第12話 校長先生

試験当日


 僕は、今日はお婆ちゃんにお願いして、日向の世話係を休ませてもらうことにした。


 ちなみに、お婆ちゃんは「いいよ、いいよ。」と代わりの人に手伝わせることで、僕をなんとか休みにしてくれていたみたいだ。


感謝。センキュー。シェイシェ……


ゴホンゴホン。


 まぁ、すごい感謝している。


 とりあえずいるか要らないかわからないけど、とりあえず記念にでも残しておこうかなー、ということで、この水谷家の豪邸に制服を持ってきて、幸運だったなー、なんて考えながら、僕はその服に着替えた。


 そして、「行ってきます」とこの豪邸に声をかけると、僕は学校に向かって歩き始めた。


 しかし、もともと高校になど行く気がなかったため、学校の道など分からない。

 そのため、僕はスマートフォンの地図アプリを使って目的の高校に向かった。


 スマートフォンって、やっぱり便利な物だなー、なんて考えながら、歩きスマホをして。


 そして、学校につくとお婆ちゃんが言っていたことを思い出す。


 えーっと、たしか、まず先に校長室に向かえ、だっだっけな。それで、校長室はまず玄関から入ってすぐ近くにある階段を上り……。


 そして、苦労する中、やっとのことで校長室に向かうことができた。


 着くと、僕は思わず自分の記憶力を少し尊敬していた。



 今日は土曜日だ。そのため、校長室へ向かう途中、人はほとんどいなかった。でも、全くいない訳ではなく、部活できている生徒や、事務の先生だったりが来ていた。


 校長室の前に立つと、深呼吸して、目の前にある校長室の扉をノックした。


コンコンッ


 すると、その中から、僕の声よりも低い声で、「どうぞー。」という声が聞こえた。


 ……まぁ、男の先生である限りはほとんどがそうなのだけどな、


「失礼します。」


 そう言って入ると、すぐ前には校長先生がいた。校長先生は、生徒たちの椅子や机とは大違いですごくきれいだと思った。


 そして、その周りの壁には、今までの歴代の先生であろう人の肖像画が、飾ってあった。


「おぉ、よく来たね。君が小夜君ですか?いつも、娘の手伝い、それに、私の妻の命の恩人でもあるらしいではないか。本当にいろいろとありがとう。」


「は、は、はい。あ、ありがとうございます。」


「娘になにかしていないだろうねぇ。なにかしていたら、もうその時点で首がとんでいただろうなー。ハッハッハ!」


「ははは……。」


わ、笑えねーー……。


「まぁ、それはおいて、君にいくつか質問、いや、面接みたいなものをしていいかな?」 


え、えーっと……、あ、そういうことか。学校に入るときは面接は必要だよね。


「はい、じゃあまず1つ目だ。小夜君はどうして執事として働くことにしたのかい?」


 ん?これ、学校の面接じゃなくて……じゃあこれは、執事としての方の面接!?


やばいよやばい。これの仕事がなくなったらもう終わってしまうじゃん!


 そして、僕は校長先生に認められるため、なにかお手本みたいな答えを出そうとした。でも、お婆ちゃんの家系だしなー……、心読めそうだしなー……、とか自分で見ても変な事だと思いながら考え、僕は正直に答えることにした。


「はい、僕は、正直に言うと、この仕事が見つかる前は、何度も何度もいろんなバイトの面接をしました。しかし、全て落ちてしまって……。だから、ここで働きたいというよりとも、僕はここでしか働けないということになりますね。」

「でも、もしここより多い量お金がもらえる所があるとしても、そこには就かないと思います。」


「それは、また、どうして?」


「はい。僕はここの仕事が楽しいからです。お金の量と同時に、僕はその仕事の楽しさも求めています。すこし、欲張りすぎですかね?でも、多分ここより楽しいバイトはないと思っています。」

「それに、日向と一緒にいると、いろいろと楽しいですし、それと同時に、充実しています。」


「そうなのかい、ありがとう。」

「それにしても、小夜くんは日向のことを日向って呼ぶんだね。」


ん?


「…………あ」


 なんで、人前で日向って呼び捨てで呼んじゃうんだよー!

 とくに、日向のおじいさんのまえで使ったらいけないだろ!


 はぁ、この前にもなにかこんなことがあったよね……。


 僕って、ドジっk……


 ゴホンゴホン。


「あ、いや、そのー……。」


「仲がいいんだね。」


「……すみません。」


「いやいや、別にいいんだよ。」

「まぁ、何個か他にもあったけど、さっきの質問で、小夜君がいろんなことを答えてくれたから、大体のことはわかったよ。この面接は終わりだ。ありがとう。」

「じゃあ、これから学校の試験の紙を持ってくるから少し待っていてね。」


「あ、はい。分かりました。」


 そう言うと、校長先生はこの校長室からでて、どこかに向かった。

 でも、何をしたいのかはわかる。なぜなら、さっき言っていたから。試験用紙を持ってくるんだろう。


 が、しかし、校長先生が持ってきたものは、試験用紙などでは無かった。


「え?これって……。」


 そこにあったのは、この学校の試験に合格した事を示す紙だった。


「あぁ、そうだよ。小夜くんは、合格だ。始業式の日に、また会おうね。」


「これって流石にいけないんじゃないんですか?」


「いやいや、大丈夫だ。だって、日向に勉強を教えられたんだろう?」


「まぁ……。でも、それだけじゃ……。」


「いやいやいや、すごいことだよ?日向は、自慢じゃないけど、勉強がなぜか天才的にできなくてね。」

「だから、たまに家庭教師を呼んでいたんだが、全然分かってもらえなかったらしくてね、みんな諦めて帰るんだ。」

「だから、小夜君におしえてもらったとき、始めて勉強が理解できた、始めて楽しいと思えたかも、と私に言ってきたんだ。」


「そ、そんなことが……。」


 確かに、勉強の悪さは、天才的ではあるけど、でも、ちゃんと教えれば分かってもらえたんだよね。

 だから、そんなに悪いなんて信じられないけどなー……。


「小夜君は、何でこんなに頭がいいんだい?」

「昔の成績を見させてもらったが、そこまで良いとはいえなかったよね。」


「ははっ、多分ですけど、僕はいつも暇なときに、勉強ばかりしかしていないんです。っていうか、勉強くらいしかすることがないっていうか……。」

「まぁ、それが原因なのかなー?とは思いますけど……。」

「あ、あと成績ですが、それ多分、授業のほうが壊滅的に悪いからだと思います。」

「多分中学校3年間、1回も手をあげてませんから。」


「ははっ、そういうことか……。」

「でも、私が言うことでもないが、勉強をそんなにしていて楽しいのかい?」


「楽しくないわけではないですね。でも、かと言って、楽しいといったら嘘になりますね。」


「そうかい。ありがとう。」


「いえ。」


 そして、僕は学校に行くこととなった。


 勉強会開いた意味なかったなー、とか、校長先生、前の中学校に比べて優しかったなー、とか、いろんなことを考えながら、僕は日向たちの待つ家に帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る