第24話 体力測定の本番 1
そして、いつの間にか体力測定本番になっていた。
「……日向はどうするんだろう。ジョギングをまだ2分くらいしか出来てないよ……。」
「まずいよね……。」
僕は注目されることもないだろうしいいんだけど、日向は違う。
いつも、クラスの中心に立っていたんだから。期待されているんだし、運動がすごいできるみたいな、どこからかそんな感じの噂もでてきている。
そのために、低い記録を出すわけにはいかない。
ただ、どんなに頑張っても、運動神経は壊滅的。これはもう無理だな。
うん、諦めるかな。
みたいなことを、僕は登校中に考えていた。
横を見てみると、日向もだいたい同じことを考えていそうな顔をしている気がする。
僕は、この状態だといろいろとやばい気がするので、どうするのか聞いてみることにした。
「……ねぇ日向。どうするの?」
「どうしようか……。こうなったら、体調が悪いって言って、後日にして後で目立たないところでしようかな……。」
「無理でしょ。それに、目立たないところでしても、日向だから目立ちそうだし。」
「うぅ……。」
日向は、ジョギングを2日でやめてしまったことを後悔しているようだった。
どうすればいいか、解決方法を考えていると、それがまとまるよりも前に、学校に着いてしまった。
「うわぁ……もう着いちゃったよ、日向。」
「……終わったー……。」
もう目が点になっている。完全に諦めているであろう顔だな、なんて思ってしまうほどだ。
このままでは、日向がいろいろと終わってしまいそうなので、励まし……になるのかは分からないけど声をかけることにした。
「とりあえず、本気を出せばいいんだよ。そうすればなんとかなるんじゃない?」
「……なんとかならないでしょ。」
「あっ……そうかもね……。」
と、いうことで結局励ますことができずに終わってしまったのであった。
教室に入って椅子に座ってから10分くらい経ったころ、先生が教室の中に入ってきた。
「よしっ、じゃあ始めるぞ!」
「起立!」
そして、朝のホームルームが始まった。今日は、体力測定だけだ。そのため、体力測定を終わらせると、すぐに帰れるのだ。
まぁ、早く帰ることができるということについては嬉しいのだが、でも体力測定のことは少しいやだ。自分が出来ないっていうことがあるし、それ以上に今年は日向のほうが心配だ。
そんなことを考えながら挨拶をしていると、先生が話を始めた。
「ほい。早速、体力測定について説明するぞ。」
「まずだが、クラスごとにいろんなところを順番に回ってもらう。」
「あ、あと…………。」
そして、先生の話が終わった。
簡単にまとめると、クラスごとにいろんな種目を測ってもらうということ。
この1年3組は、50メートル走、立ち幅跳び、長座体前屈、握力、上体起こし、ソフトボール投げ、持久走、シャトルランの順に測っていくらしい。
結構厳しいかなと思う。日向がよく見られてしまい、でもあまりうまく出来ない競技が後半の方で多くあったからだ。
こうなったら、疲れたときに大変な競技をするという事なので、危ないだろう。
そして、体力測定が始まった。
まずは、50メートル走だ。50メートル走は、僕は10秒台だった。高校1年にもなって10秒台の人は遅いんだろうな……。
……なんて毎年同じように思っていたんだけど、今年はすこしちがうんだよなー……。
いつもは僕のことぐらいしか考えないのに、今年は日向のことがあるし、いろいろと考えてしまう。
……こんなことが、あるんだな。
なんて思いながら、日向の順番まで待つ。
「おっ、あの水谷日向が走るらしいぞ!」
何分か経つと、誰かがみんなに声をかけた。その人の方を見てみると、中学のときに見たことのある人だった。多分、中学が同じ人だろう。
その声に反応して、僕は日向の方を見ていた。すると、日向は走る直前だった。
ピッ!
先生の鳴らしたホイッスルと共に、日向は隣にいる人と一緒に走り始める。
すると、どうだろうか。日向は、すごい速さで隣にいる人との距離をどんどんはなしていったのだ。
……え?
僕はびっくりしてしまった。もしかして、瞬発力がすごかったからとか?それとも、わざと下手なふりをしていたとか?
意味がわからなかったので、何でこんなことになっているのか聞いてみることにした。そして、日向の方へ向かって聞いてきた。
「すごい速いじゃん!どういうことなの?」
「……はぁ、はぁ……え……?……いやいや、10秒台なのに……?」
「……え?」
意味がわからない。こんなに速かったのに10秒台?
そして、その謎はすぐに解明された。
日向と一緒に走っていた人が、ひとりで落ち込んで、こう呟いていたのだ。
「あぁ、今年も13秒台か……。」
あ、そういうことか。
思わず笑ってしまった。日向は速くなんかない。隣で走っていた人が遅くて速く見えてしまっただけなんだ、と分かってしまったから。
「そういう事だったんだ……。」
僕は、小さくそう呟いたのであった。そして、日向の隣で走っていた人に悪いな、と思いながらもこの偶然に感謝した。
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