味を活かして領地の発展に尽力してきた。

 18歳で学生結婚した2人は20歳で跡取り息子に恵まれた。栄一が30歳の時に孫の桜子が生まれたので息子が35歳、己一きいち桂子かつらこたちが55歳での隠居だった。


 隠居後も領地の発展のために尽力してきた2人にとって楽しい毎日だった。忙しい息子夫婦に代わって溺愛する孫娘を連れ歩きながら領主としての英才教育も施してきた。遊ぶように学べたことは桜子にとってもラッキーだった。


「私たちだけで出掛けたと知ったら桜子が拗ねないかしら」

「桜子ちゃんにはお土産を送ろう。夏休みに武蔵領に帰省したらヒロくんと一緒に出掛けるよう勧めれば、きっと大喜びだよ」


 学園で出会ってすぐに恋に落ちた祖父母は孫たちの可愛らしい初恋に理解がある。

 代々、春狩領とは同盟関係にあり良好な関係を続けてきたし6代前には武蔵領の娘が春狩領に嫁いでいる。


 この娘が精霊に愛されていたという記録が残っている。同じ血を引く桜子やヒロが精霊のコバたんやテックンに愛されているのは偶然ではない。精霊に愛される血筋なのだ。


 また桜子の恋心とは関係なく、己一きいち桂子かつらこも息子の現領主もITに強い春狩領の重要性を認識している。

 ヒロの父である春狩領主が1990年代後半にネット販売会社のアマゾネスを誘致して2000年代前半に急成長させたことも、国内のIT企業を領内に数多く誘致したことも、領地内の大学でテクノロジー関連の教育に力を入れていることも今なら凄い事だと理解できる。領地は狭くとも重要な同盟相手なのだ。


「ヒロ君も桜子ちゃんのことを想っているのは間違いないと思うんだけどねえ」

「甘酸っぱいわよねえ」

「2人が上手くいって結婚したら生まれてくる子供も精霊に愛されるかもしれないよね」

「そうなったら素敵だわ」


呑気で楽観的な祖父母だった。

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