第25話 魔王軍と人間軍の戦争を止めろ

 ルンデウスの街とはミリーシャ王国の領土の中に入っている。

 ミリーシャ王国では勇者召喚などをして魔王と戦わせている。

 しかしこの前勇者召喚に失敗した。

 とてつもない臆病な少年を召喚してしまったのだ。


 彼は魔王軍と戦う事より、

 1人で本を読む事を選んだ。


 彼は仲間を集めるより

 1人で引きこもる事にした。


 つまり引きこもり勇者が誕生してしまったのだ。


 しかし彼の知恵はとてつもなく幅広い物であったらしい、

 城は彼の技術で進化を辿った。


 だが、根本的な物を解決していないと、

 魔王軍に滅ぼされるという運命から変わる事はない。


 引きこもり勇者はそれでも戦う事はしない、

 噂では1人で武術の訓練をしているとか、

 だそうだがそれも分からない。


 魔王軍は沢山のモンスター達を集めて、侵略を開始しようとしている。


「という事で、あなたにはこの魔王軍を滅ぼして欲しいの、ゴミダンジョンの魔王を倒したのでしょう?」


「はい!?」


 僕は唖然と口を開いたままだった。

 それは勇者がやる事では?

 僕は勇者ではないのですが?


「疑問を1つ、勇者だからその魔王は倒せるのでしょう?」

「いえ、強ければ魔王は倒せます。あなただって倒したでしょう」

「ええ、でもあれは老人だったし」

「そういう問題ではないらしいです。という事で」


「という事じゃねーよ」


 僕の声は荒げる。


「で、魔王のレベルは?」


「さぁ?」


 受付嬢さんは両腕を意味不明というポーズを取りながら。


「僕達に死ねと?」


「そうではないわ、あなた達でしか倒せないの、ランク外冒険者が3名も集まる時点で異常だけど」


「それはどうも」


「誉めてないわよ」


 すると先程から黙っていた玄武老人が声を出す。


「わしは魔王の強さを知っている。わしらと同格だと思ってほしいのじゃ、そして倒せるか倒せないかは戦い方次第なのじゃ」


「なるほど、玄武さんがそう言うなら」


 受付嬢の口元が少し吊り上がっている。

 まるで罠にはまったなぁと笑う猫のようだった。


「そうです。あなた達なら工夫次第で魔王軍を倒せるでしょう、という事で」


「だから、という事でとまとめるな」


「あなた達には魔王軍を倒してもらいます。場所はミリーシャ王国の北の魔王の領域です。魔王の領域で沢山のモンスターが集まってきています。近々戦争が始まるので、ミリーシャ王国の北の街でのんびりするのもいいでしょう」


「敵が目前まで来て置きながらのんびりできるかーい」

「それもそうですわねぇ、それと褒美は王様から出るので」


「人のツッコミを流すのかよ、で、後ろの暴飲暴食中の美少女達をどうやって説得すれば」


「あ、そうでえすわ、ミリーシャ王国のドーナツは格別だそうです」


 その後七つの大罪メンバー達を説得した。


「皆聞いてくれ、どうやらミリーシャ王国にはドーナツがあるらしい」

「それは何なんだ?」


 ネメが涎を垂らしながら訪ねてくる。


「丸い円状の御菓子で、すごく甘くてかりっかりだよ」


「わぁああ、それはとてつもなく食べてみたいわ、あなたには上げないのですわよ」


 いつものツンデレのサリィーが叫ぶ中。


 ルシュフとレイディーが首をひねっている。


「ドーナツとはどのような物なのですか? まったく見当がつきません事よ」

「はわわ、王子様がドーナツを食べさせてくれるのですか」


「ドーナツは円状になっている。真ん中に空洞が出来ており、さくさく、かりかり、ほくほくだ」

「やはり食べてみたいですわね」

「はわわ」


「皆さんを取り仕切る力はどうやらあるようですわ、まったく嬉しい事です」

「ゴーナ姉さんもドーナツは食べない?」

「もちろん食べます事よ、御姉さまとして美味しく頂きましょう」


「一杯食べたら眠たくなった。背中を借りる」


 問答無用とばかりにベリーが、

 僕の背中に抱き着きいつもの縄で固定して置いて、


 弓は少しずらしながら、


 さっそくすやすやと僕の背中で眠りだす。怠惰のベリーであった。


 サキュラは魔法で食べ物を浮遊させながら、

 ミカンジュース等を空中で操り、ぱくぱくと贅沢な食べ方をしている。


「めちゃくちゃドーナツ食べてみたい。それはきっと未知のおいしさなのだろうね、ふうう、楽しみすぎて心が爆発しそうだぜえええええ」


 七つの大罪のメンバーと老齢の玄武と冥王のブランディ―とのゆっくりとした顔合わせが無かったが、簡単な自己紹介をそれぞれがし終ると、

 僕達は色々な準備をして、旅に出る事となる。


 野営する時に使う道具等を購入しようと思ったのだが、

 玄武にそれは止められる事となった。


「いざという時はわしの伝説魔法があるのでご安心を」

「頼りにしているよ」


 僕たちは門に到達していた。


 そこから出れば、街道沿いに行く事で、ミリーシャ王国に到達する。

 受付嬢から紹介状を渡されているので、

 これを国王の側近または衛兵に渡せば取り次いでくれる。


 そして門には4名の男女がいた。

 最初仲間達と談笑しながらだったので気付かなかったが。。


 その声を聞いて戦慄していた。


「ったく、あのガキがゴミダンジョンを攻略してきたぞ、やべーんじゃねーか」

 

 名前の知らない剣士が呟くと、


「ふふ、考え過ぎよ、シーフだって偶然見ただけで亡霊かもしれないわよ」


 名前の知らない女性回復術死が呟き、


「信じてくれよ本当に見たんだよ」

 

 必至で弁明しているのはシーフであった。


「ふむ、人が通るぞ、避け……」


 僕の視線と老齢の魔法使いの目があった。


 僕モードから俺様モードに強制的移行する。

 

 次の瞬間。


 俺様は跳躍していた。


 武器を構える隙などなかった。

 俺様は拳1つで剣士を取り押さえる。

 地面に叩きつけて気絶させると、

 冥王が事情を察知してくれて、

 右足で回復術師の女性の足を蹴り、

 倒れた所を気絶させる。


 老齢の魔法使いは逃げようとするも、玄武に捕まる。

 最後にシーフは逃げ道を失い、

 投降してきた。


 4人の元仲間、とはいえ本当に少しの間だけしかいなかった。

 彼らは目を覚ますと、

 玄武の魔法により拘束されており、

 無理やり逃げようとするも、


 頑丈な魔法に動く事すら出来ない、

 それもそうだろう伝説級の魔法なのだから。


「リュウケン、どうしたの? そんなに怒る事なの? こいつらクズのせいで、あたし達はあなたに出会える事が出来たのよ」


 サリィーが怯えながら告げてくれる。

 それだけ僕の瞳に宿る憎悪が怖いらしい、

 

 他のメンバー達は衛兵を呼びに行った。


 この門にはなぜか衛兵がいなかった。

 色々と忙しいのだろうけど、不用心だと思う。


「なぁ、お前ら何人、ダンジョンに追放して殺してきた」


「ひ、ひひ、10人は超える」


「そいつらはどうなった」


「さぁ? ゴミダンジョンに入って行ったのだろう、それでモンスターに殺された。お、お前だけが異常だ」


「異常で悪かったなぁ、さて、お仕置きが必要なようだが、君たちは収容所でがんばってくれ」

「た、頼む、逃がしてくれ、10人以上もやっているとばれたら、処刑されるかもしれない」



 そう呟いたのはシーフであった。

 シーフ、彼は涙を浮かべているが。


 衛兵がやってくると、俺様はにかりと笑って見せる。


「彼らが追放事件の犯人達です」


「ご協力ありがとうございます。では連行して行きますね」


 玄武が魔法を解除すると、

 そこに縄で縛り上げられた4人の冒険者達がいた。

 彼らは冒険者から追放されているので、

 今後どうなっていくかどうでもいいが。


「なぁ、感謝するよ、色々と、これだけの力を手に入れられた事をな」


 だが4人は黙って連行されて行くだけ、

 彼らの瞳は絶望しかなかったのだから。


 全てがスカッとした。しかし何か心の中に残る気持ち悪さ。

 これが自己満足に浸った結果なのかもしれない。


 自分の気持ちをスカッとさせる事に集中し、

 道徳感、つまり正義の心が刺激されたのだろう、


 あの4人を助けるという事、

 だがそれはいけないのだ。


 そこで正義心が発動する。

 ここで見逃せば、また被害者が増える。


 今回俺様だった事、そして俺様には力があった事。

 そういう事なのだ。


 これは運命、そして必然、そして偶然なのだから。


「皆ごめん、色々と嫌な所を見せてしまった」


 七つの大罪のメンバーは1人ずつ励ましの言葉を送ってくれた。

 玄武と冥王は腕組みをしながら、俺様の言葉を待っていた。



「では仕切りなおして、ミリーシャ王国へ行こう」


 その時仲間達が大きな声でえいえいおーと叫んだ。

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