記録20 魔族達の最近の睡眠事情
「アナタ、今夜はどうするか決めまして?」
カラスの女性魔族が紅茶を片手にそう聞く。
「いえ~まだ決めてないですぅ。でも~人魚の~めーちゃんに誘われているんですぅ・・・」
羊の少女の魔族がお茶請けのクッキーをモヒモヒと齧りながらそう答える。
「誘われているのなら、是非ともその誘いを受けたら宜しいのでは?」
華やかな柄の着物を着た、頭にそれなりに立派な角が生えた鬼の女性魔族がそう言うが、羊の少女はちょっと困り顔。
「ほら~・・・人魚さん達の寝床ってぇ、水辺でしょ~?部屋のあちこちに水路があって~専用の水槽ベッドがあるんだよぉ。そこで寝たら、私の自慢のふわっふわの羊毛がびしょびしょだよぉ~・・・だから、申し訳ないけどぉ、断ろうかなぁ~って・・・」
「「あ~・・・なるほど」」
2人は納得の様子。
「そう言う2人は~今夜は何処で寝るか、決まったのぉ?」
羊の少女が何気なく聞くと、2人は何とも言えない顔をする。
「実はまだですの・・・」
「この調子だと、今日も雑魚寝かしらね」
3人とも、何に悩んでいるかと言うと、今日の夜の寝る場所に悩んでいるのだ。
何でそんな事を悩んでいるのかと言うと・・・
「魔王城大規模工事のお知らせ?」
魔王代理の命令で集合したクローチェ含めた魔族達は、魔王代理の秘書の幽霊の魔族、リンゼンから配られた紙を見て首を傾げる。
「えぇ、そう。魔王城をちょっとリニューアルしようかしらと思ってね。ほら~最近、よく勇者達がくるじゃない?だから、勇者達用の足止めトラップ配置のついでに、あちこち老朽化してた場所を修繕しようと思ったのよ」
魔王代理はそう言って、ササッと大型モニターの画面を変える。
そうすると、画面いっぱいに魔王城内の見取り図が表示される。
そして、パチンと魔王代理が指を鳴らすと、見取り図に、赤色に表示される場所と青色に表示される場所が現れる。
「さて、今から詳しいことを話すわ。今、赤色に表示された場所が、今回工事する所よ」
魔王代理がそう言うと、一部の魔族達がザワザワと騒ぎ出す。
それもそうだ。何故なら、工事区域には、一部の魔族達の生活区域・・・いわゆる社員寮的な場所も工事区域に入っているのだ。
「え?もしかして、俺達・・・工事が終わるまで外で寝ないといけないの?」
「えぇ~!?荷物とかどうすればいいの~!?」
「ね、寝床が破壊されるっ・・・完璧に整えた私の寝床がっ!!」
「あら~私が、大事な臣下である貴方達を、外に放り出す様な人に見えるかしら?」
魔王代理がそう言って、茶目っ気たっぷりに笑う。
騒いでいた魔族達は一瞬で静かになる。
「うふふ、安心して頂戴。画面に青色に表示されている場所があるでしょう?ここは、元々は物置とか、空き部屋だったのだけど、今回の工事で部屋が工事区域に入っていて、帰る事が出来ない魔族達の為の一時的な生活場所にしようと思っているの。あ、ちゃんと掃除に片付けはしたし、最低限の必需品はこちらが用意したから大丈夫よ」
魔王代理がそう言うと、魔族達はホッとした顔になる。
そこで、魔王代理はススッと大型モニターをぽやっと見ていたクローチェの傍に行く。
「クローチェ、貴方にはこの地図を渡すわ」
「ほえ?地図?え、魔王城内の地図?」
クローチェは魔王代理から渡された地図を見て首を傾げる。
「えぇ、私が書いたクローチェの為の地図よ。魔王城内に勇者達用の足止めトラップの数を今までより増やして設置するから、しばらくはこの地図を見て行動した方がいいわ」
魔王代理がにこやかに言うのとは反対に、クローチェは不満げな顔だ。
「お母様~・・・その言い方じゃまるで、私がうっかり勇者達用の足止めトラップに引っ掛かるみたいな感じじゃないですか!」
ほっぺたを膨らませるクローチェの頬をぷにぷにと指差す魔王代理は、「あら、違うの?」と尋ねる。
「違います!この魔王城は、すご~く広いとは言え、我が家ですよ!流石に我が家で迷子なんてありえませんよ~!それに、勇者達用の足止めトラップにも引っ掛かるなんて~私、そんなにドジじゃないし!ね、フィク?」
突然、話を振られたフィクは、即答が出来ずにちょっと唸る。
「う~ん。確かに姫様の運動神経は、悪くないと思います。勇者達との激しい攻防戦に完膚なきまでにやられたことはありませんし・・・しかし、ドジではないとは言い難い・・・」
「え、えぇ~?私、そんなドジな事した覚えはないよ~!」
魔王代理は、クローチェとフィクの2人の様子を見て微笑む。
「ふふ、まぁ持っていても損にはならないでしょう?それに、クローチェが迷子になったり、トラップに引っ掛からなくても、他の魔族達が困った時に地図があると便利じゃない?」
「ふむ。確かに・・・そ、それに、お母様がわざわざ私の為に用意してくれたんだし、無下に扱う訳にいかないよね。ありがたく頂戴します!」
クローチェは魔王代理から貰った地図を綺麗に折りたたんでポケットにしまう。
こうして、魔王城大規模工事についての説明は無事に終わったのだが・・・
「あ~・・・だるぅ」
「ふわぁ~ちょっと寝不足」
一部の魔族達は寝ぼけた眼をこする。
「あらあら~大丈夫ですの?」
「う~ん・・・ちょっとねぇ。魔王代理様が部屋を用意してくれたのはありがたいんだけどね~・・・雑魚寝も最初はお泊まり会みたいな感じで楽しかったんだけどさ・・・」
眠たげな魔族は一度あくびをしてから、続きを喋る。
「生活スタイルも、働く時間も違う魔族が集まると、中々ゆっくり寝れなくてね・・・ふわぁ」
そう。生活スタイルが違う魔族がいる為、スライムの寝床に足を取られて仕事に遅刻した魔族とか、うっかり隣で寝ていたバンパイアに真夜中に血を吸われかけた魔族がいたり、人魚のベッドである水槽に頭から突っ込んだ魔族がいたり・・・
「う~ん・・・今夜は何処で寝ましょう。そう何度も工事区域に入っていない魔族さんに頼んで寝る場所を借りるのは忍びないですし・・・」
鬼の女性魔族は、はぁと溜め息をこぼす。
「寝るの大好きですから~自分も皆もゆっくり眠れる空間があれば良いのですがねぇ~」
羊の少女の魔族がそう言った時だ。
「無いなら作ればいいんだよ!!」
ぴょんと、突如地面から現れた魔方陣からとびだしてきたのは、魔王の娘、クローチェだ。
「「「ひ、姫様!?」」」
クローチェは、ふふんとドヤ顔で何やら紙束を取り出す。
「最近、一部の魔族達が熟睡出来ていないと聞いて、『永眠できそうなぐらい安眠が出来る寝具セット&睡眠向上の環境作り!』を考えてきたのっ!!」
お~っ!と、三人はクローチェに拍手を送る。
「流石、姫様ですわ!!それで、どの様な内容なんですの?」
カラスの女性魔族がそう聞くと、クローチェはいそいそと紙束を捲り、三人に見せる。
クローチェはふふんとドヤ顔だ。
「それはもちろん!超完全完璧!すっばらしぃ案だから!それで~・・・ちょっとお願いがあるの。聞いてもらってもいい?」
「えぇ、構いませんよ。何なりと申してくださいな」
鬼の女性魔族がそう言えば、クローチェはモジモジとしながら喋り出す。
「あのね・・・検証のお手伝いをして欲しいの」
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