序章1

「群青の空の下で」のルーク視点でのあらすじ



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺の名前はルーク・ディ・ビレア。大陸最北の国、タランテラ皇国第3騎士団所属の竜騎士だ。2年前の飛竜レースで1位帰着を果たし、上級騎士と認められて敬称を許される身分となった。今では小隊長として部下2人を押し付けられただけでなく、なぜだかフォルビア総督となったヒース卿の補佐役に任命されている。

 巷では何だか大げさなあだ名もつけられているのだが、正直に言って恥ずかしい。俺はただ単に相棒の飛竜エアリアルと自由に空を飛びまわるのが好きなだけなんだが……。


 1年前、タランテラの穀倉地帯となっているフォルビアを乗っ取ろうとしたラグラスが内乱を起こした。彼にはこの国を支配しようとしたワールウェイド大公グスタフと大陸そのものを手に入れようと目論んだ準賢者ベルクが手を貸していた。

 欲にかられたこの3人が引き起こしたこの内乱は、大陸全土を揺るがす騒動にまで発展した。しかし、元々ベルクの専横を快く思わない各国の国主方の尽力もあり、内乱はそれぞれが自滅する形で決着がついた。


 今にして思うと2年半前の冬、当時はまだロベリアの総督で第3騎士団の団長だったエドワルド殿下がフレア様をお助けした時にはベルクの手はもうこの国に及んでいたのだ。

 ベルクは本来、清貧であるはずの神官の身でありながら欲に目がくらみ、神殿が使用を禁じている薬物を作り、秘密裏に売りさばいていたのだ。今までは聖域に無許可で住み着いた難民を利用していたのだが、グスタフと手を結んだことによってこの国で大規模な薬草園を作り、その薬物を大量に作る計画を推し進めていた。

 薬草園は完成し、元々薬物を作らせていた村は跡形もなく破棄されていた。元々聖域にお住まいだったフレア様は盗賊に襲われた村があると聞き、慰問の為にその村を訪れたときに巻き込まれたらしい。殺されなかったのは、ベルクが彼女に懸想していたのを知っていた彼の部下の独断だったからだ。

 この北の国まで連れてきたのは、すぐにベルクの元へ連れて行っては居場所がばれると危惧したからだろう。彼女の養父母は最強の番と言われているブレシッド公王夫妻。交流が途絶えているタランテラでもその名が知られている大陸随一の実力者だったからだ。

 後から知った話だが、途中休憩した折に妖魔に襲われ、彼等はあの方を置き去りにして逃げたらしい。そのため、ベルクには盗賊に襲われて死んだと報告し、彼もそれを信じていたようだ。


 フレア様は記憶を失っておられた。村娘のような恰好をしておられたので、俺達は近隣の村々を回って身元を確認しようとしたが、それは徒労に終わっていた。加えて目も見えておらず、処遇に困った殿下はフレア様を自身の身内でもある当時のフォルビア公グロリア様にお預けになられた。

 不思議な方だと思った。保護した折の身なりと異なり、その所作はどこの貴族の令嬢にも劣らないほど優雅で美しかった。加えて内包する竜気は一般の竜騎士をはるかに凌駕りょうがしていたことから、彼女は大母補候補として育てられたのではないかと考えられていた。しかもその強力な竜気により、飛竜や小竜に同調して彼らが見ているものを見ることができる。竜騎士であれば誰でもできる技ではあるが、長時間続けるのはなかなか難しい。このことからも彼女の身近に竜騎士が居た可能性が高いと考えられた。

 かくしてフレア様を気に入られた女大公様は、フロリエという仮の名前を与え、自身の話し相手として身元を引き受けられることとなった。一線を退き、領内の別荘に隠棲しておられたあの方は、生後間もなく母親と死別した殿下の姫君コリンシア様も預かっておられた。大人ばかりの中で寂しい想いをしておられた姫様は、フレア様によくなつき、一緒に過ごすようになっていた。


 穏やかとは言い難いが、それでも幸せな時を過ごしておられたと思う。1年経った頃、殿下とフレア様は互いに想うようになっていた。そんな中、グロリア様が持病の発作を起こされ、倒れられた。一時は持ち直されたのだが、年が明けて間もなく息を引き取られた。今際いまわに互いに想いを通じあわされた殿下とフレア様を祝福し、満足そうに微笑んでおられた。

 女大公様は後継者を明言されておられなかったが、遺言書の中に記されていた後継者は、殿下との仲を後押しする意味も込めて養女に迎えられたフレア様だった。但し、コリンシア様が成人するまでのつなぎという形をとり、そして婚姻を結ぶことと書き添えられていた。

 これに納得しなかったのはラグラスをはじめとした親族達だったが、既に組紐の議を終えて夫婦となっていた殿下が一同を黙らせた。加えて、立ち会っておられた殿下の次兄で国主代行を務めておられたハルベルト殿下やサントリナ大公、ブランドル大公の賛同を得られ、フレア様が期間限定のフォルビア大公として認められたのだ。

 ロベリア総督と第3騎士団長の職をそれぞれの後任に託した殿下は、女大公の夫としてフォルビアの立て直しに着手していた。不正を働いていた親族達に処分を下し、彼等の使い込みのおかげで滞っていた公共事業を再開させた。

 国政を牛耳っていた当時のワールウェイド大公グスタフも前年の夏至祭の折の失態で謹慎中だったこともあり、これでフォルビアだけでなくタランテラ全体がいい方向に進んでいくとこの時は誰もが思っていた。


 始まりは大陸南部にある神殿の総本山、礎の里で開かれる国主会議に向かわれたハルベルト殿下の訃報だった。弟であるエドワルド殿下に何も知らされないうちにその葬儀は終わっていたのだ。

 その知らせが届いたとき、殿下とご一家は領内視察を兼ねて馬車でフォルビア正神殿に滞在中だった。運悪く嵐のただ中で、雷を嫌う飛竜達を呼び寄せることができず、殿下は騎馬で飛竜を預けている別荘まで戻られる決意をされた。しかし、その途中でラグラスの雇った兵に襲撃され、ご一家は行方が分からなくなってしまった。油断していたつもりはなかったが、グスタフと結託したラグラスの方が一枚上手だったのだ。

 俺達がご一家の行方を必死に探している間に状況は一層悪くなっていった。ラグラスは殿下の死亡を発表し、あろうことかその罪をフレア様に擦り付けた。しかも共犯とされたのは奥方様の侍女をしている俺の恋人オリガで、姫様を人質として逃亡したとして手配されたのだ。だが、俺達は殿下が生きて捕えられているのを知っていた。どうにか助け出そうと情報を探っていたのだが、その最中に今度は奥方様の死亡、更には殿下の片腕で俺の師匠ともいうべきアスター卿の死亡も伝えられた。

 そしてグスタフは病の悪化したアロン陛下とハルベルト殿下のご家族を幽閉し、エドワルド殿下の長兄ジェラルド殿下の遺児で自分の孫であるゲオルグを国主に据える準備を始めたのだ。甘やかされて育った彼は素行が悪く、国主の器ではないことは明らかだ。

 更にグスタフは俺達の味方であるサントリナ家とブランドル家の力を封じ、自分達の勢力を確たるものにするため、ハルベルト殿下の皇女アルメリア様とゲオルグの婚礼を発表したのだ。俺の友人、ブランドル家のユリウスと婚約していたのにも関わらずだ。陛下と母親であるセシーリア様を人質に取られれば、アルメリア姫も否とは言えない。こうして俺達を取り巻く状況は日に日に悪くなっていったのだ。


 しかし、欲でのつながり程脆いものはない。ラグラスを筆頭としたフォルビアの親族達はさらなる利益を得るために互いを出し抜こうとけん制し合い、ついには内部分裂を起こした。結局、グスタフの後ろ盾を得ていたラグラスが他の親族を排除し、フォルビアの実験を掌握した。

 そんな状況下の中、密かに各国の支援が始まっていた。まずは海洋王国タルカナの海軍が討伐した海賊船から護衛としてハルベルト殿下に同行し死亡したはずの竜騎士達を救助した。受けた傷と使用された怪しげな薬も相まって命を長らえたのはわずかであったが、それでも彼らの証言がグスタフの公式な発表と異なることに違和感を覚えたらしい。

 そして苦難の逃避行の途中で記憶を取り戻されたフレア様は、どうにか追っ手を逃れてタランテラを脱出し、そして故郷である聖域にたどり着いていた。事情を知った彼女の家族は全力で彼女の無実を晴らすことにしたのだ。下手に他国には介入できないという制約があるため、秘密裏に入国した彼等は入手した情報を次々と我々に知らせてくれた。

 その貴重な情報を得たのもあり、俺達は行動を起こすことにした。まずは皇家の慣習で婚礼を前に神殿に祈りを捧げに祖霊を祭る霊廟神殿へ赴いたアルメリア姫をユリウスが救い出した。皇都の大神殿で済まされるところだったのを母親のセシーリア妃が強く願ったのもあり、グスタフは何か一つぐらいは譲歩してもいいだろうと気まぐれをおこしてくれたらしい。圧倒的に有利な状況下にあり、彼も少し油断していたのかもしれない。

 同じ頃、フォルビアでは立ち合いにゲオルグを招いてラグラスが大公位の認証式を行おうとしていた。同時にグスタフの愛妾の娘マリーリア卿との婚礼を挙げることになっていたが、ワールウェイド家で冷遇されていた彼女が自分から望んだ結婚ではないことは明らかだった。1年だけだが竜騎士として第3騎士団に配属されていたので、彼女は俺達にとっては仲間も同然である。エドワルド殿下だけでなく彼女も助けるためにも俺達は慎重に計略を練った。

 アルメリア姫がいることで俺達の正当性は示され、殿下救出のためのフォルビア城襲撃の手筈は整った。その前夜、俺達に心強い味方が加わる。死んだと思われていたアスター卿が生きていたのだ。瀕死の重傷を負っていた彼はマリーリア卿の故郷の村にかくまわれ、グスタフの目を欺くために死んだことにしていたらしい。

 かくして戦力を十二分に整えた俺達は就任式の前祝で浮かれるラグラスが居るフォルビア城を襲撃した。飛竜で城へ直接乗り込んだので、真っ先にラグラスとゲオルグの身柄を抑えた。そしてエドワルド殿下の生存はごく一部の人間しか知らなかったこともあり、その事実が知れ渡ると、フォルビア側の抵抗は無くなり城は瞬く間に制圧された。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次もあらすじです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る