順調に進む対策


「ここで十個目だな」

「うん、順調に片付いてる」


 本格的に行動し始めて約三ヵ月。

 その間、俺達は順調に信徒達の拠点を潰していった。

 クトゥグァの復活が予定されているのはあと半年後。


 だがこれで大分復活の妨害を出来ただろう。

 万が一予定通りに復活しようとしても、全力は出せないはずだ。


「信徒の方達の洗脳が解けましたよ!」

「ありがとう、レーヴェ」


 信徒と思われていた大半の人間は、呪術によって操られていた人間がほとんどだった。

 まぁ、中には本当にクトゥグァを信奉してるやつらも居たので、そう言った奴は処理しているのだが。


 フサッグによって掛けられた術は、奴が居なくなっても未だに効力を発揮している様だった。

 以前ナイルから聞いた、信徒以外の敵の影響だろうか。


「なぁ、少し聞きたいんだが、今までの記憶ははっきりしているか?」

「すまない、頭に霧が掛かった様になって、何も思い出せないんだ……」

「そうか……」


 俺は何か手掛かりを掴めればと思い、操られていた男性に声を掛けたが、操られた者の大半は記憶が曖昧になってしまっているようだ。

 以前操られたことのあるイデアも似たような感じだったから、何となく分かってはいたが……


 あと気になったのが、操られていた信徒は全員、炎属性の魔法に適性があると言う奇妙な一致点があった。これはイデアも同様だ。

 クトゥグァが炎を司る存在だからか、それとも炎属性に適性を持ってないと操れないのか。あるいはどちらもなのか。


 記憶が完全に残っている者がいれば少しは何か解ったかもしれないが、無い物をねだっても仕方が無い。

 俺は気を取り直して、この拠点に残っている儀式の跡や、祭具を調べる。


「あ、一つ思い出したんだけど……」

「どうした?」


 そこに、先程の男性が声を掛けて来た。

 彼はどうやらナーム村と言う村の住人で、村では傭兵の様な職に就いていたらしい。


「俺がここに来る前は確か、村の近くの森に行ってたんだ」

「森? 何かあったのか」

「何て言うんだろうな。村の奴らが夜中の森にぼんやりと火の玉が浮かんでるって言うから、誰かの悪戯だと思って捕まえてやろうと思って森に入ったんだ」


 夜な夜な現れる火の玉……か。


「それで?」

「俺がその火の玉に会った瞬間、俺の意識が遠のいて、それで……気が付いたらあんた達に助けられてたんだ」


 という事は、この人は少なくともフサッグに操られていた訳ではないのか。


「少し聞きたいんだが、火の玉を見たって村人は、遠目から見ただけなのか?」

「いや、ばったり出くわしちまった奴も居たはずだ」

「その村人は連れ去られなかったのか」

「え? そ、そう言えばそいつは大丈夫だったような」


 という事は、その火の玉は操れる存在に制限があるという事か?

 そうなってくると操れる条件と言うのは、やはり炎に適性を持つ人間と言う事だろうか。


「なぁ、あんたの魔法適正ってわかるか?」

「俺は確か炎に適性があるって……それがどうかしたか?」

「ありがとう。大体分かって来た」

「そうか? なら良かったんだが」


 彼の持っていた情報はかなり役に立った。

 フサッグ以外に信徒を増やした存在。そしてそいつは操れる存在に制限がある事。

 他にもいくつか聞こうかと思ったが、彼は疲れ切っている様子だ。休ませてあげた方が良いだろう。


「ナディア、レーヴェ、イデア。次の目的地が決まった、集まってくれ」

「あら、敵の拠点の場所が分かったの?」

「いや違う。だが、俺達の敵にかなり深く関わっているのは間違いない」


 俺は先程の男性から聞いた話を、他の情報と合わせて三人に話す。


「ほえ~。そこまで考え付くなんて凄いですね!」

「確かに可能性はあるかも」

「そうね。という事は、その村に向かうという事で良いのかしら?」

「ああ。次に向かうのはそのナーム村だ」


 若干一名よく分かって無さそうな子が一人居るが、多分大丈夫だろう。

 さて、その村に向かう前に他の面子とも情報を共有しておくか。




 

 拠点を一通り調べ終えて操られていた人たちを騎士団に預けた後、俺はその足で学園へと戻って行った。


「やあリノ君。そちらは順調かい?」

「まぁな。アスタ達はどうだ?」

「僕達の方も順調だよ。王都周辺のダンジョンは大方制圧し終わって、湧いた魔物は片っ端から片付けてる。お陰で素材が大量に市場に出回る羽目になってしまったけどね」


 今までのダンジョンは適度に魔晶を回収し、適度に魔物を間引く程度であったのに対し、今は湧いた端から倒して掘ってを繰り返しているので、その分の素材が大量に市場に出回って一時期は大混乱を招きかけたらしい。

 ひとまず素材を全て国庫の方に預けて、市場に流れる量を調整する事で落ち着いたが、それはそれで素材の管理に手間が掛かったりもするらしいので、早期に何とかしたいと言うのが本音だろうな。


「学園長が王族と関係ある人ってのは初耳だったな」

「そ、そうだね」


 アスタの目が泳いでるのを俺は見逃さなかった。

 何だその反応。まさかお前も王族とかそう言うのじゃないだろうな。


「なぁアスタ。もしかしてお前も王ぞ―――」

「あ!! そう言えばアルメダ君が君に用があるって言ってたな!! 彼女の所に顔を出してきてはどうだい?」

「え? まぁ後で行くけど……」

「そうか、じゃあ僕はこれで!!」


 言いかけてる途中で逃げられてしまった。

 って事はほぼ確定で良いだろう。と言うか、馬鹿正直に話してくれそうなウィル辺りにでも聞いてみるか。


「仕方ない、アルメダの所に行くか」


 アスタに逃げられた俺は、今度はアルメダの所に向かう。

 彼が言うには、俺を呼んでたらしいので大結界構築の糸口を掴んだんだろうか?

 早速俺は彼女の所に向かう、が


「む? 私が君を呼んだ? 誰かと勘違いしてるのではないかね?」


 別にアルメダは俺の事を呼んでなかったらしい。

 という事は、アスタに逃げる口実に使われたな。


「なるほど。後で彼にはきつく言って置こうか」


 良い様にダシに使われたのが気に障ったのか、彼女は不敵な笑みを浮かべて拳をパキパキ鳴らしている。


「そうか。悪い、邪魔したな」


 そう言って俺は彼女の下を去る。


「あ、待ちたまえ。都合が良い、君に意見を求めたい事があるんだ」

「なんだ?」


 そこを彼女に静止される。

 彼女は俺を手招きして、隣に座らせた。


「実は、大結界構築の件なんだが……」

「やっぱり難しいか?」


 そもそも結界魔法なんてのを扱うのは非常に高い技術が要求されるのだ。

 一般の魔導士に使えるレベルにまで難易度を落とすのは、才女と呼ばれる彼女でも難しいのだろう。


「いや、構築に関しては行けそうなんだが、魔導士の魔力が足りるかが心配でね」


 彼女が考案した大結界は、何人もの魔導士で魔力の壁を張り、それを重ねて繋げる事で一つの大きな結界とする方法だった。

 これなら一人あたりの魔力消費は大分抑えられて、尚且つ魔法の使用難易度も簡単に出来るらしいが、それでもクトゥグァを抑えるとなるとかなりの魔力を使う必要があり、普通の魔導士の魔力量では耐えられないそうだ。


「なるほど……確かにそれはどうにかしないとマズいな」

「うむ。継続的に魔力を供給出来るような道具でもあれば良いんだが……」


 継続的に魔力を供給ね……。

 魔力だけなら魔晶からも供給できるが、大人数に大量に配布出来るだけの魔晶なんてどこにも……


「いや、あったわ」

「どうしたのかね?」


 アスタやウィル達が攻略し、回収し尽くした魔晶が国庫に余っているでは無いか。

 管理が面倒で手間がかかるらしいし、ある程度使って減らしてしまった方が良いだろう。

 ついでに魔物の毛皮とかで魔法袋マジックバッグも作ってしまえば、さらに在庫を処分出来て魔晶の運搬も楽になるな。


「なるほど、それは良い案だ。そのマジックバッグとやらも興味がある」


 俺がアルメダに提案すると、彼女は目を輝かせながら話に食いつく。

 彼女にマジックバッグの作成方法や魔晶の効率的な魔力回収方法を教えると、彼女は熱心に頷きながら、「これなら行けそうだ!!」と鼻息を荒くしている。


「ありがとう。君のお陰で光明が見えたよ。国庫の素材の件はアスタリオン君に説教ついでで頼んでみるよ」

「力になれた様で何よりだ。頑張ってくれ」


 計画は順調に進みそうだ。

 俺も自分のやるべき事をやらなければ。


 一通り学園に居た仲間達との情報共有を終えて、俺は問題のナーム村へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る