第17話

 家の中は、入り口と同様天井が明らかに低い。周りを見渡しても、フロースさんの手が届く高さばかり。

 「そちらにお座りください」

 案内された部屋はリビングで、女性らしいレースや花柄のデザインでまとめられていた。椅子に座り、注意深く部屋を見る。

 食器棚にあるマグカップも、お皿も、椅子も、男性やアルマンが使うサイズのものがない。まるで、御伽噺の家のようだ。

 「……おねえちゃんは、魔女知ってる?」

 突然の声に、シャハルは思わず肩をビクつかせる。声がした方を見ると、先ほどの小さな女の子。

 「えと……」

 「わたし、フォリ」

 「フォリちゃん、魔女って……」

 「ごめんなさい、シャハルちゃん。その子、叔父が残した言葉をずっと覚えてて」

 「言葉……?」

 フロースさんは、シャハルとカルロソの前に紅茶を置き、フォリを抱く。そして、そっと目を閉じて優しい声で話した。

 「『私は、魔女。この世界の人々を救い、幸せにし、そして不幸にするため、人間を生み出す魔女だ』……これが、伯父が残した言葉です」

 「どういう、意味なんでしょう……?」

 「すみません、それは私にはわからないんです。叔父は10年以上前に亡くなっていて、私もまだ17でした」

 「……」

 フロースさんは、フォリの頭を優しく撫でる。そんなフロースさんを見て、カルロソはゆっくりと視線を動かし、部屋を見渡す。

 「……フロースさん、ここに家を建てたのは最近ですよね。何か理由が?」

 「えっ……」

 フロースさんはフォリの頭を撫でる手を止め、少し唇を震わせる。その反応に、シャハルはここが新居だということと、やはり何かを隠していることに確信を持つ。

 「俺は、配達で何人の人とも会って、話をしてきました。中には、俺を騙して郵便を受け取ろうとするやつも」

 カルロソは静かに紅茶を飲みながら、低い声でゆっくり話す。

 「いつからか、なんとなく人の仕草から感情がわかるようになった。子どもの頭を撫でるのは、不安があって自分が安心したい時。それか……思い出したくないことがあり、心を落ち着かせたい時だ」

 フロースさんは、フォリをギュッと抱きしめる。そんなフロースさんに、フォリは「おかあさん……?」と不安そうに顔を覗き込む。

 「17歳の時、何がありましたか?」

 「……さすが、ギルドの人ね」

 フロースさんは、小さく息を吐いて困ったように笑った。

 「叔父のことを聞きにきても、アルマンがいないと知ったら皆帰っていったのに」

 「……」

 「……フォリに聞かせたくないの」

 「……ニグムに任せてください」

 シャハルの言葉に、フロースさんは「あのアルマンなら、安心ね」と笑った。



 フロースさんは、リビングの窓からフォリとアルマンが遊んでいるのをじっと見ている。

 「お二人は、どこの生まれ?」

 「えっと……私は、アルサリア」

 「アルサリア……マルーテの奥、よね。行ったことないけど、森が綺麗だって聞いたことあるわ」

 「……はい」

 「カルロソさんは?」

 「俺は、フピテールです」

 「えっ?! カルロソ、アルサリアのギルドメンバーだよね?!」

 「本当は、フピテールのギルドメンバーなんだけど、手伝いでな」

 「フピテールの生まれなんて、毎日楽しかったでしょ。毎日売られるものが変わって、新しいものが一番に触れることができて……」

 フロースさんは、ギュッと拳を強く握る。

 「……私は、アルドという小さな村で生まれたわ」

 「アルド……?聞いたことねえな」

 「私も……」

 「ええ。今ではもう、消された村だから」

 「えっ……」


 「14年前、私の村はアルマンによって消されたの」


 フロースさんの言葉に、シャハルとカルロソは言葉をなくした。

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少女と人間兵器 柿種 瑞季 @kakitaneai

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