第20話 自己紹介 2

 校門で一旦別れて、日向に先に教室に向かわせると、1分程度その場で待機してから、僕は教室に向かった。


 教室に入ると、もう9割来ていた。そして、僕が座るとその途端に佐藤先生が教室に入ってきた。やっぱり、結構ギリギリだったらしい。


「じゃあ、ホームルーム始めるぞ!はい、起立して!」


 佐藤先生のその声、というより掛け声で、みんなは椅子から立ち上がる。そして、先生の「お願いします」という声に続いて僕たちも「お願いします」と言う。


 そして、今日の日程について、先生に伝えられた。


 まず1時間目は、自己紹介用紙を参考にして一人一人自己紹介をする。

 次に2時間目は、家庭調査票だったり健康診断表だったりを配られた。


 家庭調査票を使って先生と面談するから明日に出してほしいらしい。一方で、健康診断表は、健康診断をするときに必要らしいから、来週の月曜日までに持ってきてほしいらしい。


 まぁ、一つ一つ出すのが面倒ではあるので、一気に全部をだそうとおもっているが……。


 まぁ、そんなつまらない話が終わると、自己紹介にうつった。


「よし、まずは俺からだな。俺は佐藤猛だ。」

「あ、平仮名にして書いたらいけないぞ。あの有名な俳優になっちゃうからな。さとうたけ……ゴホンゴホン。」


 そんなギャグをいろんなところに含ませながら、佐藤先生は自己紹介をした。少し笑わない人が多かったが、それはみんなが緊張しているし、さらに芸人じゃないからしょうがないということで。


「ほい、じゃあ最初は、一番の……えーっと、阿部くんからお願いな。」


「は……はい……。」


 先生に呼ばれると、教室の前に立って、自己紹介をするらしい。そのため、ほとんどの人が緊張で、自己紹介用紙を震えさせていた。


「じゃあ次は……小夜くん。どうぞ、前に来て。」


「……はい。」


 僕の番だ……。頑張ろう……いや、普通にできればそれでいいか。


「僕は、小夜日陰です。さやっていうのは、小さい夜でさやです。出身中学校は……。そして、僕の得意なことは……………。」

「……です。よろしくお願いします。」


 よろしくお願いします、と、自己紹介を区切ると、拍手がきこえた。前の自己紹介をした彩人と比べると小さい拍手だったけど、他の普通の人と比べると、同じくらいだったのでいいという事にした。


「はい、ありがとう。じゃあ、次は、水谷さん。よろしく。」


「はい。」

「私の名前は、水谷日向です。出身中学校は………。私の、趣味は………。」

「私の目標は、みんなと仲良くできたらいいな、と思っています。よろしくお願いします。」


 そして、最後に日向は、僕に対して……いや、みんなに対してニコッと微笑む。


 すると、その途端に大きな拍手の音が、教室中に響いた。僕の自己紹介のときとは、もう比べ物にならないほどだろう。


 そして、その拍手の中、日向は僕の隣の席に戻ってくる。


「どう、良かった?」


「いや、この拍手を聞いていれば分かるでしょ。すごい良かったよ。」


「そう、てへへ、ありがとう!」


 ぐふっ……。刺激が強い……。


 てへへとか、声に出している人、いるんだな。小説では、表現の技法ということだと思っていたんだけど……。


 そして、その後も、いろんな人の自己紹介を聞いて聞いて聞いて聞いた。


 ……いつの間にか聞いていなかったときがあったけど……。


 まぁ、みんなの自己紹介を終えると、先程説明したいろんな書類をもらって解散となった。





そして、登校中のこと


「それにしても、中学校と同様に、日向はあの豪邸で住んでいることを秘密にするんだね。」


「うん、だって、お金持ちだからって、寄ってくる人を居なくするためだよ。なんか嫌じゃない?」


「でもまぁ、日向は可愛いし、クラスの中心人物と言っても過言ではないから、結構日向と仲良くなったって、その称号を得るために寄ってくる人、いるんじゃない?」 


「…………。」


ん?


 返事がないなー、なんて思って、横を見てみると、顔を赤くしてうつむいている日向がいた。


「えっ!?日向大丈夫?顔赤いよ、もしかして熱かな……。」


 そして、熱かどうか確認するために、今朝の事も記憶から抜けていて、思わず手を日向のおでこに当ててしまっていた。


 でも、今、日向が熱かどうか心配で戸惑っている僕にとっては、そんなことを忘れていた。


 熱い……。どうするの?おんぶとか、なにかしたほうがいいのかな。


「……大丈夫、だよ。」


「えっ、でも結構熱いよ。危ないんじゃない?おんぶとかしたほうがいい?」


「だい、じようぶ、だから。」


「本当に?」


「うん。」


 そして、家に戻った。


 夜、もう平静の自分に戻っていた僕は、もう1度考えてみると、自分が言っていたことや、自分がしたことなどに気づいて、そして、日向がなぜ顔を赤くしていたかに気付いた。


 そして、僕はひとりで後悔し、恥ずかしがっていた。


 そして、恥ずかしがっていたのは、隣の部屋にいる日向の方も、同じように。

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