子供達を探して
俺とナディアは、この村の傭兵であると言うアンバスと共にナーム村へと到着した。
彼を操り信徒へと変えた火の玉、その正体を探るのが目的だ。
レーヴェとイデアに関しては、他の信徒の拠点を発見したとの情報があったのでそちらに向かわせている。
やって来たナーム村は、のどかな雰囲気で異変などとは無関係そうだ。
だがそこに住む村人の雰囲気はどこか緊迫したようにも見える。
「おーいみんな!! 帰って来たぞ!!」
久しぶりに村へと戻って来たアンバスが大声で村人を呼ぶ。
「お、見ろ! アンバスが帰って来たぞ」
「本当だ」
「無事だったか! 心配したぞ!!」
彼の姿を見た村人たちは、その姿に安堵したのかわらわらと集まって来る。
「すまねえ。俺の居ない間、村は大丈夫だったか?」
「ああ、村は至って安全だ。ただ……」
彼の問いに答えていた村人の言葉が沈む。
他の村人も同じように攫われてしまったのだろうか?
「一体何があったんですか?」
俺は言い淀んでいる村人に尋ねる。
「実は、アンバスが消えたっきり村の奴には夜中に森に近づかない様に言ってたんだ。でも昨日の夜に村の子供が二人、森に入っちまったらしくてよ……。それで朝になって村中の人間で森を探してもどこにも居ねえんだ」
村の子供が二人森の中に……。
という事は例の火の玉に遭遇してる可能性が高いな。
つい昨日の出来事だったらしいが、急がなければ不味い事になるだろう。
「森の奥は魔物が多くて、アンバス以外は探しに行けねえんだ」
村人も出来る限りの範囲は探したが、森の深い場所になって来ると魔物の所為で迂闊に近寄れないらしい。
唯一行けるアンバスまでもが連れ去られてしまったので、彼らではお手上げの状態になってしまったそうだ。
「わかりました、俺達がその子達を探します」
「ありがたい……。村人を代表して、是非お願いします!」
村長らしき男性が俺達に頭を下げる。このタイミングで俺達が村にやって来たのは不幸中の幸いだろう。
俺とナディアは村人たちからその他の情報を聞き取って、その日の夜に森に向かう事にした。
俺達は少し早めに森に入った。一時間ほどして陽が落ち、辺りは暗闇に包まれた。
今日は新月で空には月すら見えず、空に輝く星の光も、鬱蒼と茂った木々の葉で隠されてしまっている。
「光源を持ってきておいて正解だったな。予想はしてたけど、夜の森ってこんなに暗いのか」
「魔晶って便利」
俺達は明かりとして光魔法を刻印した魔晶を使っている。
刻印されている魔法は初級の魔法なので、大体二~三時間くらいは持つはずだ。
念のため小さめの松明も持ってきている。
そろそろ森の深部に到達する頃合いだが、居なくなったと言う子供たちは大丈夫だろうか……。
「もう一回使ってみるか」
俺は地面に手を当て集中する。以前と同じ、【世界の眼】を駆使した追跡、捜索だ。
よく見てみると、俺達が進んで行く先に小さな魔力の痕跡が二つあった。そしてその内の一つはその後の痕跡が見当たらない。不気味な魔力の跡も見えるから、恐らくこの先で例の存在に出くわしたのだろう。
二人の子供の内一人はこの先に居て、もう一人は連れ去られてしまったらしい。
「近い、この先だ」
【世界の眼】の行使も大分慣れて来て精度が上がったようだ。
まだ魔力の痕跡を追う程度しか出来ないが、以前の様に疑似的な千里眼として使える様にもなるかもしれない。
そうなれば捜索とかも大分楽になるんだけどな……。
「居た、女の子」
「本当だ……命に別状は、なさそうだな」
居なくなっていたと思われる子供の内一人は見つかった。
少女は横たわって眠っているように静かな呼吸をしている。
外傷や呪術の痕跡は見当たらない。
「どうする? 一旦この子を村に連れて帰るか?」
「その方が良い。この森は危険だから」
取り敢えずこの子は村に預けよう。
だがそうしている内にもう一人に何も起こらないとは考えにくい。
と言うか、連れ去られている時点で何かされているだろう。早く助けに行かなければ。
「……私がこの子を村に送って来る。リノはもう一人の子を捜索して」
「あぁ分かった。任せたぞ」
「うん。でもあまり無茶しちゃダメ」
そう言ってナディアは、少女を抱えて一度村に戻る。
さて、俺はもう一人の捜索を続けよう。
今の所は火の玉とやらには会ってないが、痕跡は在った。きっと出会うのも時間の問題だ。
俺はもう少し深い所に進む。もう魔物が出て来てもおかしくない場所だが……全く居る気配が無いな。
以前、ショゴスが潜んでいたダンジョンと同じような雰囲気だ。
「薄気味悪いな、早く見つけたいところだが……」
しかし、先程少女を見つけた場所で痕跡は一度途絶えている。
見つけようにも手掛かりが無いのが辛いな。
「……松明つけてみようかな」
ふと、手持ちの松明を見る。
刻印魔晶が切れた場合の予備の光源として持って来たが、火の玉を誘き出すのに使えたりしないだろうか。
そう思って、松明に火をつける。
初級の魔法であれば適性外でも使えるので、松明に火を灯すくらいなら俺にも出来る。
松明はフッ、と小さい音を立てて煌々と燃え上がる。
小さい簡易型の松明だが、照明としての効果は上々だ。
風で炎が揺れるので、迂闊に顔とかに近づけると危険だが。
松明をつけてしばらくすると、周囲の気配に変化が起きた。
先程までは何も無かったが、今は遠目に火の玉が揺らめいているのが見える。
「松明をつけたのは正解だったかもな」
俺は徐々にその玉の方に近づいていく。
火の玉も松明の炎に惹かれてか、次第に俺の方に近づいてくる。
互いがあと十歩寄れば確実に出くわす、と言うあたりで俺は松明の火を消す。
すると火の玉はまるで意思を持っているかの様にきょどきょどと周囲を見渡すような動作をとる。
間違いない、これが例の……。
火の玉は混乱から次第に落ち着いていき、元来た道を引き返す。
俺もその火の玉を追って、更に森の奥深くへと入って行くのだった。
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