第22話 体力測定の練習

 その出来事があったのは、ある日の事だった。


 僕は、いつものように校門で日向を待っていた。そして、日向が来ると、あの豪邸まで向かって歩き始めた。


 その時の会話のことだった。


「ねぇ。」


「なに?」


「体力測定があるじゃん。それで、いい記録が出したいの。協力してくれる?」


「うん、まぁいいけど。」


 僕は、「うん、まぁいいけど」と簡単に言ってしまったことにすごく後悔していた。僕は、日向の運動神経を、人並みくらいかなー、なんてなめていたのが間違っていたと、後で気付かされた。


 おかげで……なぜだか今、こんな状況におちいっている。


「うぅ……。こんなの絶対無理だってー。長距離とかもう嫌だよ。」


「えぇ……。まだあと残り半分くらいあるよ……。」


 まず、持久走がどれくらいあるのか試してみるために、走ってもらったのだが、今日向がいる地点、つまり、疲れて諦めてしまった地点は、まだスタート地点から、1キロメートルも超えていなかった。


 ちなみに持久走は、女子は1、5キロメートルを走らなければならない。つまり、あと3分の1は残っているということ。


「こんなのを……ちゃんと走りきれるようにして、それでさらに、普通のレベルくらいだろ?無理だろ……。」


 その後もいろんな競技を試してみたのだが、そのどれもが壊滅的。なんとか長座体前屈は、女子だからか身体が柔らかくて、人並みだが、所詮それくらいだけだ。


 50メートル走も10秒代。握力も1桁で、ソフトボール投げは、ほぼ真下にソフトボールを投げているし。


 どことして、いいところがまったくないと思うんだけど、どうしよう……。


 こうなったら、もう日向の希望によって決めることにするか。


「なぁ、日向はなんで上手にできるっていうところをみせたいの?」


「そりゃあ……、みんなの期待を裏切りたくはないし……。」


 やっぱりそうだよなー。だから、人前で目立つ競技の実力をなんとかして上げることにするか。


 50メートル走は、まぁまぁ目立つな。

 立ち幅跳びは、それほど注目され……いや、日向は人気だからされるな。

 長座体前屈は、人並みあるからまぁ別にいいし、握力は自分くらいしか見ないのであまり必要ないかな。

 ソフトボール投げは、すごく目立つな。遠くから見てもよく分かるんだし。

 持久走は、最後の一人とかになるとすごい目立つよね。

 上体起こしは、支えている人にバレる。

 シャトルランは、早めに休んだらばれる……よな。


 だから、投げる能力と、走る能力の2つをきたえれるのが一番の考え……かな。


「よしっ、じゃあ練習は走ることと、投げることを鍛えましょう。」


「はい!先生!」


 ……先生って言われるのなれないな。少し照れるよ。


「体力測定があるのは、今からあと1週間後の18日のことです。」


「はい、そうですね、先生!」


……ん?


「だけど、毎日きつい運動をしていたら面倒くさくなるよね。」


「はい、そうですね、先生!」


…………。


「だから、走るということを鍛えるために、毎朝ジョギングをする事にしよう。」

「そして、投げるということを鍛えるために、動画とか見てコツを研究しよう。」


「分かりました、先生!」


「ねぇ、ところで日向。もしかしてだけど、僕を先生って言うことを面白がったりしていないかな?」


「なんのことでしょう、先生!」


「……。」


 やっぱり絶対に面白がっているな……。最初は、なんだか照れたんだけど、何度も何度も言われると、流石におかしいって気づいたよ……。


 そして、毎朝早起きをするために、スマートフォンの目覚ましアプリを初めて使ってみた。この家に目覚まし時計なんてなかったからだ。


 ……まぁ、スマートフォンの目覚ましアプリなんて、執事さんに起こすよう頼もうとしたら、それのことについて教えてもらって、今さっき気づいたことなんだがな。しょうがないよね。


 まぁ、アプリに気づいたなんていう、本当にどうでもいいようなことは置いておいて、明日の朝から、地獄のジョギングが始まったとさ。

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