甘酸っぺぇ

 飲み仲間が2人加わった。1人はさとるくん。今はメリーさんの隣でウーロンハイを一緒に飲んでいる。もう1人は怪人アンサー。花子さんの容姿を褒めたところ「セクハラ」と言われ、ただ今いじけている。

 ちなみに、さとるくんはメリーさんに下心を持って接しているようなものだが、怪人アンサーはあくまで紳士的でありたいという思い故の言動であり、下心は一切ない。だからこそショックというものだが。


「そう言えば、今日はどうして2人だけで来たの?」


 メリーさんはそう尋ねると、レモンサワーを飲んだ。

 さとるくんと怪人アンサー、そしてメリーさんは電話妖怪仲間。この3人はよく一緒に飲みに行くのだ。


「私も誘えば良かったのに……」


 寂しそうに呟くメリーさんに、さとるくんは慌てて話しかける。


「そっそれは、どうしても怪人アンサーと2人で飲まないといけない用があって……!」


 私がいるのと邪魔なの?とでも言いたげな目線をメリーさんはさとるくんに送る。さとるくんはその瞳から気まずそうに視線を逸らした。


「いやあ、それはあるワケがあってね」


 その間に怪人アンサーが割って入る。


「彼がお酒を飲む特訓をして欲しいっていうから」


 ──だったらなおのこと、酒が飲める自分がいる方が良いではないか。

 拗ねたメリーさんは怪人アンサーを無視してレモンサワーに手を伸ばした。

 彼女の心情を察したのか、怪人アンサーはさらにを分け与えた。


「彼がとある la femmeラファームと酒を酌み交わしたいと言うものだから、君のことは呼べなかったんだ。すまなかったね」


 火に油を注ぐような情報を。


「ラファーム?」


 聞き馴染みのない言葉に、メリーさんは思わず聞き返した。 la femme ──フランス語で女性。これを聞いたさとるくんは顔を赤くする。


「な、何言ってんのさ!

 違うんだよ、メリーさん。ボクは君をのけ者にしようとしたんじゃなくて、えっと、つまり……」


 さとるくんはメリーさんが文の意味を分かっていないとも知らず、必死に弁明をする。しかし、その必死さがメリーさんに不信感を募らせる。

 ──だいぶ前からだ。2人だけで飲みに行く回数が増えたのは。

 メリーさんは2人が一緒に飲みに行っているのを知っていた。そして、自分と飲むのが2人は嫌いなのかもしれないと思い始めていた。今日2人きりの理由を聞いたり、感じの悪い態度を取っていたのは拗ねていたからだ。


 嫌ならば言えばいいのに。


 メリーさんにはこのことが堪らなく寂しく、悲しい。だからつい、先ほどから意地悪なことばかりが口をつく。


「それと、そのラファームって誰?」


 メリーさんは自己嫌悪に陥りながらも、その気になる存在について尋ねる。


「そっ、それは……」


 言い淀んださとるくんを見て、メリーさんは冷静になった。自分が相手を傷つけていることに、意識が向き始めた。


「さとるくん、ごめんなさ──」


「君だよ!」


 メリーさんの言葉をさとるくんが遮った。そしてそのまま話を続ける。


「君と2人で出かけたくて。

 でもほら、ボクってメリーさんや怪人アンサーほど呑めないから。だから怪人アンサーに特訓に付き合ってもらって……」


 ──なんだ、そうだったんだ。

 心の中にあたたかいものを感じると、メリーさんはさとるくんに微笑みかけた。


「じゃあ今度、一緒に出かけようよ」


 一瞬の間の後、さとるくんが呆けたような顔をして答える。


「……いいの?

 でもボク、お酒そんなに呑めないし」


「いいんだよ。目的は呑むことじゃなくて、さとるくんと出かけることなんだから」


 さっきよりも顔を赤く染めたさとるくんは、それを誤魔化すかのように目の前のビールを口に運んだ。




 さて、この青春劇場は2人だけで行われていたわけではない。観客が3人いる。ニヤニヤ顔のおじさんと、


「見せつけてんのか」


「イチャつくなら他でやれ」


 明らかに怒っている2人の女性である。

 2人はまったく同時にビールを飲み干すと


「「甘酸っぺぇな、まったく!!」」


 同時にキレた。

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