第19話 「逃げ水」

アスファルトの歪みのなかを

もう何年も歩いている

太陽は容赦なく浴びせ続け

一滴さえも絞り取ろうとする

汗も涙も魂の澱みさえも


すり減っていく靴底とともに

乾涸びてゆく肉塊

道の先に揺れるオアシスが

心の向かい処

あの場所へとどいたら

きっと補充できるのだ

失ったものの半分は、きっと


呼吸を忘れる目眩

振り返ることの恐れ

立ち止まることの罪

ひとり課しては

ひとり科して

放熱に溶けきれず

残滓(ざんさ)はもがく

まだ向かうは眩惑の煌めき

焦がれる安息の地はもう間もなく


果たして道は続く

通り越してしまったか

消失してしまったか

呼び止める風の影も掴めず


見上げると太陽が口を開けて嗤う

遥かな熱源の元に向かって

声を絞り出して猛り立つ

音になれない心の奮え

憔悴に泣く骨の軋み


足掻け、怒れ

熱はこうこうと降ってくる

手を伸ばしても

陽玉を握りつぶすこともできず


すべては逃げ水のせい


真上に敵わないならば

地をゆくまでか

張ってでも


惑わしの

縮まらない距離の

縮まると錯覚しようにも

指先さえも触れることのない

逃げ水のせいにして









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【詩 Drop】言葉のドロップたち 小箱エイト @sakusaku-go

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