恋バナしようぜ

 なぜ口さけ女と花子さんがイラついているのかというと、2人の恋愛遍歴にある。

 まずは口さけ女。そもそも顔が裂けている。しばらくは恋をする気にすらならなかった。だがあるとき、彼女は恋に落ちた。相手は普通の人間であるが、かなりの変わり者で2人は晴れて両思いとなった。そして迎えたデート。ベタなことに2人は夜、観覧車に乗った。そしてもちろんのこと、キスをする流れとなった。もとより2人とも、そのつもりだったのだから。口さけ女がマスクを外し、目を瞑ったとき、彼は言った。


「ねぇ、どこからがキス?ってね。

 そう聞いたのよ、あの男は!!

 普通あのタイミングで聞く!?バカじゃないの!」


 口さけ女は怒りに拳を振るわせながらそう言った。相手は口さけ女の地雷を見事に踏み抜いたのだった。まあ、こんなわけで彼女の恋は冷めた。百年の恋も冷めるとはまさにこのことで、それ以来口さけ女は恋人を作ってはいない。そしていつの間にやら、「リア充爆発しろ」という不穏な呪文を呟くようになった。

 今の話を相槌を打ちながら聞いていた花子さんも大概である。

 見た目が小学生であるため、中々相手が見つからない。それに彼女はトイレに現れるから親しみがあるものの、他の場所に出たらただの幽霊だ。誰もが逃げていく。だからといって男子トイレに出たら、ただの変態。そんなこんなで、彼女は恋愛を放棄した。


「とんだKY男だね」


 花子さんは放棄したからこそ恋バナに冷静(無頓着)でいられる。だが、自分と同じ年頃どころか、それよりも下に見えるメリーさんに浮いた話があるのはどうにも釈然としない。要するに、嫉妬だ。

 その嫉妬の対象は今、さとるくんと日程調整をしているところ。3人組の中で1人アオハル状態。


「「なんでよっ!」」


 口さけ女と花子さんはジョッキに手を伸ばし、先ほど飲み干したことを思い出した。そのことにふと冷静になり、2人仲良くメニューを見始める。

 そんな2人に


「お嬢さん方、一緒に飲みませんかね」


 1人、男が声をかける。存在を忘れられていた怪人アンサーだ。彼は1人晩酌状態。なんと虚しいことか、と2人に声をかけたわけだが、残念ながら2人はこの男に手厳しい。2人して無視だ。

 だがそんなことを気にしないのがこの男。べらべらと話し続けている。


「いやあ、私は2人の美人に囲まれて幸せだ」


 これは彼なりのダンディズムを意識した発言なのだが、どうにも胡散臭い。

 それに対して、最初に口を開いたのは花子さんだ。


「セクシャルハラスメントって言葉をご存知?」


 そこに追い打ちをかけたのは口さけ女だ。


「ダメだよ。この人横文字上手く使えないから。意味通じてないんじゃない?」


 完全な八つ当たり。

 ──これじゃしばらく色恋は難しそうだな、この2人。

 怪人アンサーは密かにそう思った。

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