第16話 「ねぶたのもんどりこ」

もどり囃子が流れ出(い)づ

最後の熱のひと息 吐いて

宴の風を溶かしゆく 哀しき調べ

ひゅ ひゅるる るう

たしかにあった歓喜と興奮

諭すように なだめるように

笛の音(ね)の誘(いざな)いはサヨナラの唄


もどり囃子が流れゆく

ひとつひとつ 残像をなでるように

さざ波のような一打、一打が

ざん ざざんざ ざん

腹の底に 胸の奥 耳の後ろに

落ちるように 刻むように 

太鼓を震わすバチの名残よ


もどり囃子が流れ入(い)ん

華やかな情景おりて

弾(はじ)く音から愛しみ 寂寥の裏声か

しん ししんし しん

われらが放(はな)った掛け合いを

拾うように 包(くる)むように 

擦りあう鐘の響きは深く


もどり囃子が流れ沁(し)む

浴衣からはぐれた鈴が 道端まで転がりて 

誰かの願いの 使いのように 

りん りりんり り

ささやくように 呼ぶように

名残惜しき跳人(はねびと)の

揺れる襷(たすき)の影を見送る

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