第60話 サリィーの覚悟

 サリィーは【爆発の槍】で【爆発突き】を発動していた。

 これも普通の槍なら敵に触れた瞬間爆発する。または穂先と一心同体に爆発する。

 しかし【爆発の槍】なら敵に触れる必要もなく、一心同体に爆発する事なく。

 爆発そのもの、槍ではない部分、まるで爆撃のように発動させる事が出来る。



 だからミカエルの顔面に爆発が飛んでいったとき、勝利を確信した。

 しかしミカエルの巨大な翼がそれを阻む。

 防御に使うのではなく攻撃に使用する事によってこちらの攻撃がミカエルの顔面に到達する前に。



 天使の右の翼に殴られるサリィーは真っ赤な髪の毛をさらに血で真っ赤に染めながら、背後に飛ばされる。


 顔面を殴られた事に対して、サリィーは屈辱を感じている。



 記憶が本流となって過去に戻る。



 頭がフラッシュパックする。

 時間が停止したような気がする。



 遥か昔から七つの大罪は存在していた。

 七つの姉妹達はだれーもいない世界で生まれた。

 母親と父親の存在は知らなかった。

 ゴーナが姉さん変わりになってくれた。


 

 そして世界は一から構成される。

 まず人と呼ばれる種族が地上に誕生した。

 次に魔族と呼ばれる種族が誕生した。

 次にモンスターが誕生した。

 

 世界は次から次へと創成されていく。

 七つの大罪達は行き場を失った。

 そして人間に勇者が誕生するように、魔族には魔王が誕生した。

 彼等は勝手に戦争を始めた。


 ゴミの魔王と呼ばれる奴がいた。

 彼はサリィー達をダンジョンに閉じ込めると、ダンジョンの一部にしてしまった。

 この世界ではダンジョンの事を迷宮と呼んだりする。



 そして彼が来た。

 永遠とも思える地獄を過ごした。 

 ただひたすら待っているだけ、紛れ込んだ人間を殺す事くらいしかできない。

 それでも彼は来た。

 彼はサリィーを助け出したそれも圧倒的な力で。



 意識が朦朧とするなか、ゆっくりと立ち上がる。



「なぁにが、乙女心だ。なぁにが、乙女だから顔は男は叩かないだ。あんた死ぬ覚悟出来た?」


「ははっは、女とは面白い、さぞかし顔を殴られた事が痛いのだろう、どうした涙が出ているぞ、お前は泣き虫娘だな」


「これは殴られた場所が悪くて涙が出てるだけよ勘違いしないでよね」


「はっはは、それは勘違いして、って」



 次の瞬間には【爆発の槍】の攻撃はまっすにミカエルの顔面を捕え。

 ミカエルは後ろに弾き飛ばされるように吹き飛ばされる。

 ごろごろと転がりながら、大きすぎる翼が折れ曲がっている。



「何をした」


「何って本気をだしたのよ、さて」



 サリィーはにかりと笑って見せると。



「爆発連撃」



【爆発の槍】ミカエルの顔面にばかり飛来する。


 爆発の先に待っているのは爆発する顔面だ。

 顔面自体が爆発する。それを何度もやる事で、眉毛、鼻、唇、頬、あらゆる顔のパーツがぐしゃぐしゃになる。



 ミカエルは口から歯を吐き出すと。

 


「ゆ、許さない、この僕の美しい顔が、顔がああああああああ」



 ミカエルの翼から放たれる羽がキングオーガとスモールミノタウロスとシールドリザードマン達以外のモンスター達に突き刺さる。


 

 サリィーはまた強化するつもりなのだと思った。

 次の瞬間、羽はミカエルの翼に戻っていく。

 ミカエルの怪我や傷が治療されていく。

 あっという間に本人が美形だと思っている顔が形成される。

 そこにはミカエルの無傷の姿がいた。



 ミカエルはこちらをウィンクする。



「僕にいくら攻撃してもこうやって治療してしまう。さて、どのように僕を倒してくれるのかな?」


「なるほど、どうやらあなたは女性を舐めすぎているわね」


「それはどいういう事なのかな?」


「女性はね、そう簡単に諦めない生き物なの、好きな男性を見つけたら、最後の最後までアタックする。まぁ女性といっても、あたしに限る話かもね」


「それが女性なら、男性はいつも顔を気にして生きているものだ。どんな時でもスマートに決める。それが男性ぶごおおおおお」



「それはあんただけの男性像だああああああ」



 サリィーは槍で追撃に追撃を重ねる。

 何度も顔面に【爆発如き】を発動させる。

 ミカエルは顔面ばかり狙われていると思ったのだろう。

 しかしサリィーは男ならではの股間に付いているものばかりを狙っている。



「ひうぉおおおおおおおお」



 ミカエルの叫び声があがる。

 爆発が鳴りやむと、そこには股間を押さえて、悶絶しているミカエルがいる。



「あんた、そこは男なのね」


「あ、あた、あたりま、あたあたたたあたあ」


 

 あまりの激痛で我を失うミカエルは、ゆっくりと立ち上がる。

 そしてその隣に1人の人間が到着する。



「お遊びは終わりだよミカエル」


「こ、これは世界王よ、でもあそこが」


「帰ったら仲間が治癒してくれるさ」


「そ、そうだな、さっき潰れた音が聞こえた気が」


「気のせい気のせい」


 ミカエルが涙眼になりながら。


「さて追加で謙譲しておこう」



 3本の羽がキングオーガとスモールケンタウロスとシールドリザードマンに付与された。

 その3体が化物になり果てた時。

 サリィーはミカエルの存在を逃してしまった。



「あの世界王は只者ではないわね」



 サリィーの呟きは虚しく、次の瞬間には仲間のモンスターを助けに行こうとして。

 戦闘は大詰めを迎えていた。



「なぁ、お前はキングオーガだよな、自分はゴブリンソルジャー、キングオーガとかキングゴブリンとか憧れの的さ。でもゴブリンソルジャーがお前を倒したらカッコいいだろ?」



 ゴブリンソルジャーは背中に弓を携え、右手と左手には小さなナイフが握られている。

 地面から跳躍すると、一瞬でナイフをしまい弓を構える。そして矢でキングオーガの両目を狙う。


 右目だけを潰す事に成功すると、次に左目を狙う。

 次の瞬間キングオーガの左の拳がコーブの顔面を捕える。

 ゴブリンソルジャーであるコーブは頭を重しのようにしながらぐるっと右回転し、左の拳を避ける事に成功する。



 地面に着地したとき、コーブの両手に握られているのは弓矢ではなく、再び2本のナイフとなる。

 2本のナイフで圧倒的に堅い首の筋肉を両断している。


 キングオーガの首がごとりと地面に落下する。

 ころころと転がりながら、


 ゴブリンソルジャーであるコーブは勝利した。



 一方でコーブがキングオーガと戦っている時、近くではギガドンベアーのクマサンがスモールミノタウロスと戦っている。



 普通のミノタウロスでは大柄の成人男性の2倍はするだろう。

 だがそこには子供くらいのミノタウロスがいる。そいつが子供であるからとかではないとサリィーは知っている。



 2枚のミカエルの謙譲という力により莫大なるパワーを得たスモールミノタウロスを倒すにはとても手間がかかるであろう。



 しかし、ギガドンベアーのクマサンは地面を四足歩行で脱兎の如く走り出した。

 スモールミノタウロスはそれを軽々しく避ける事に成功する。

 しかしクマサンはそう簡単には獲物を逃がさない。

 ギガドンベアーとは魚取の名人でもある。

 川を泳いでいる魚をその右手と左手のカギヅメで捕まえてしまう。

 川岸の所に魚達を投げ飛ばすのだ。



 その要領でスモールミノタウロスの体を咄嗟に掴む事に成功する。

 そのまま地面に叩きつけると、滅多打ちのようにする。


 ぴくりとも動かなくなったスモールミノタウロス。

 しかし奴は目を開けると、斧で攻撃を繰り出す。クマサンは後ろに下がると、また走り出す。

 スモールミノタウロスは、両手で斧を握りしめると、立ち上がった。


 倒れている時に斧を握りしめたのは、覚悟を決める為だと、サリィーは思った。


 スモールミノタウロスは回転し始める。

 それでも止まる事を知らないクマサンは拳を突き上げ、カギヅメを叩き落した。


 レベル50000に到達するクマサンにははっきりと斧の軌道が見えているのだろう。

 その為いくららスピードをあげて回転してもそれを叩き落すだけの道筋は見つける事が出来る。



 その時スモールミノタウロスの首が潰された。



 コーブとクマサンが戦闘している時、ハイマンティコアのスコーピとシールドリザードマンが戦闘を繰り広げていた。


 ハイマンティコアの尻尾はサソリのようになっており、そこからは毒が入っている。

 獣の牙で何度もシールドリザードマンに踊りかかるも、圧倒的に堅いシールドを展開される。

 それは盾そのものであり、防具そのものにシールド魔法を展開しているようなのだ。


 だからシールドを突破しても鱗となっている鎧がシールドとなっている。

 二重のシールド防御となっている。



 それでもハイマンティコアのスコーピは諦める事をしない。

 ひたすら相手に何度も攻撃を繰り出す。

 チャンスとは突然やってくる。

 それがいつ来るのかは分からない。



 モンスターボックスの中でモンスター達はやる事がない。

 なのでひたすら修行につぐ修行を繰り返した。


 ハイマンティコアとして到達した領域、それはレベル50000となった。

 戦い方は変化し、弱くなってしまった所もあるだろう、だが強くなった所もあるはずなのだ。


 

 スコーピは走りながら、地面を跳躍していた。

 シールドリザードマンの上を飛び上がり、そのスピードは神業の如くだった。


 シールドリザードマンの背後に到達すると、その右手と左手の拳がシールドリザードマンの薄い鱗を貫いていた。


 心臓を貫かれ死んだとサリィーは思った。


 しかしシールドリザードマンはぶるぶると震えながら、背中からハイマンティコアの右手と左手を抜き取る。


 震え続けている。

 胸から背中からは血が流れている。


 奴のシールド魔法が背中には薄い事はなんとなく理解していた。

 それは魔力の温存方法だからだろう。


 きっとシールド魔法は大量のマジックポイントを消費するのだから。



 シールドリザードマンは口から大量の血を吐き出す。

 それでも剣を握りしめると、こちらに走って来る。



 そして奴はドラゴンそのものになった。


 それは生きると渇望し、リザードマンの夢が幻覚を見せた。


 そこにはシールドリザードマンが倒れていた。


「お前は夢を叶えたんだな」



 シールドリザードマンの死体はとても寂しそうだった。



 サリィーな仲間達の無事を確かめると即座に動き出したのだ。

 コーブとクマサンとスコーピもそれぞれの場所に向かった。


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ゴミダンジョンに追放された冒険者は実は前世最強~ボスモンスターばかりテイムしてしまったテイマーの物語~ MIZAWA @MIZAWA

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