第29話 日向との泊まり旅行 1

「うぅー……、あ……、そうか。今日は博多に旅行をしに行く日だったな。」


 僕は、日の光に当てられて目を覚ますと、目が赤くならない程度に軽くこすりながら、そうつぶやいた。


 ベッドから、立ち上がりクローゼットから僕の私服を取り出すと、すぐにそれに着替え始めた。


「まだ眠いなー……。まぁ、昨日に大急ぎで準備をしていて寝るのが遅かったからだろうけど。」


 昨日は結局のところ、11時くらいに寝た。気まずさからか、少し動きが遅かったからだろう。


 昨日の用意をちゃんとまとめると、日向の部屋に向かった。


 コンコンッ


「……はーい……。」


「……あっ、今日は日向、ちゃんと起きているんだな。」


 昨日は僕と同じくらいに寝て、いつもより遅かったはずなのに、今日は寝坊しなかったということに少し驚きながら、僕は日向の扉を開けた。


「日向、おはよう。」


「おはよー……。」


 扉を開けると、ベッドから立ち上がり、あくびをしていた。


「ちょっと待っててー……、すぐに用意するから……。」


「今日は、日向、自分で用意するの?」


「うん。」


「じゃあ僕は………よし、日向の荷物を先に玄関に持っていておくよ。」


「おっ、ありがとー。」


 そして、僕の荷物と日向の荷物を持つと、僕は階段をおりて、玄関の方に向かった。


 さすが、2日分の用意というべきなのか、結構重かった。さらに、2人ぶんだし。


「あ、おはようございます。」


「お、おはよう。今日は料理長さんの方に早めに朝ごはんを作ってもらうよう頼んでおいたから、もうそろそろできると思うよ。」

 

「あ、そこまですみません。ありがとうございます。」


「いいよいいよ。」


 そして、玄関に荷物を起き終わると、ちょうど日向が降りてきた。


「あ、日向。もう朝ごはんできていると思うから、一緒に食堂行く?」


「オーケー。分かった。」


 僕たちは食堂に向かって歩いた。そして、朝ごはんを食べ終わり、一通りの朝の用意を終わらせると、荷物を持った。


「じゃあ、そろそろ行く?」


「うん。行く。」


 そう言って靴を履いていると、後ろからおばあちゃんが僕に向けて声をかけた。


「あ、車を外に止めているからそれに乗っていきなさい。」


「あ、車まで、ありがとうございます。」


「楽しんでいってね。」


「はい。」


「うん。」


 そして、駅についた。


「駅か……。すごい久しぶりな感じがするよ。中学のころは、普通に自転車だったから、駅を使ったのは修学旅行ぶりかな。」


「あ、私もそんな感じがするよ。いつも車だったからねー。」


「あ、うん……。」


 僕のは、お金の無駄だから電車を使わなかったみたいな理由なのに、日向は車を使っているからっていう理由で、少しお金持ちも違う理由ではあるけど、同じ状況になったりするんだなー、と、勝手に想像しながら駅に入った。


「えーっと、この乗り場でいいんだよね。」


「うん、多分だけどね。」


 そんな話をしていると、ちょうどホームに新幹線が入った。そして、止まったと同時に空いた扉に入った。


 1、2分くらいが経つとナレーション?のような……まぁ、声が響き、それとともに新幹線が動き出した。


「楽しみだねー。」


「うん。僕、九州の方にはじめていくよ。どんなところなんだろうね。」


「私も初めてなんだー。本当にどんなところなんだろう?まぁ、ガイドブックをみたから、どんなものがあるのかは分かるんだけど、やっぱり自分の目で見たいよねー。」


 僕は、そんな話をしながらワクワクと興奮していた。そして、それと同時に流れていく景色を見ていた。


 僕は、日向がどっちでもいいよ、ということで、窓側の席の方に座らせてもらった。


「あ、おにぎりいる?新幹線が走っている間に小腹がすいたら食べていいよ、ってもらったんだ。」


「でも、まださっき朝ごはん食べたばかりだよね。」


「まぁまぁ。」


 と言って、なにか少し強引に僕に向けておにぎりを渡す。


「ねぇ、いまさらって感じであるから少し申し訳ないんだけど、よく教室で小説ばっかり読んでいたよね。なにか好きな本とかあるの?」


「うーん……、まぁ……うぅ………、決められないよ。」


「じゃあ、好きなジャンルとかは?」


「えーっと……あのー……笑わないでね。」


「いやいや、好きなジャンルを聞いただけで笑うって。笑わないよ。」


「……そう?なら…………僕が好きなジャンルは、恋愛系なんだ。」


「……恋……愛……?プッ、ハハハハハ!」


 僕が、そういった途端、急に日向は笑い始めた。ちゃんと笑わないでって言ったのに笑うから少し苛ついてしまった。


「もう、笑わないでって……!」


 でも、今は旅行の気分で少し興奮しているからか、あまり起こる気にはなれない。


「あ、ごめんごめん。でも、確かに笑っちゃうわ。」


「うぅー……。」


「でも、なんで好きなの?」


「……うーん……。分からない。でも、面白いから……かな?」


「そう?じゃあ、私も読んでみようかなー。」


「なら、僕がオススメの本を紹介してあげようか?えーっとね。………。」


 と、僕らは本で盛り上がっていた。そして、その話も終わると、日向は先に寝ておけば眠気も消えるはずということで寝てしまった。


 僕は、眠らず、ただ窓から田園の風景を見ていた。


 まぁ、眠らなかったというよりも、眠れなかったという方が正しいのだろうが。


 そして、田園の方を見ていたというよりは、田園の方しか見れなかったという方が正しいのだろうが。


 なぜなら、僕の隣には、僕の方を借りて寝ている日向がいたから。


 少し、興奮があるからそれのおかげであまり顔を赤くすることはなかったけど、恥ずかしくて、日向の方を見れなかった。


 だから、日向が寝てからの僕は新幹線の間はずっと、窓の方を向いていたのだった。

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