第17話 「逆さまの道」

いつのまにか、貴方は上の道にいたのです。

貴方が行先を決めた瞬間の、まぶしい光。

一緒にその先を見ることはできないだろう。

どうしてか、私はそう思ったのでした。


いつのまにか、私は下の道にいたのです。

ガイドもレールも、備えはなく、

ピンホールほどの導きも見えず、

あるのは、小さな選択で、

貴方の背中を見送った日に、拾った小石。


上の道を、もう中ほども進んだ貴方は、

私の知らない滋養を纏い、

後悔も、迷いも、その風貌からは窺えません。

『それなりに、よいではないですか』

たしかに貴方は、私にそう云った。


でこぼこな生き様を、

尊重してくださったのですね。

足の裏は厚く強張り、手の先にはささくれが、

背中には泥水を、目の先には夢想を。

たしかなものは、滴る汗。

振り返ると、細く蛇行する跡があります。

だからきっと、これは私の道なのでしょう。


踏み出した足の間を、白い蝶が通り抜けます。

何かの便りのような気がして、

股の間から、蝶の行方を覗きます。


それは、逆さまの世界。


上の道が下になって、見下ろしたそこには、

数珠のような連なりが、競い合うように、

ごろごろと転がっていきます。

今まさに、貴方が顔を真っ赤にして、

抜きん出ようとしています。

でももう、誰が誰だかわかりません。

せめて私は、貴方に声援(エール)をおくりましょう。

「それなりに、よいではないですか」

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