第30話 二品目「腕肉の肉じゃが」

 今日は午前中に授業がないかわりに、アルバイトがありました。開店自体は十一時なので、その時間帯の仕事は当然開店準備になります。ランチセット用のサラダを作ったり、パフェにのせる果物のカットだったりが新人の役割です。簡単で単純な作業ですが、数を作らなきゃいけないのでだんだんと虚無を感じ始めます。夜よりは間違いなく楽なんですけどね。

 お昼ご飯はバイト先で食べましたので、そのまま大学に行けます。水曜日の授業は楽でも大変でもない授業ばかりです。英語の授業だけは嫌いですね。先生は良い人なんですけど、英語というもの自体がダメです。


 五限の授業後、友達に夕食に誘われましたが、金欠だからと断ってきました。すでに献立が決まっていて、口の中がもうそうなってしまっているのは事実ですが、金欠なのも事実なのです。彼の処理のためにバイトのシフトを減らしてしまった割に、出費はちょっと多めなのです。初めてのバイト代は最近入りましたが、節約しないと今月末まで持ちません。いえ、そこまで切羽詰まってはないのですが、ちょっと外食するには不安かなぁという感じなのです。外食すると何だかんだ二千円以上はかかりますからね。


 今日の夕食は肉じゃがです。お肉、にんじん、ジャガイモ、それと玉ねぎ、この組み合わせで作れるもので最初に思い浮かんだのはカレーでしたが、折角ですし初めてのものに挑戦してみたいのです。カレーは何日分かまとめて作れますし、実家でも何度か作ったことがありましたから、自炊を始めてからすでに十回は作ってますからね。

 献立は決まったので、足りないものを買ってきましょう。お味噌汁は家にあるものでどうにかできますので、買ってくるのは本当に肉じゃが関連のものだけです。自炊したての頃は張り切っておかずを二品も三品も作っていましたが、あれは続きませんね。お金だけでなく、自分の食事のためだけにあの気力を消費する気になれません。


 帰ったら、まずはご飯を炊き始めます。今日も一合だけです。明日はお弁当を作る予定ですが、そのためのご飯は昨日の残りと今日残るであろう分があれば十分すぎるほどです。今日の分のお肉を冷蔵庫に移すのも忘れないようにしなければ。



 この後はすぐに夕食の準備をし始めても良いのですが、先に肋骨の処理を半分だけやっちゃいましょうか。あれは面倒ですからね。少しでも進めておかないと夕食後が大変です。

 ゴム手袋をつけての細かい作業も慣れてきたのですが、この蒸れだけはやはり嫌いです。素手でやるわけにはいかないので我慢するしかないのは分かっていますが、嫌いなのは仕方ないのです。

 濁った水を少し捨てて、適当に上の方から一個塊をとる。三角コーナーの上で何度か手で洗い、歯ブラシで細かいところのぬるぬるを落としていく。綺麗になっていくのは気持ちいのですが、数がありますからね。誰か代わりにやってくれませんかね。


 バケツ一個分の処理を終え、地下室に骨を運んできました。腕の骨はもうほとんど乾いていました。ただまだなんとなくしっとりしています。完全に乾かした方が今後の処理が楽ですし、もう少しかかりそうです。脚の骨は腕の骨に比べると結構色が抜けていますね。真っ白まではいかないのですが、なんとなく表面もざらざらしていますし、洗剤で溶けてしまったのでしょうか。



 さて、さすがにもう夕食の準備を始めなければ。


 最初は鍋で水を沸かしましょう。お味噌汁の分です。もともとお味噌汁を作る際に使っていた小鍋は骨を煮るのに使ってしまいましたから、今日からは新しい小さな雪平鍋です。ついでに肉じゃがの方の鍋も出してしまいましょう。こっちは雪平よりも一回り大きな両手鍋です。


 沸くまでに材料を揃えましょう。にんじんとジャガイモはしっかりとたわしで洗い、しらたきも軽く洗ってざるにあげておきます。皮はむかなくてもいいですよね。実家でもそうでしたし、ちゃんと洗いましたし。玉ねぎは両端を落として、皮をむきます。半分はお味噌汁に、もう半分は肉じゃがに使います。

 ジャガイモは四等分、芽が出ていないかどうかはちゃんと確認しました。にんじんは明日のお弁当の分を残して、三分の二ほどをやや細かめの乱切りにします。玉ねぎは半分に切ったあとはそれぞれ串切りにしていきます。ジャガイモとにんじんは一緒にしておいていいでしょう。ただ、玉ねぎは別にしておきます。こっちの方が火の通りが早いですからね。


 雪平鍋が沸いたので、こっちから進めてしまいます。

 顆粒だしをスプーンで一杯入れてやり、おたまで一回し。最初は容器に移していたのですが、面倒になり袋のまま冷蔵庫に入れるようになってしまっています。スプーンは袋から直接鍋に入れようとした際の失敗をもとに使うようになりました。どう考えても見えている結果なのに、どうしてやってしまうんでしょうね。困ったものです。

 串切りの玉ねぎを入れたら、火を弱めて蓋をします。どうせすぐ煮えてしまうのですが、少しでも肉じゃがの面倒も見たいですから。


 水道の方向に目をやって思い出しました。しらたきを切っていません。まあどうこうはなりませんから、やってしまいましょう。少し順番が狂ってしまいましたが、よくあることです。

 冷蔵庫に移した肉を取り出します。今日のはほんの少しだけ脂身のある腕肉です。これを薄くスライスしていきます。まだ少し凍っていますので、いけるはずです。刃を斜めに、滑らせていきます。昨日の夜、包丁を研いだのがよく活きています。まあ、多少厚めですがいいでしょう。

 ガラスのボールに入れたにんじんジャガイモを油をしいた両手鍋に移し、炒めていきます。なじんできたら玉ねぎとしらたきも追加して、もう少し炒めます。

 ほどほどに炒めたら材料の少し上くらいまで水を注ぎ、みりん、砂糖、しょうゆ、料理酒をレシピを見つつ適当に入れます。数十秒かき回したら、一度味見を。味が薄いので、少しだけ醤油を足しましょう。ただ、このあと水を少し飛ばしますから、少し薄いくらいまででいいでしょう。味見はちゃんとしておきます。うん、良い感じです。ここでお肉を入れて、一回ししたら、蓋をしめます。


 肉じゃがを進める間に火を止めてしまった雪平鍋をもう一度火にかけつつ、味噌を入れます。おたまですくった味噌を慎重に、かつ手早く溶かし入れていきます。いい加減味噌漉しでも買おうかなと毎回考えるのですが、一人暮らしではそれほどお味噌汁は作りませんし、結局今まで買っていません。

 味噌を入れて、もう一度沸いてきたらそこで火を止めてしまいます。肉じゃがに戻りましょう。


 両手鍋の中、ジャガイモは結構煮えてきているのですが、にんじんがあと一歩という具合です。もう少ししたら、蓋を取って煮詰めていかなければ。テーブルの準備を終えたら、ちょうどよくなっているでしょうか。


 お皿に盛りつける前にお味噌汁をもう一度火にかけて温めておきます。その間にほかのものをよそったら、ちょうどよく温まっていました。

 小さめの中鉢、大きめの小鉢――なんとも言い難い大きさの鉢に肉じゃがを、お椀にご飯とお味噌汁をよそい、冷蔵庫で冷やしておいた麦茶をコップに注ぎました。冷蔵庫も空いてきたので、だんだんと常備しているものを買い足せるようになってきました。今日はなんだか野菜が足りない見た目ですが、昨日よりはあるはずです。緑の野菜がないからまあそう見えているだけですね。


 まずはお味噌汁を一口。良いお味です。シンプルですが、ちゃんと玉ねぎの甘さがありますし、これで満足できます。メインのおかずがもう少し大人しいものなら、具を増やして主張を強くしていくのですが、今日はあくまでもわき役なのです。おかわりは一杯分ほどありますが、あれは朝ご飯のために残しておきたいので今日はこれでおしまいです。


 ご飯は今日はちょっと硬めになってしまっていますね。私はどちらかというと硬めの方が好きなので全く構いません。


 焦っても肉じゃがは逃げませんが、少し早足になっていることは否めません。もうさっさとそのまま肉じゃがに行ってしまいましょう。自分で自分を焦らしても仕方ありません。

 まずは一番目立つにんじんから。ちゃんと柔らかく、味もしみています。にんじんの甘さはちょっと控えめですが、ちゃんとふわっと舌の上に現れてくれます。ジャガイモもしっかり味が染みて美味しいです。ジャガイモの甘さと言うのも知っていますが、やっぱりこの食感が何よりなのかなと私は考えております。しらたきはまあいいでしょう。ほどほどに味が染みていて、食感に変化を与えてくれる存在です。玉ねぎはだいぶ溶けてしまっていますが、残っている分はとろとろになっていてこれまた美味しいのです。

 さて、一通り食べたらお肉にいきましょう。なんとなく予想はつきますが、食べていきます。一口――まあそうですよね。普通にお肉です。味のしみた美味しいやつです。ただこの美味しさってほとんどお汁のおいしさですよね。いや、分かってはいました。昨日のあれでもう予想はついていましたから。


 肉じゃがは全部は食べられなかったので、明日の朝ご飯にしてしまいましょうか。これをお弁当にするとなると味をちょっと濃くしてやらないといけませんからね。それはちょっと面倒です。

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